「お薬を飲み始めてから、吐き気を感じることが増えた」
「口の中がパサパサで、ごはんが砂のように感じる……」
うつ病の治療を始め、少しでも楽になりたいと願ってお薬を飲み始めたのに、副作用で「食べる楽しみ」まで奪われてしまうのは、本当につらいことですよね。
私自身も、うつ病の当事者として、そして管理栄養士として、この「食べられない苦しみ」を身をもって経験してきました。
特に飲み始めの時期は、心だけでなく体も薬に慣れようと必死に戦っている最中です。
この記事では、
「頑張って料理を作らなくてもいい」
「今ある食事を少し工夫するだけで、食べる苦痛を減らす」
ための、選び方と食べ方のコツをまとめました。
全部やる必要は全くありません。
もし『これならできそう』と思えるものが一つでも見つかれば、気が向いた時にだけ試してみる。
そんな、ゆるい気持ちで大丈夫です。
【注意】
この記事で取り上げているお悩みには、副作用以外の原因が隠れていることもあります。
もし症状が大きい時、
長期にわたって改善しない場合は、
内科や主治医の先生にご相談ください。
吐き気・胃の不快感がある時の「安心ルール」
抗うつ薬の飲み始めなどに起きる吐き気は、体が慣れるまでのサインであることが多いです。
でも、無理は禁物。まずは安全確認から始めましょう。
🚩 まず確認:こんな時は迷わず内科へ
以下の場合は、薬の副作用以外の原因や、脱水の危険があります。
無理に食べようとせず、早めに内科を受診してください。
📌起きている時間帯に6時間以上
おしっこの量が極端に少ないとき
📌水分を摂っても吐いてしまうとき
📌下痢を伴っているとき
確認できたところで、吐き気や胃の不快感があるときの食事のコツをお伝えします。
① 水分補給を優先する(脱水予防)
食べられなくても、水分だけは少しずつ摂りましょう。
【おすすめ】
経口補水液、スポーツドリンク、市販のカップスープなど。
【コツ】
一気に飲まず、「一口飲んで休む」を繰り返します。
常温や、少し温かいものが胃に優しいです。
② 食べれるなら「冷たくて、におわない」もの
「食べられそうかな?」と思ったら、以下のものを試してみてください。
【おすすめ】
小さめのおにぎり、サンドイッチ、豆腐、ゼリー飲料など。
【コツ】
「温めない」のがポイントです。
湯気とともに立ちのぼる「におい」を抑えることで、ムカムカを回避しやすくなります。
③ 量は「食べきれるだけ」でOK
「1日3食」というルールは、今は忘れて大丈夫です。
「1食分を2〜3回に分ける」つもりで。
一度に胃が広がると吐き気が強まるため、「数口食べては休み、また後で」という小分け食べが胃をいたわります。
下痢がちな時は、お腹を刺激しない工夫を
抗うつ薬が胃腸にある「セロトニン」の受容体に働きかけると、吐き気を起こすだけでなく腸の動きにも影響を与え、下痢も起こしやすくなります。
下痢がつらい時は、以下の点を意識すると効果的です。
① 腸への刺激を一時的に抑える
良かれと思って口にしているものが、実は腸に負担をかけているかもしれません。
・カフェイン
コーヒーやエナジードリンクに含まれるカフェインは、腸の動きを活発にしすぎることがあります。
・果糖(ジュース)
果糖(かとう。糖の一種)の摂りすぎは、正常な腸であっても下痢を引き起こす原因になることがあります。
・糖アルコール
ガムや飴に含まれる「キシリトール」や「還元水飴」などは、体質によってはお腹が緩くなることがあります。
一時的なもので過大な心配はいりませんが、気になるときは摂取を控え、不安な場合は医師に相談してみてください。
② 主食や飲み物を「低FODMAP(低フォドマップ)」なものへ
最近の研究では、(FODMAP:フォドマップ)と呼ばれる特定の糖類を控える食事が、下痢の改善に有効だとされています。
FODMAPに該当する糖は、大腸の手前にある小腸で吸収されにくい性質があり、大腸にある糖の濃度を元に戻そうと水を呼び寄せるために下痢を悪化しやすくなります。
このため、以下のものを選ぶと改善される可能性があります。
📌主食はお米。特におかゆ、卵雑炊も〇
📌水分は水や麦茶にこれらはカフェインを含まず、腸への刺激も少ないため、下痢の時でも取り入れやすい「低FODMAP」です。
③水分補給は「経口補水液」を少しずつ
下痢の時は体から水分や塩分が失われやすいため、適切な水分補給が欠かせません。
市販のスポーツドリンクより下痢を悪化しづらい「経口補水液」を選び、5分〜10分ごとに一口ずつ、ゆっくり時間をかけて飲むのがコツです。
④お酒は控えて腸を休ませる
大量のお酒を一度に取ると下痢を悪化させやすいという報告があります。
利尿作用による脱水のおそれもあるため、体調が安定するまでは、アルコールは控えて腸をゆっくり休ませてあげましょう。
便秘がちな時には、「頑張らない」科学的な近道を
抗うつ薬のなかには、胃腸の動きを活発にする「副交感神経」を抑える働き(抗コリン作用)があります。
そのため、腸の動きがゆっくりになり、お通じが滞って便秘になりやすくなるのです。
便秘は食物繊維を足すことで改善する場合があります。
とはいえ、しんどい時に「野菜をたくさん食べよう」と頑張るのは難しいですよね。
そこで、コンビニやスーパーで買える、調理いらずで食物繊維がとれるお助け食材をご紹介します。
①「プラス1品」で補う食物繊維
どれも袋を開けるだけ、あるいはいつもの食事に添えるだけでOKです。
📌海藻類(めかぶ・もずく・海藻サラダ)
ヌルヌルした「水溶性食物繊維」が豊富で、便を柔らかくしてくれます。
📌豆類(納豆・枝豆)
納豆は発酵食品としての力もあり、一石二鳥です。
枝豆は冷凍のものでも十分。
📌バナナ:
コンビニでも手に入りやすく、手軽に食物繊維とエネルギーを補給できます。
②キウイフルーツ、プルーン
どちらも排便回数を増やしたり、便を出しやすくしたりする効果が指摘されています。
③パンよりも「ごはん(お米)」を選ぶ
パンよりも、お米や豆類に含まれる食物繊維の方が、日本人の便秘には有効という報告があります。
④水分補給は「のどが渇かない程度」で十分
「たくさん水を飲まなきゃ」と無理をする必要はありません。
大量の水を飲んでも便秘が劇的に治るわけではないことが分かっています。
無理なく飲める範囲で楽しみましょう。
口が渇いて飲み込めない時は「水分ととろみ」を意識
抗うつ薬の副作用として口の中が異常に渇く症状に悩まされる方も少なくありません。
これは、便秘と同様、抗コリン作用により副交感神経を抑えて唾液の分泌を抑えてしまうために起こります。
唾液には「食べ物を湿らせて、飲み込みやすい形(食塊)にまとめる」という大切な役割があります。
そのため、口が渇くとパンやごはんが口の中でバラバラになり、喉に張り付いて「飲み込めない」「味がしない」といった苦しみにつながるのです。
この「砂を噛むような感覚」を和らげるためのコツをお伝えします。
①一口を「小さく」して、水分を挟む
一度に口に入れる量を少なめにし、飲み物や汁の水分を補うことで、少ない唾液でも処理しやすくできます
②「水分量の多いメニュー」を取り入れる
口の中が渇いている時は、もともと水分を多く含んでいる食材を選ぶのが基本です。
【選び方のコツ】
パンよりは、ごはんを。ごはんよりは、お粥やリゾット、雑炊を選んでみてください。
パンが食べたい時は、スープや牛乳に浸して食べる「ひたパン」にすると、喉の通りが劇的に良くなります。
煮物や蒸した料理も水分が多くおすすめです。
③「とろみ」でコーティングして流し込む
飲み込む力が弱まっているのではなく、まとめる力が足りないだけ。
それなら、食材の表面を「とろみ」でコーティングしてあげましょう。
【選び方のコツ】
レトルトの中華丼、親子丼、カレーなど、全体に「あん」や「ルー」が絡んでいるものは、唾液の代わりをしてくれます。
納豆、めかぶ、オクラ、なめこのお味噌汁など、
ヌルヌル・ネバネバした食材や、
ゼリー、プリン、ヨーグルトも、
のど越しが良くおすすめです。
どうしてもつらい時は、専門医に相談を
ここまで食事の工夫をお伝えしてきましたが、一番大切なことをお伝えします。
それは、「食事の工夫はあくまで補助であり、副作用を一人で我慢し続ける必要はない」ということです。
もし、この記事にあるような工夫をしても食事が摂れず、日常生活に支障が出ている場合は、迷わず主治医に相談してください。
お薬の量や種類を変えたり、副作用を抑えるためのお薬を併用したりすることで、今の苦しみが劇的に楽になる可能性があります。
もし、今の主治医に相談しにくいと感じたり、納得のいく対応が得られず不安を感じたりする場合は、別の専門医の意見(セカンドオピニオン)を聞くという選択肢もあります。
日本精神神経学会のサイトでは、「精神科専門医」を地域ごとに検索できます
ので、通いやすいところを探してみることも検討してみてください。
おわりに:あなたの「食べたい」を大切に
最後にもう一度、副作用を楽にするためのポイントを振り返ってみましょう。
📌吐き気がある時
「冷たいまま」「油を控えて」「ちょこちょこ」食べる。
📌便秘の時
「キウイやプルーン」「お米」を味方に。
水分は無理に増やしすぎなくて大丈夫。
📌下痢の時
刺激物(カフェイン・果糖など)を「引き」、
水分補給は「経口補水液」を少しずつ。
📌口が渇く時
「水分」と「とろみ」で喉越しを助け、潤いを。
うつ病の治療は、長いマラソンのようなものです。
時には向かい風(副作用)が強くて、一歩も前に進めない日もあるでしょう。
でも、この記事でお伝えしたことを「すべて完璧に」行う必要は全くありません。
栄養バランスを整えるのは、もっと元気になってからで大丈夫。
今は、もし「これならできそう」と思える工夫が一つでも見つかれば、気が向いた時にだけ試してみてください。
「今日は何も試さない」と決めて、ただ体を休めることも、立派な治療の一つです。
あなたが少しでも「あ、これなら食べられそう」と思える瞬間を大切にしてほしい。そう願っています。
あなたの心と体が、食事の知恵を通して、少しでも穏やかな方向へ向かいますように。
本ブログでは、この記事以外にも
うつ病の方の体調や気持ちを前提にした
食事・栄養に関する記事をいくつか書いています。
もし余裕があるときに、
目に留まったものだけ読んでもらえたらうれしいです。
ブログで取り上げてほしいテーマや、
深堀りしてほしい点があれば、
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右上の✉マークより受け付けていますので、
お気軽にお寄せください。
参考サイト
〇吐き気・胃の不快感
急性腎障害のための KDIGO 診療ガイドライン【推奨条文サマリーの公式和訳】p7(2026/2/18閲覧)
国立がん研究センター東病院 栄養管理室. “吐き気・嘔吐がある方のお食事” . (2026/2/18閲覧)
〇お通じ
日本消化管学会. “便通異常症診療ガイドライン2023慢性便秘症” . p71-75 (2026/2/18閲覧)
日本消化管学会. “便通異常症診療ガイドライン2023慢性下痢症” . p36-39(2026/2/18閲覧)
〇口の渇き
厚生労働省. “重篤副作用疾患別対応マニュアル 抗がん剤による口内炎
. p17 (2026/2/18閲覧)
国立がん研究センター中央病院. “口の中の乾燥、口内炎を軽減するには
. (2026/2/18閲覧)