あの日、彼女の笑顔を前にしてついた“裏切りの嘘”――。
それは私にとって、長いあいだ胸の奥に残る痛みでした。
占いとは、人の心に触れること。
けれど同時に、占う自分の心もまた、そっと試される瞬間でもあるのだと知りました。
泣きながらカードを並べた夜、私は初めて“自分の中の声”と向き合いました。
「占いって、なんだろう。」
「本当の優しさって、どんな形なんだろう。」
何度も何度もシャッフルして、引いて、戻して。
そして出てきたカードは「節制」。
“心のバランス”“調和”“静かな信頼”を意味するカード。
その瞬間、ふっと腑に落ちました。
――「相手の心を動かす前に、自分の心を整えなさい」と。
それ以来、私は占う前に必ず深呼吸をします。
「この人の心に寄り添う覚悟はあるか」と、自分に問いかけながら。
占いは、未来を決めるためではなく、
今の心をやさしく見つめるための“鏡”だと思うようになりました。
だからこそ、私は少し距離を置いています。
「占い師」としてではなく、
“心をのぞく案内人”として、ただ隣を歩くように。
やがて私は大学生になり、時代はバブルの真っただ中。
けれど、遊び惚ける暇もなく、アルバイトと学業に追われる毎日でした。
地元を離れ、初めての一人暮らし。
カードはいつしか、机の引き出しの奥にしまわれたままでした。
成人式の頃、久しぶりに帰郷したとき、
あの彼女に再会しました。
「はくちゃん!! 久しぶり!」
彼女は、あの頃よりもずっと綺麗になっていました。
懐かしさと、あの日の記憶が胸をざわつかせました。
「ごめん。あの時、実は……」
私はあのときの占いのことを、正直に打ち明けました。
彼女の信頼を裏切ったことを謝りたかったのです。
彼女は驚いたように笑って言いました。
「なんだ、そんなこと。わかってたよ。顔に出てたもん。」
そして少し照れくさそうに続けました。
「実はね、あのとき彼とうまくいってなかったの。
でも今は、もっと素敵な人に出会って幸せ。
はくちゃん、また占ってよ。今度は、バシッとね。」
その言葉に、涙がにじみました。
あの日の“裏切りの嘘”を、彼女は優しさで包んでくれたのです。
自分の弱さも、彼女の強さも、
ようやく受け入れられた瞬間でした。
その夜、二人で朝まで語り合い、笑って、泣いて、飲み明かしました。
あれから何年もの時が経ちました。
彼女はその後、本当に幸せな家庭を築き、
今では孫に囲まれて笑っているそうです。
私は、あの再会をきっかけに、もう一度カードを手に取りました。
けれどそれは、“誰かを占うため”ではなく、
“自分の心を整えるため”。
人生の嵐の中で、カードは私の心を支える静かな灯になっていきました。
✿ つづく(次章予告)
時が流れ、愛する人を見送ったあと――
私は再び「占い」と向き合うことになります。
痛みと静けさの中で見つけた、“新しい意味の占い”。
そして、それを誰かのためにもう一度届けたいと思えた瞬間。
次回、「神様がくれた時間 ― 家族で過ごした日々のこと。」編へ。