今日は、朝から雲ひとつない秋晴れ。
気持ちよく深呼吸ができる、そんな一日のはじまりでした。
私の部屋のベランダからは、運がいいと富士山が見えます。
富士山が顔を出している朝は、「きっと今日は良いことがある」と思い、
つい手を合わせて拝んでしまうのです。
今日も、しっかり拝みました。
では――昨日の続きでございます。
“こっくりさん事件”のあと、私はしばらくカードを手放しました。
怖かったのです。
あの日の空気、動いた十円玉、ざわつく教室。
そのすべてが、子どもながらに「触れてはいけない世界」と感じさせました。
でも、時間が経つにつれ、ふとした瞬間に思い出すのです。
あのカードたちの香り、ページをめくる音、占いをしていた頃のワクワクした気持ち。
「怖い」よりも「懐かしい」という気持ちのほうが、少しずつ大きくなっていきました。
中学校に入ると、日々は一変しました。
楽しい!うれしい!だけでは動けない、現実的な毎日。
そう――“受験戦争”と呼ばれた時代のまっただ中。
タロットの存在は、気づけば私の中から遠のいていました。
高校生になったある日、久しぶりに立ち寄った本屋で、
再びタロットカードと目が合いました。
あの頃と同じように、美しい絵に心を奪われ、手が勝手に伸びていました。
カードを手に取った瞬間、胸の奥が“ふわっ”と温かくなったのを覚えています。
「もう一度、やってみよう。」
そう思ったとき、あの日怖かった“見えない世界”は、
もう“優しく見守ってくれている何か”に変わっていました。
タロットカードと本を胸に抱え、レジへ向かう帰り道。
なぜか涙が出そうになりました。
あの頃の自分に「おかえり」と言われたような気がしたのです。
それからは、毎日のようにカードを引き、
自分の未来や、たまに恋愛のことを占う日々が始まりました。
そんなある日、小学校からの友達から久しぶりに連絡があり、会うことに。
彼女は、驚くほど綺麗になっていて、
同じ年なのに、まぶしいほど大人の女性に見えました。
「はくちゃん、彼氏ができたの! 同じ学校の、とっても素敵な人!」
そう言って笑う彼女の表情が、あまりに幸せそうで、
聞いている私まで胸がドキドキしてしまいました。
すると彼女が言いました。
「ねぇ、はくちゃん。“理科準備室の占い師”は、復活してないの?
私、あの時占ってほしかったんだよ。準備室が閉鎖されちゃって、
お願いできなくて、ちょっと悔しかった。」
その言葉に、私は一瞬躊躇しました。
やはり、まだどこかで“見えない世界”への畏れがあったのです。
けれど、「悔しかった」という一言と、
彼女のまっすぐな目に背中を押され、思わず答えていました。
「やってるよ。」
カードは、いつも習慣でバッグに入れてありました。
その場で、彼女と彼氏のことを占いました。
……出たカードは、あまり良くなかった。
女性の影がちらつくような、そんな配置。
背中を変な汗が伝いました。
(どうしよう。言うべき? でも今、こんなに幸せそうなのに――)
心の中で何度も迷いました。
そして、少し間をおいて、私は口を開きました。
「うーん。まぁまぁ、良いかな……。」
「ほんとに? はくちゃん、ほんとに?」
「うん、大丈夫だよ。ただ、彼の周りは少し気をつけておいてね。
占いとか関係なく、そんなに素敵な人なら他の女の子も放っておかないでしょ。」
「そっかぁ。良かった! はくちゃん、昔から嘘つかないから信用できる! ありがとう!」
その言葉に――胸がぎゅっと痛みました。
あぁ、私は彼女の信頼を裏切ってしまった。
その夜、家に帰って泣きました。
カードを前に、心の中で何度も「ごめんね」と呟きながら。
✿ 次回予告
この出来事が、私に“占うことの責任”を教えてくれました。
次回は、そこから少しずつ形を変えていく、
「占いと心の距離」について、お話ししようと思います。