連写しても「バッターがヒットを打った瞬間」は撮れない スポーツ写真はこれだけ難しい

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「いいカメラを買ったら、スポーツ新聞みたいに、野球やサッカーの写真もバッチリ撮れる」と考えている人が、たまにいます。

そういった人にありがちな誤解が、「野球の試合では、プロのカメラマンもバッターを連写で撮っている。短い間に何枚もシャターを切るので、その中に打った瞬間の写真も入っている」です。

間違いです。確かに連写していますが、その途中のコマに打った瞬間が混じっていることはありません。カメラマン自身も、ほとんどバッター並みにタイミングを合わせ、1コマ目で撮ります。

そうしている理由と、これがどのくらいの難度かをご説明しましょう。

連写で「打った瞬間・打ったボール」が撮れる確率は20パーセント?

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どれだけ高速の連写ができるカメラを使っても、バットを振り下ろすところからシャッターを切り始めると、インパクトの瞬間は、コマとコマの間に入ってしまいます。

これをご理解いただくために、先に3つの数値を挙げておきます。
(1)打球の初速=秒速50メートル

エンゼルス・大谷翔平が特大のホームランを打ったときの打球の初速は時速180キロ前後のようです。秒速にすれば50メートルです。特別速い初速のようですが、今回はこれで計算します。

(2)バットとボールが接触している時間=0.0005〜0.002秒

(3)カメラの連写でシャッターが切れる間隔=0.1秒

ニコンのホームページを見ると、ミラー式の一眼レフカメラは、6台紹介されています。1秒間の連写数がもっとも多いのがD6の14コマ、少ないのがD810 Aの5コマです。この6台のうち2番目に多く、数字の切りもいいD500 の10コマで考えます。

また、ミラーレスならば高速連写の機種もたくさんあります。しかし、「ファインダー内の映像がリアルよりも遅れる」が最大の理由で、スポーツ写真にあまり使いません。今回は無視します。
「打った瞬間」は文字通り考えれば、バットとボールが接触しているタイミングです。もう少し幅を持たせて、「バットとボールが接触」から「接触した位置からボールが1メートル先」の間とします。

また、(2)はほかとはケタが違う小さい数字なので、無視していいでしょう。

前置きが長くなりました。ここから、「打った瞬間・打ったボールを連写で撮るシミュレーション」をします。

もし、「バットとボールが接触」の0.05秒前に連写の1コマ目を切ったとします。2コマ目は「接触」の0.05秒後なので、ボールはすでに接触した位置から2.5メール先にまで飛んでいます。バッター中心の写真にしたいのならば、間延び気味です。それどころか、ボールは画像の中に収まっていないかもしれません。

違う考え方をします。シャッターの切り始めのタイミングは「バットを振り始めたどこか」とし、あとは連写に頼るとします。

シャッターが切れるのは、0.1秒に1回です。0.1秒あれば、ボールはバットに当たった位置から5メートル飛んでいます。OKなのは、そのうちの0〜1メートルです。言い換えれば、「連写すれば、当たった位置から5メートル先の間のどこかで1 回シャッターが切れる。だけど、絵になるのは0〜1メートルのところだけ」です。これが出たとこ勝負なので、「1÷5」で確率は20パーセントです。

「連写で、『打った瞬間・打ったボール』が撮れても、それはたまたま。まぐれに過ぎない」といっていい数字ではないでしょうか。

これを「2メートルまでOK」とし、秒14コマのD6を使うとします。コマごとの間に打球が飛ぶ距離は約3.6メートルなので、約56パーセントの確率(2÷3.6)になります。「条件を甘くし、カメラも1台70万円以上のを使って、半分強の確率」ということです。こちらでさえ、「撮れるといえなくもないが、確実性に欠ける」ぐらいのところでしょう。

また、業界外の人のいう「連写で撮っているんでしょ?」は、おそらく。ハイスピードカメラで撮った映像並みの連続画像をイメージしています。「打った瞬間・打ったボール」のシーンが連続して何コマもあり、新聞紙面に使っているのはうちの1コマというのです。

しかし、ここまで見てきたことからわかるように、「2メートルまでOK、秒14コマ」で撮ったとしても、「打った瞬間・打ったボール」はあっても1コマだけです。

バッターの実際の撮り方

私が全国紙にいた最後のころでも、デジカメは性能が低く、スポーツはフィルムカメラで撮っていました。プロ用機とはいえ、連写は秒6コマか7コマ程度です。もちろん、連写に頼っては「打った瞬間・打ったボール」は撮れません。

実際には連写はしていましたが、あとの「バットを振り切ったところ」「1塁ベースに向かって走り出したところ」を押さえるためでした。シャッターボタンを押すのは、「打った瞬間・打ったボール」を1コマ目で狙ってです。

ここで問題になるのが、シャッターが切れるまでのタイムラグです。主に3つあります。
(1)目で見た光景を参考にして、「シャッターを切ろう」と頭が判断してから、指先が動くまで(視覚刺激反応時間)

(2)シャッターボタンを押し込むのにかかる時間

(3)シャッターボタンが押し込まれたのに反応し、カメラが実際にシャッターを動かすまでの時間(レリーズタイムラグ、シャッタータイムラグ)
(1)は当然個人差はあり、同一人でも体調で変わるでしょう。ただ、一般的には0.2秒前後とされています。(2)はシャッターが反応するギリギリまで半押しにすることで、短縮できます。プロはそうしています。(3)は機種によって変わります。ミラー式の速いもので0.04秒前後、遅いと0.1秒ぐらいのものもあります。

結局、(1)(2)(3)を合わせると、もっとも短めに見て、0.3秒前後ではないでしょうか。

ちなみに、ピッチャーのリリースする位置で多少異なりますが、時速150キロの投球がキャッチャーのミットに届くのにかかる時間は、0.44秒です。

これらのことは、「ピッチャーがボールをリリースするのと大差ないタイミングで、シャッターを切る判断をしないといけない」を示しています。「『打った瞬間・打ったボール』の写真を撮るには、ピッチャーの腕の振りでシャッターのタイミングを合わせるか、あるいはリリースされた直後のボールの位置で合わせる」ということです。

実際にそうしていました。そのため、1塁側カメラ席・3塁側カメラ席に入るときは、「片目でファインダー内のバッターを、残りの片目では直接ピッチャーを見る」が一般的です。

最初に、「カメラマンも、ほとんどバッター並みにタイミングを合わせ……」と申し上げた理由が、ご理解いただけるのではないでしょうか。

「打った瞬間・打ったボール」ばかりがいいと限らない

実は、「打った瞬間・打ったボール」の写真は、100発100中ではありません。私のようなヘボで、しかも、勤務先が一般紙のためにスポーツ撮影がたまにしかない者にしたら、「撮れていればラッキー」ぐらいの感じでした。

ただ、「バットを振り切ったところ」でも十分使えるだけの絵になります。むしろ、「打った瞬間・打ったボール」ばかりになったら、紙面は単調過ぎるでしょう。また、1 塁側から左バッター、3塁側から右バッターを撮るときは、背中側から撮ることになり、「バットを振り切ったところ」などしか撮れません。

つまり、「打った瞬間・打ったボール」には必ずしもこだわる必要はありません。仕事としてやっている者でさえそうなので、一般の人はなおさらでしょう。

スポーツ写真を撮るには、職人技が必要

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今回話題にしたのは、スポーツ写真の中でも野球だけ、野球の中でもバッターだけ、バッターの中でもシャッターチャンスだけです。望遠レンズの使い方などほかの主要な話には全く触れていません。

野球を撮れるようになるだけでも、これから写真を始める人には、かなりの道のりになるでしょう。

また、球技の中では、野球は比較的撮りやすいほうです。というのは、シーンの多くはベース上で発生します。望遠レンズを振り向ける方向が、どちらかといえば限られているのです。たとえば、盗塁ならば、2塁ベースか3塁ベースに向けて待っていれば、そうは撮り逃しはありません。

ラグビーやサッカーであれば、タックルやシュートがどこであるか予測はほとんどつきません。それでも、プロのスポーツカメラマンは写真をものにします。

「スポーツを撮るにはかなりの職人技が必要」と覚悟したほうがいいでしょう。

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