家族から見ると、以前とは明らかに様子が違う。
誰もいないのに話をしていたり、「誰かに見張られている」と言ったりする。
心配して受診を勧めても、
「自分は病気じゃない」
「病院なんて行く必要はない」
と嫌がる。
それでも家族には、このままでいいとは思えません。
心配だからこそ、何とか受診してもらおうとする。
ところが、言えば言うほど本人が怒ったり、家族の話を聞かなくなったりすることもあります。
精神科の現場では、こうしたご家族の悩みに何度も出会ってきました。
家族からすれば、
「どうして自分がおかしいことに気づかないんだろう」
と思うかもしれません。
でも、ここには家族から見えているものと、本人が体験しているものとの間に大きな違いがあります。
本人にとっては「本当に起きていること」
たとえば、本人に「誰かの声が聞こえる」と言われたとします。
家族には何も聞こえません。
でも、幻聴がある本人には、その声が実際に聞こえています。
幻視の場合も同じで、家族には見えないものを、本人は現実のものとして体験しています。
そこへ、
「そんなことがあるはずない」
「病気なんだから病院に行こう」
と言われても、本人からすれば簡単に納得できません。
むしろ、
「どうして信じてくれないんだ」
「自分をおかしいと思っている」
と受け取ることもあります。
統合失調症では、自分が病気であるという認識を持ちにくい場合があります。
これを「病識が乏しい」と表現します。
家族には受診が必要に見えていても、本人は同じようには感じていない。
まず、この違いを知っておく必要があります。
「病気なんだから」という正論が、拒否を強くすることもある
家族は心配だからこそ、
「このままだともっと悪くなるよ」
「病気なんだから治療したほうがいい」
と伝えたくなります。
ただ、本人が「自分は病気ではない」と思っている場合、その言葉は違う意味で受け取られることがあります。
「自分を病人扱いしている」
「無理やり病院に連れて行こうとしている」
と感じることもあるからです。
家族がさらに強く説得しようとすると、本人もさらに拒む。
病識が乏しい状態では、家族と本人が同じ前提に立っていません。
だから、正論を重ねるだけでは届きにくいのです。
受診を勧める家族そのものを嫌がることもある
受診を勧め続けることで、本人が家族に嫌悪感や警戒心を持つこともあります。
家族は「あなたのため」と思っていても、本人には「また病院の話をされる」と感じられる。
それが続けば、受診の話だけでなく普段の関係まで悪くなることがあります。
ただ、
家族の言い方が悪かったから、こうなった
と単純に考えないでください。
病識が乏しい本人を受診につなげることは、もともと簡単ではありません。
「受診させる」ことだけを考えない
「どうしたら病院に行かせられるか」ばかり考えていると、本人とのやり取りが受診の話だけになってしまいます。
少し視点を変えて、
何を怖がっているのか。
何に困っているのか。
何をつらいと感じているのか。
そこを見てみます。
本人の話を、家族も事実だと認める必要はありません。
「誰かに見張られている」と言われたとき、
「本当に見張られているんだね」
と同意する必要はない。
でも、
「そんなわけないでしょう」
とすぐに否定すれば、本人が話さなくなることもあります。
見張られていると感じて、怖い思いをしていることには目を向けられます。
受診の話をする場合も、
「あなたは病気だから」
と認めさせるところから始めるのではなく、
「あなたのことを心配している」
と伝える方法もあります。
ただし、これで受診につながるとは限りません。
本人の状態や家族との関係によっては、受診の話そのものに強く反発することもあります。
病識の乏しい本人を受診につなげるのは、簡単ではない
私は精神科領域に30年ほど携わってきました。
その中で、病識が乏しく、受診の必要性を感じていない方とも関わってきました。
そこで感じるのは、本人を受診につなげることは決して簡単ではない、ということです。
「否定しなければいい」
「優しく話せばいい」
「寄り添えばいい」
それだけで受診につながるとは限りません。
家族がどれだけ言葉を選んでも、本人が拒むことはあります。
だから、すべてを家族の接し方の問題にしてほしくはありません。
本人の状態や症状、それまでの経過、家族との関係によっても変わります。
家族だけで「どう受診させるか」を抱え込まない
本人は病院に行く必要はないと言う。
でも家族から見ると、このままでいいとは思えない。
そんなときは、「どう説得するか」だけではなく、一度、今の状況を整理してみることも大切です。
いつ頃から様子が変わったのか。
本人は何を訴えているのか。
受診の話をすると、どんな反応をするのか。
こうしたことを振り返ると、次に何を考えるべきかが見えやすくなります。
受診につなげる方法は、その人、その家庭によって違います。
必要に応じて、医療機関や地域の相談機関などに相談しながら考えることも必要です。
なお、本人や家族の安全が脅かされているなど、緊急性が高い場合は別です。
その場合は、受診の勧め方だけで対応しようとせず、早めに医療機関や地域の相談窓口などへ相談してください。
「うちの場合は、どうしたらいいんだろう」と迷っている方へ
病識が乏しい方への対応に、すべての家庭に当てはまる答えはありません。
本人の状態も、経過も、家族との関係も違います。
だから私は、
「こうすればいい」
と決めつけるより、
「今、何が起きているのか」
を一緒に整理することを大切にしています。
受診を勧めるたびに怒られる。
何を言っても聞いてもらえない。
このまま様子を見ていていいのか分からない。
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今一番困っていることを一つ取り上げ、本人の様子やこれまでの経過を伺いながら、一緒に整理していきます。
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