忘れられない人を、少しずつ手放すまで(第9話)

記事
コラム
本当は、あの人より「あの頃の自分」を失うのが怖かった

忘れられないのは、
あの人だけだと思っていた。

あの人の声。

あの人の笑顔。

あの人の言葉。

あの人と過ごした時間。

それが忘れられないから、
こんなに苦しいのだと思っていた。

でも、少しずつ時間が経つ中で、
ふと気づいた。

私が手放せずにいるのは、
あの人だけではないのかもしれない。

あの人を好きだった頃の自分。

会えるだけで嬉しかった自分。

連絡が来るだけで、
一日が明るくなった自分。

未来を少しだけ信じていた自分。

「この人となら大丈夫かもしれない」と
思えていた自分。

私は、その頃の自分も
失うのが怖かったのかもしれない。

恋をしていた時の私は、
毎日の中に小さな楽しみがあった。

今日は連絡が来るかな。

次はいつ会えるかな。

今度は何を話そうかな。

そんなことを考えるだけで、
少し心があたたかくなった。

服を選ぶ時間も、
メッセージを考える時間も、
会える日まで待つ時間も、
どこか特別だった。

あの人に会う日は、
いつもの景色まで少し違って見えた。

駅までの道。

待ち合わせ場所。

一緒に歩いた帰り道。

何でもない場所に、
思い出が増えていった。

だから、恋が終わった時、
あの人を失っただけではなかった。

その場所に向かう楽しみも。

連絡を待つ嬉しさも。

誰かを思って少し浮かれていた時間も。

「私も愛されているのかもしれない」と
感じていた自分も。

一緒にいなくなってしまった気がした。

それが、思っていた以上に寂しかった。

私は、あの人のことが好きだった。

でも同時に、
あの人を好きでいる時の自分のことも、
どこかで好きだったのかもしれない。

誰かを大切に思える自分。

小さなことで嬉しくなれる自分。

未来を想像して、
少しだけ前向きになれる自分。

そんな自分が、
恋が終わったことで急にいなくなってしまったような気がした。

だから、苦しかった。

あの人がいないことも苦しい。

でも、あの人を好きだった頃の私に、
もう戻れないことも苦しかった。

別れたあと、
思い出すのは相手のことだけではない。

あの頃の自分も思い出す。

笑っていた自分。

期待していた自分。

信じようとしていた自分。

少し無理をしていた自分。

それでも、一生懸命だった自分。

あの時の私は、
不器用だったかもしれない。

寂しさをうまく言えなかったかもしれない。

我慢しすぎたかもしれない。

期待しすぎたかもしれない。

でも、ちゃんと本気だった。

ちゃんと好きだった。

ちゃんと誰かと向き合おうとしていた。

その自分まで、
全部間違いだったとは思いたくなかった。

だから、忘れられなかったのかもしれない。

あの恋を忘れてしまうことは、
あの頃の自分まで否定することのように感じていた。

でも本当は、
恋が終わったからといって、
あの頃の自分が消えるわけではない。

好きだった自分も。

頑張っていた自分も。

信じようとしていた自分も。

傷つきながらも、
大切にしたかった自分も。

全部、あなたの中にちゃんと残っています。

あの人がいなくなっても、
あなたが誰かを大切にできる人だったことは消えません。

あの恋が終わっても、
あなたが一生懸命愛そうとしたことは消えません。

たとえ結果が思うようにならなかったとしても、
その気持ちまで無駄になるわけではありません。

恋が終わると、
まるでその時間全部が壊れてしまったように感じることがあります。

好きだった意味がなかったように思えたり、
信じた自分がばかみたいに思えたり、
頑張った時間が報われなかったように感じたりする。

でも、そうではないと思うのです。

その恋の中で、
あなたはたくさん心を使った。

喜んだ。

悩んだ。

泣いた。

信じようとした。

分かり合おうとした。

傷つきながらも、
それでも大切に思った。

それは、
あなたの心がちゃんと動いていた証です。

あなたが本気で恋をしていた証です。

だから、あの頃の自分を
責めなくていい。

「なんであんなに好きだったんだろう」
「どうしてもっと早く離れなかったんだろう」
「私、ばかだったのかな」
そんなふうに思う日があっても、
その自分を責めすぎないでください。

あの時のあなたは、
その時のあなたなりに一生懸命でした。

好きだったから信じた。

大切だったから待った。

失いたくなかったから頑張った。

それは、弱さだけではありません。

あなたのやさしさでもあり、
愛そうとした力でもあります。

もちろん、
苦しかったことまで美しくする必要はありません。

我慢しすぎたことがあったなら、
それに気づいていい。

傷ついたことがあったなら、
「つらかった」と認めていい。

もっと大切にされたかったなら、
その気持ちをなかったことにしなくていい。

でも同時に、
あの頃の自分を全部責めなくてもいい。

恋が終わったあとに必要なのは、
自分を責めることではなく、
あの頃の自分を少しずつ抱きしめてあげることなのかもしれません。

よく頑張ったね。

本当に好きだったんだね。

寂しかったのに、
たくさん我慢していたんだね。

幸せになりたかったんだよね。

そんなふうに、
過去の自分に声をかけてあげる。

それだけで、
少し心がゆるむことがあります。

手放すことは、
あの人を忘れることだけではありません。

あの人を好きだった自分を、
責めずに受け止めること。

恋が終わったことで失ったように感じた自分を、
もう一度、自分の手で迎えに行くこと。

あの人がいたから輝いていた自分ではなく、
あの人がいなくても、
ちゃんとここにいる自分に戻っていくこと。

それが、
少しずつ手放すということなのだと思います。

もしかしたら、
あなたが本当に失うのが怖かったのは、
あの人だけではなく、
恋をしていた頃の自分だったのかもしれません。

でも大丈夫です。

あの頃のあなたは、
いなくなったわけではありません。

好きだった記憶の中に、
泣いた夜の中に、
頑張ってきた心の中に、
ちゃんと残っています。

そしてこれからは、
あの人のためではなく、
あなた自身のために、
そのやさしさを使っていけばいい。

誰かを大切にできたあなたなら、
これから少しずつ、
自分自身のことも大切にしていけます。

今日、また思い出してしまっても大丈夫です。

あの頃の自分が恋しくなっても大丈夫です。

戻れない時間に涙が出ても大丈夫です。

その涙は、
あの人だけのためではなく、
一生懸命だったあなた自身のための涙でもあるのかもしれません。

だから、どうか責めないでください。

あの恋をした自分を。

信じた自分を。

期待した自分を。

傷ついても、
それでも好きだった自分を。

その自分を否定しないことが、
手放す前の大切な一歩です。

心葉(ここは)では、
忘れられない恋の気持ちを否定せずにお聞きしています。




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