忘れられない人を、少しずつ手放すまで(第5話)
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コラム
新しい恋をしようとしても、比べてしまう
前に進まなきゃ。
そう思って、
誰かと話してみた。
優しい人だった。
ちゃんと返事をくれる人だった。
私の話を、
最後まで聞いてくれる人だった。
「無理しないでね」と言ってくれた。
「また話せたら嬉しい」と言ってくれた。
大切にしてくれそうな人だと思った。
それなのに、
心がうまく動かなかった。
悪い人じゃない。
むしろ、いい人。
安心できるはずなのに、
なぜか心のどこかで、
あの人と比べてしまう。
あの人なら、
こういう時、なんて言ったかな。
あの人の声は、
もう少し低くて落ち着いた感じだったな。
あの人と話していた時は、
もっと自然に笑えていた気がする。
そんなふうに、
目の前の人を見ているはずなのに、
心は過去へ戻ってしまう。
新しい人が悪いわけじゃない。
その人の優しさが足りないわけでもない。
ただ、私の心の中に、
まだあの人の場所が残っている。
だから、誰かが優しくしてくれても、
すぐには受け取れない。
誰かが近づいてきても、
心が少し後ろに下がってしまう。
「この人と向き合えば、前に進めるかもしれない」
そう思う。
でも同時に、
「やっぱり違う」と感じてしまう自分がいる。
そして、そんな自分を責めてしまう。
せっかく優しくしてくれているのに。
ちゃんと向き合ってくれているのに。
あの人より大切にしてくれるかもしれないのに。
どうして私は、
まだ過去の人ばかり思い出しているんだろう。
どうして、
目の前の優しさを素直に受け取れないんだろう。
そう思うと、
自分がとてもわがままに感じる。
でも本当は、
新しい恋をしようとしても比べてしまうのは、
今の心がまだ回復の途中だからかもしれない。
恋が終わったあと、
すぐに誰かを好きになれる人もいる。
でも、そうできない人もいる。
誰かと話していても、
ふとした言葉で思い出してしまう。
似ている仕草を見て、
胸が苦しくなる。
全然違うタイプの人なのに、
なぜかあの人ならどうだったかを考えてしまう。
それは、
まだ心の中で整理が終わっていないから。
好きだった記憶が、
まだ鮮やかに残っているから。
その人と過ごした時間が、
簡単に上書きできるものではなかったから。
だから、比べてしまう。
比べたくないのに、
比べてしまう。
本当は、
新しい人に失礼だと分かっている。
目の前の人をちゃんと見なきゃと思う。
過去ばかり見ていたら、
前に進めないことも分かっている。
でも、心は頭のように簡単には切り替わらない。
「もう終わったから、次へ行こう」
そう決めただけで、
すぐに気持ちが変わるわけではない。
「この人はいい人だから好きになろう」
そう思っただけで、
自然に好きになれるわけでもない。
恋は、努力だけで動かせないことがある。
条件がいいから好きになれるわけではない。
優しいからすぐに心が開けるわけでもない。
大切にしてくれそうだから、
過去の恋をすぐに忘れられるわけでもない。
それなのに私は、
早く前に進めない自分を責めていた。
もう別れたんだから。
いつまでも引きずっていたらダメだから。
誰か新しい人を見つけなきゃ。
そうやって、
自分の心を急がせていた。
でも、心はまだ、
あの人との別れを受け止めている途中だった。
傷ついたところが、
まだ完全には癒えていなかった。
だから、新しい優しさに触れても、
すぐには安心できない。
新しい出会いがあっても、
すぐには未来を想像できない。
それは、あなたが冷たいからではありません。
相手を雑に見ているからでもありません。
まだ、前の恋が心の中に残っているだけ。
まだ、その恋で傷ついた自分を
置き去りにできないだけ。
それくらい大切だった恋を、
一瞬で過去にすることは難しいのです。
ただ、ひとつだけ大切にしたいことがあります。
新しい人と比べてしまう自分を、
無理に責めなくてもいい。
でも、その人を使って、
自分の寂しさを埋めようとしすぎなくてもいい。
誰かに優しくされて、
少し心が楽になることはある。
でも、あの人を忘れるためだけに、
新しい人を好きになろうとすると、
自分も相手も苦しくなってしまうことがあります。
前に進むために、
すぐ新しい恋をしなくてもいい。
誰かを好きになる前に、
まず自分の心を休ませてもいい。
「まだ比べてしまうんだな」
「まだあの人が残っているんだな」
「でも、少しずつ外の世界を見ようとしているんだな」
そうやって、
今の自分をそのまま見てあげるだけでもいいのです。
新しい人と話して、
あの人を思い出してしまった。
それでもいい。
優しくされたのに、
心が動かなかった。
それでもいい。
やっぱりまだ忘れられていないんだと、
泣きたくなった。
それでもいい。
その全部が、
あなたの心が少しずつ回復している途中の姿です。
いつか、
誰かと話した時に、
あの人と比べずに笑える日が来るかもしれない。
誰かの優しさを、
その人の優しさとして受け取れる日が来るかもしれない。
新しい恋をするかどうかは、
その時のあなたが決めればいい。
今すぐ決めなくて大丈夫です。
今はまだ、
比べてしまう自分を責めないこと。
前に進めない自分を、
無理に押し出さないこと。
そして、
あの人を忘れるためだけに、
自分の心を急がせないこと。
それだけでも、
十分大切な一歩です。
忘れられない恋を手放すというのは、
すぐに別の誰かを好きになることではありません。
あの人がいなくても、
少しずつ自分の時間を取り戻していくこと。
誰かに愛される前に、
自分が自分の心を責めないでいてあげること。
過去の恋を抱えたままでも、
少しずつ今日を生きていくこと。
それが、
本当の意味で前に進むことなのかもしれません。
心葉(ここは)では、
忘れられない恋の気持ちを否定せずにお聞きしています。