最近、沙耶(さや)の家では不穏なことが続いていた。
夫が会社で事故に遭いかけ、
子どもが階段から転落しそうになり、
自分も車に轢かれかけた。
「これ以上、何かあったら……」
彼女は藁にもすがる思いで、
火之迦具土神を祀る社を訪ねた。
そこにいたのは、白衣の巫女・心結(ココ)。
「……沙耶さん、あなたの家にはずっと、
守護の存在がついていました。」
そう言われて、沙耶は驚く。
「でも、どうして事故未遂ばかり……?
本当に守ってくれてたなら、
そもそも危険が近寄らないのでは……?」
心結は優しく首を横に振った。
「あなたの守護の力は、
長い間、重たい“何か”に絡め取られていました。
それは代々の家に残った古い怨念や、
土地に染みついた負の力かもしれません。」
彼女は社の奥の篝火に向かい、
祈りを捧げ始める。
「火之迦具土神様――
この家族を覆う穢れ、
守護の力を妨げるすべてを、
どうかお焼き浄めください。」
ふっと、炎が大きく揺れ、
目に見えない何かが吸い込まれていく。
冷たい空気が一気に変わり、
社殿に微かな温もりが戻る。
沙耶の心に、突然、いくつもの情景が浮かんだ。
――あのとき転んだはずの息子が、
なぜか咄嗟に手をついた。
――あのとき倒れた夫の頭を、
偶然にも工具が逸れてかすめた。
――あのとき、赤信号で渡ろうとしたのに、
なぜか歩を止めて助かった。
「あれも、これも……
ずっと、守ってくれていたんだ……!」
沙耶は泣き出してしまった。
知らなかった。
自分たちが、これまでどれほど見えぬ力に
守られていたのかを。
心結が微笑む。
「もう大丈夫です。
火之迦具土神様が、
絡みついていた悪しきものを焼き切りました。
これからは守護の存在も、
本来の力を発揮できます。」
沙耶は社をあとにし、
夜空を見上げた。
月が柔らかく照らし、
星々がきらめいている。
――きっとこれからも、
この見えない優しい光が、
家族を守り続けてくれるのだろう。
彼女はそっと手を合わせ、
「火の神様、守護してくださる皆様ありがとう」
と、心の中で祈った。
◆ 心結(ココ)の言葉 ◆
これからは、
あなたをそっと守ってくれている存在と力を合わせて、
どうか幸せになってくださいね。