コロナ禍以降、インバウンド(訪日外国人)需要が高まり、民泊ビジネスが急速に広がりを見せています。
本記事では、365日営業可能である特区民泊を始めたい人に向けて、手続き方法や必要書類を解説していきます。
1. 民泊営業の種類と特徴
民泊は大きく分けると、簡易宿所・特区民泊・民泊新法に分けることができます。
構造や設備の基準、手続き方法にも違いが見られ、難易度は高い順に「簡易宿所→特区民泊→民泊新法」になります。
旅館業法に基づく簡易宿所に比べ、特区民泊や民泊新法は初期費用や手続きにおいて、参入障壁が低いため、副業や投資対象としてもおすすめです。
ただし、民泊新法の場合、年間180日しか営業ができないという大きなデメリットがあります。
2. 特区民泊とは?
特区民泊の正式名称は、「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」のことで、一言で言うと「旅館業法の適用が除外された民泊」のことです。
特区民泊は民泊新法のように年間営業日数の制限がないため、年間365日営業が可能になります。
国家戦略特別区域法第13条に基づき、2016年1月に全国で初めて東京都大田区が取組みを開始されました。
法律で特区民泊が規定された目的は、旅館業だけで供給しきれない宿泊施設を補い、インバウンド需要に応えるためです。
一部の地域にはなりますが、国家戦略として観光資源を活用するために、宿泊所を整備し、外国人を迎え入れようという意図があります。
現在では、大阪府大阪市をはじめ、寝屋川市、八尾市、千葉市、新潟市、北九州市が特区民泊が可能な地域に指定されています。
旅館業を開始するためには、旅館業法に基づき、都道府県(窓口は保健所)から営業許可証を取得する必要があり、要件を満たすためには構造や設備、必要書類など、数多くのハードルをクリアする必要があります。
一方、特区民泊は、この旅館業法の適用が除外されるため、都道府県に認定を受けることで比較的容易に事業を開始することができます。
ただし、特区民泊は外国人観光客の受け入れを想定した施策であるため、滞在期間が2泊3日以上の宿泊客しか利用させることができません。
なお、2泊3日以上であれば日本人観光客を宿泊させることも可能です。
3. 特区民泊が認定される地域
条例により特区民泊を認めている地域は以下のとおりです。
・東京都大田区
・千葉市
・新潟市
・大阪市
・寝屋川市(大阪)
・八尾市(大阪)
・北九州市(福岡)
また特区民泊の場合、以下のいずれかに該当していなければいけません。
・第一種住居地域
・第二種住居地域
・準住居地域
・近隣商業地域
・商業地域
・準工業地域
市街地は用途地域と呼ばれる、地域ごとに建物の利用が決められています。特区民泊も該当する地域でしか営業が(許可証の取得)ができないことになっています。
4. 特区民泊で必要となる近隣住民への説明会
先ほどご説明したとおり、特区民泊は外国人観光客が宿泊することが多いため、文化の違いやルールメイキングが不十分の場合、騒音や喫煙、不法投棄などで近隣住民とトラブルになる可能性が高くなります。
そのため、特区民泊の事業主は、申請手続きの中で、住民説明会を開催することが義務付けられています。
民泊を営業していくためには、近隣住民の信頼関係を構築しておくことが必要不可欠です。
信頼関係がないまま、営業を続けていると、住民から度々クレームが入り、最終的には事業主だけでなく宿泊者にしわ寄せがいきます。
そして、料金をいただく宿泊者の満足度は下がれば、高評価や口コミが得られず、集客できないという悪循環に陥ります。
住民説明会は、近隣住民と信頼関係を構築するための第一歩と言えます。
行政書士などの代理人が主催する場合でも、事業主も同席することが望ましいです。
可能な限り、近隣住民とのファーストタッチである住民説明会には参加しましょう。
①説明する相手
当該宿泊施設を中心に円を描き、10m以下の範囲の建物・住民に対して、説明する必要があります。
説明を行う住民から同意が得られなくても、手続き自体は進めることはできますが、後々のトラブルを避けるために、誠意を持って説明を行いましょう。
状況に応じて、協定書を作成し、条件や約束を書面として残しておくことで、住民からの理解が得られやすくなります。
②説明する内容
住民への説明が必要な内容は、主に以下のとおりです。
・建築計画の概要
・施設の名称・所在地の説明
・施設運営に関する説明(民泊の種別、管理形態、廃棄物の処理方法)
上記に加え、近隣住民により安心してもらうために、騒音や不法投棄などトラブル防止のための施策、クレームの窓口、火災や事故が起きた際の緊急連絡先なども説明しておきましょう。
③説明会の流れ
住民説明会の流れは、以下のとおりです。
1. 対象となる住民に説明会の案内をポスティング
2. 当日、参加者に対し事業を説明
3. 不参加者から問い合わせがあれば対応
近隣住民の中には民泊に気をかけているものの、当日、都合がわるく参加できなかった人がいるかもしれません。
不参加者に対して、後日改めて住民説明会を開く必要はありませんが、議事録をポスティングしておくことで納得感を得られやすくなります。
住民説明会を開催することが望ましいですが、対象となる全世帯へ個別訪問を実施し、説明する方法もあります。不在の場合は、書類をポスティングを行いましょう。
5. 特区民泊の認定申請の流れ
特区民泊の営業を開始するためには、都道府県(窓口は保健所)より認定を受ける必要があります。
部屋のリフォーム、消防設備の設置、家具家電の設置、飾り付けや、OTA(Online Travel Agent:宿泊予約サイト)の登録準備、備品購入、清掃スタッフや廃棄物処理業者の手配など、同時進行で効率的に行いましょう。
やるべきことのリストを作成し、進捗を管理するのがおすすめです。
民泊の成功の秘訣は、いち早く集客し、スタートダッシュが切れるかどうかが重要になります。
ここからは申請から認定を受けるまでの流れを、5つのSTEPに分けて解説していきます。
STEP1. 事前相談
簡易宿所や特区民泊は、住宅宿泊事業法による民泊や一般よりも建物の構造・設備の要件が難しくなります。
物件を取得(購入または賃貸)する前に特区民泊の所在地を管轄する保健所と消防署に事前相談が必要です。
相談に行く前に、予約を入れておき、当日は物件資料(住宅図面・マイソク)を持参しましょう。
事前相談で確認すべき内容は以下の2つです。
・当該物件は特区民泊の要件を満たしているか
・要件を満たすために必要な構造・設備は何か
必要なリフォームや住宅設備、消防設備が分かれば、ある程度の予算を組むことができます。
消防設備の設置工事の見積もりを取り、必要な工事を進めましょう。
工事完了後は、消防署の職員に現地調査があり、消防設備に不備がなければ消防署より、消防法令適合通知書が交付されます。
STEP2. 住民説明会・事業計画の周知
保健所や消防署に事前相談が終われば、近隣住民に対して、4章で解説したように住民説明会を開催する必要があります。
エリアによっては住民説明会が不要の場合がありますが、その場合でも個別訪問やポスティングは必ず実施しなければいけません。
STEP3. 認定申請
住民説明会が完了すれば、次は必要書類を作成・収集し、保健所に提出します。
特区民泊の認定申請に必要書類は、以下のとおりです。
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【共通して必要なもの】
・国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区民泊)特定認定申請書
・住宅図面(間取り・床面積・設備等がわかるもの)
・付近見取図
・住民説明会の議事録(説明に使用した資料含む)
・近隣住民からの苦情や問合せに対応可能であることがわかる資料
・消防法令適合通知書の写し
・水質検査成績書の写し(使用水が水道水以外の場合)
・賃貸借契約書の写し(賃貸物件の場合、民泊許可の記載があるもの)
・管理規約の写し(分譲物件の場合、民泊禁止の記載がないもの)
【法人の場合に必要なもの】
・定款(または寄付行為)
・登記事項証明書(役員等の名簿添付)
【個人の場合に必要なもの】
・住民票の写し(発行日から3ヶ月以内)
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必要書類の準備ができれば、下記の窓口に提出します。
民泊新法の申請手数料は無料ですが、特区民泊の場合、申請手数料22,000円前後(自治体によって異なる)が必要になるため注意が必要です。
STEP4. 現地調査
提出した必要書類に不備がなければ、保健所の職員による現地調査が行われます。
基本的には、提出書類と相違がないかの照会が行われますが、構造の欠陥や住宅設備の不足により保健衛生上の問題があれば指摘がある可能性があります。
問題があり指摘を受けた場合は、その内容を改善し、再度、保健所の職員と現地調査の日程を調整しなければいけません。
STEP5. 認定書の交付
現地調査をクリアすれば、保健所から特区民泊の営業する認定書が交付されます。
認定書を受け取り次第、OTA(Online Travel Agent)に認定書の情報を登録し、宿泊者の集客を開始しましょう。
知名度があり、宿泊利用者が利用することが多いOTAは以下のとおりです。
・Airbnb★
・Booking.com★
・じゃらんネット
・楽天トラベル
・Yahoo!トラベル
・アゴダ
集客UPと予約管理のバランスを考え、自分に合うサイトを利用しましょう。
Airbnbは最も利用者が多く「民泊=Airbnb」と言われるぐらい有名なサイトのため、登録は必須です。
また、Booking.comも高い集客力を持ち、管理がしやすいため、登録しておくことをおすすめします。
物件が良ければ、Airbnb と Booking.comだけでも十分集客できますが、不安な場合は、他のOTAも操作してみて使いやすいものを活用しましょう。
6. まとめ
民泊新法は年間180日しか営業できないため、常時満室稼働できような優良物件・スーパーホストの場合であっても、単純計算すれば売上は半分になります。
一方、特区民泊は、2泊3日以上の宿泊者限定になりますが、年間365日フル稼働させることができるため、民泊新法よりも多くの集客・売上が見込めます。
実際には集客と稼働日数の他に、料金設定・単価も重要な要素となるため、「集客×単価=売上」を最大化できるように、バランスよく調整することが大切です。
特区民泊は東京都大田区・大阪市など限られた地域でしか行えませんが、民泊ビジネスにおいて大阪にお住まいの方はもちろん、遠方の方でも特区民泊にチャレンジする価値は十分にあります。
「小さくはじめて、大きく育てる。」
この意識を持って、マンションの一室(25㎡以上)から始めてみてはいかがでしょうか。
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