私が高校生の時の話をしましょう。
高校1年生の夏休み、部活で研究旅行に行きました。その部活とは「歴史地理研究部」。マイナーな部でした。昼は古戦場の跡地を見て、よりによって東尋坊の近くでキャンプをしました。女子は私とC代の2人だけでしたので、小さなテントが割り当てられていました。マンガやドラマのような男女の浮いたことなど何もないオタクの温床のような部でしたので、薄っぺらなテントで眠ることに危険を感じることはありませんでした。
歯磨きでもして寝ようと荷物をごそごそとしていた時、テントに真っ黒い影がビシッと張り付いたように見えました。
影は古典的な幽霊スタイルで姿勢は気持ち前かがみ、両手を前に出して手首から先をしたに下げています。私たちの影は、懐中電灯の明かりで薄くゆらゆらとしているのに、真っ黒なその影は動かないのです。
「出た!」私たちはテントから転がるように出ました。顧問の先生は車で寝ておられたのでたたき起こして、必死で説明しました。「いたずらじゃないのか」先生は眠そうに言いました。男子は先生の車を挟んで反対のテントで寝ていますが、静かなものでした。だいたい夜這いをかけるようなキャラの男子はいませんでした。
「先生、一緒に寝ましょう」と頼みましたが、親世代の先生とはいえ男の先生ですし、そういう訳にはいきません。「もう寝ろ」となだめられている時、黒い影が、ゆらゆらと車の前を飛び回りました。「これです、これ!」叫びましたが、目の前で見ているはずのC代と先生は、なんだこれは、という表情です。
落ち着いて見てみると、確かに影が飛び回るなんて普通ではないことですが、すごく怖いかというとそれほどでもありません。その影に「悪意」が感じられないのです。ちょっと脅かしてやろう、という感じでしょうか。
先生や周りにも迷惑がかかるし、C代とテントで寝ました。影はあれから飛んでいたかもしれないし、つまらなくなって消えたかもしれません。
次の日男子が「そっちは昨夜騒いでたね」みたいなことを言うので、やはり男子のいたずらではないと確信しました。
先生が、「実は東尋坊は自殺の名所で、出ると聞いたことがある」と言い出しました。幽霊なんかいるわけがないと思っていたから気にしていなかったと言うのです。そして更に驚いたのは、確かにC代と先生の前でも影が飛び回っていたのに、二人ともそんな気がしたようなしないような、と言うのです。
小さな頃から私に見えているものが人には見えていないような気がしていました。母が私のことを想像力が豊かな子だから、と言っていたのは、母にも見えていないものが私には見えていたからでした。
ちなみに、東尋坊で見た霊は、古戦場あたりから憑いてきていたように思います。
これは怖くない方の霊の話です。実は血が凍るほど怖かった経験もあります。『あれは確かに霊だった その2』でお話ししましょう。