(2)「人間性」で問題になるのは「前頭連合野」
②「前頭連合野」がつかさどる「人間らしさ」とは何か
将来に向けた夢・計画・展望、感情を制御する理性、他人の気持ちを理解する能力、主体性・集中力・好奇心、幸福感、達成感、高度な創意工夫(創造性)などは全て「人間らしさ」(「人間性」)に属します。
「人間性の崩壊」~1848年に「前頭連合野」の左半分を損傷したフィニアス・ゲージの症例から、「前頭連合野」がつかさどる「人間らしさ」「人間性」が明らかになりました。それによれば、ゲージは基本的な知覚能力や身体運動能力にはほとんど後遺症が残らず、記憶といった一般的な知能にも影響はなく、言葉もしっかりしゃべれたのですが、「人間性の崩壊」という後遺症が出たといいます。すなわち、実直で責任感があり、周囲の信頼も厚かったゲージは正反対の人間となり、感情を抑えることが出来ず、乱暴で刹那的な行動、ハレンチで常軌を逸した振る舞いをするようになったのです。「理性」を失い、「人格」が変わって、動物のような人間になってしまいました。
「ゲージの中で、いわば知性と獣性のバランスが崩れてしまったように見える。・・・彼の友人達はこう言っている。『彼はもはやゲージではない』。」(ゲージを診察した医師ジョン・ハーロウ)
「人間らしさ」~ゲージが失ったものは次のようなものですが、逆の見方をすれば、健常者でもこれらの要素が乏しければ、それだけ「人間的に未熟」「人間味に薄い」ということになるでしょう。
(1)将来に向けた計画、展望、夢(計画性、未来志向性)=ヒトは計画を立てるからこそ、その延長線上に夢を思い描くことが出来、その夢を実現するために今日という日を努力することが出来るのです。逆にチンパンジーなどは40分からせいぜい2時間先のことしか読むことが出来ないといいいます。将来への計画、展望などは持っていないわけです。
(2)感情を制御する理性(自己制御)=「分別」とも言い換えられます。
(3)他人の気持ちを理解する能力(社会性、協調性)=「心の理論」(霊長類学者トレマックが提唱しました)や「マインド・リーディング」(読心)とも言います。これはヒトとサルの大きな違いの1つとされます。自分の言動に対する相手の意識や感情を推測したり、相手の立場に立てるということはヒトならではの能力で、サルには「自分がこんなことをしたら、相手はどう思うだろうか」とは考えられないのです。
ちなみに、ストーカーなどもこうした能力の欠如から来る犯罪行為ですが、このように「相手の気持ちになることが出来ない」原因として、幼児期に(特に母親からの)愛情豊かに育てられなかった可能性が挙げられますが、子育てを放棄したり、子ザルが甘えてきても追い払うような子育て下手な母ザルは、愛情に関係する脳内伝達物質「セロトニン」の分泌量が少ないことが分かっています。セロトニンには子供をかわいがるという気持ちにさせる働きがあるため、子育てには欠かせない「伝達物質」です。
(4)主体性、集中力、好奇心(やる気、意志力、探求心)=自分から何かをしていこうという気持ちや集中力がなくなり、注意力が散漫になって、新しいことにチャレンジする気持ちも無くなって、慣れ親しんだことしかしなくなるという状況は、「ADHD」(注意欠損多動性障害)の症状に酷似しています。実際、「ADHD」は「前頭連合野」に機能障害があり、その障害には「前頭連合野」の正常な機能に必須の「伝達物質」である「ドーパミン」の機能低下が伴っていることが分かっています。
(5)幸福感、達成感
(6)高度な創意工夫(独創性、創造性)=「前頭連合野」の中心的機能は「創造性」とされますが、こうした創意工夫には高い「一般知能」が必要となります。逆に「前頭連合野」のダメージによって、相手のしていることをそのまま繰り返すだけの人になることがあり、この症状を「人真似症候群」と言います。
(7)高度な思考力、問題設定・問題解決能力、一般知能=1900年代初頭に知能検査やIQについて研究していたエドワード・C・スピアマンが「知能」は2つの「因子」から成り立つと考えて、「因子分析」という統計技法を考え出し、全ての知的作業はその作業に固有の特殊因子「s因子」と、あらゆる作業に共通する一般因子「g因子」として、後者から成り立つ知能を「一般知能」(GI=General Intelligence)と呼びました。これが全ての「知性」を貫いて存在する因子「IQg」というわけで、公務員試験で出題される「一般知能」はまさにこれを見ようとしているのです。
2000年には「脳イメージング法」によって、「一般知能」の中枢が「前頭連合野」の「46野」にあることが判明しています。「46野」は「ワーキングメモリ」のセンターでもありますが、実は「一般知能」のベースに「ワーキングメモリ」があり、「ワーキングメモリ」能力が高いと「一般知能」も高いことが分かっています。
「人生の成功度」~アメリカの知能学者達は「IQg」と「人生の成功度」の相関関係を大規模な調査で調べていますが、その結果は次の通りです。もちろん、何をもって成功とするかは価値観の問題であり、一般的に「社会的成功」と考えられているものに限定しても、「IQg」は成功要因のごく一部に過ぎず、高いからといって必ず成功するわけではありません。あくまでもいわゆる「IQ」よりも、「IQg」と「社会的成功」との関係が「統計的に有意」ということです。ちなみに「超知性」「統合知性」「人間性知性」「自我」は「成功知性」とも呼ばれますが、それはこの「一般知能」を根幹に有するからでもあります。
◎125~=成功間違いなし
○110~125=前途洋々。中退や留年をせずにアメリカの大学を卒業出来る人は110以上がほとんどだとされます。アメリカで実際に成功していると思われる医者・弁護士・企業の重役・成功した企業家など数百人を調べたところ、1人の例外なく、110以上だったといいます。逆にアメリカの高校中退者で110以上の人は1%に満たないのです。
△90~110=現状維持
●75~90=厳しい。30%以上がアメリカの高校中退です。
×~75=リスク大。半数以上がアメリカの高校中退です。
「環境要因」~「一般知能」の個人差の60%は「遺伝要因」で説明でき、残りの40%が成長の過程での「環境」(「教育」を含む)に影響されます。マリアン・ダイヤモンドの実験によれば、遺伝的に同一のラットを幼い頃から「貧しい環境」「普通の環境」「豊かな環境」の3つに分けて育てたところ、遺伝的には同じであるにもかかわらず、「豊かな環境」で育てたラットは知能テストで優秀な成績を示したのみならず、「脳」自体も発達して、重さが5%ほど重くなり、「大脳皮質」もより厚く、かつ重たくなったといいます。脳重量増加率5%を人間に当てはめると、それだけの変化をするには数十万年の時間が必要になるため、「豊かな環境」は人間での数十万年の進化を果たしたことになります。
「豊かな環境」には多様性があり、例えば、モーツァルトのピアノソナタ「K448」が「脳」や「知能」に好影響を及ぼすことは実験で証明されています。モーツァルトの他の楽曲でも同様の効果をもたらすと見られており、これを「モーツァルト効果」と言います。
【参考文献】
『幸せになる成功知能HQ』(澤口俊之、講談社)
『心が脳を変える 脳科学と「心」の力』(ジェフリー・M・シュウォーツ、サンマーク出版)