(1)脳科学から見た「頭の良さ」とは何か?
③「頭の良さ」と「人間性」は不可分の関係にある
本当の「頭の良さ」は「多重知性」を束ねる「ハイパー知性」「人間性知性」であり、「人間性」そのものに関わっていて、大脳皮質の「前頭連合野」をその舞台としています。「知性」と「脳」の情報処理に「多重性」(並列性)と「階層性」があるということは、情報処理に長けている人(いわゆる「頭のいい人」)ほど「同時並行処理」と「階層的処理」が上手く出来るということです。仕事や勉強を小さい塊に分けて処理し、最終的に再統合する、あるいは「大目標」に対して「小目標」を設定して、これをこなしていくのも「階層的処理」です。
「二重貯蔵モデル」~「脳」にもたらされた情報はまず「短期記憶」に入り、そこから「長期記憶」へ移るというプロセスを踏みます。「短期記憶」は数秒から数分程度の短い時間だけしか保持されませんが、「長期記憶」は数時間から数年、数十年という期間、保持される記憶で、記憶量はほぼ制限が無いとされます。
約15秒以内にその90%以上が忘却される特性を持つ「短期記憶」は「長期記憶」への転送に関わると共に、新たな情報を一時的に保持し、さらに「長期記憶」の情報を検索する役割をも担っているのです。
「ワーキングメモリ」(Working Memory)~「短期記憶」の概念をさらに拡大して、課題を遂行するために処理機能の役割を補充したもので、「作業記憶」「作動記憶」とも言います。従来は保持機能にのみ注目されていた「短期記憶」に対して、文の理解や推論など、より高次の認知機能と関連する保持の場として考えられ、目標に向かって情報を処理しつつ、一時的に事柄を保持する働きをしているのが「ワーキングメモリ」であるとされます。
これはすでに学習した知識や経験を絶えず参照しながら、目標に近づけるように、その過程を支えています。例えば、文を読む際には、知識やエピソードを元にした長期記憶の検索を進めながら単語や文を理解しており、逆に単語の保持に「ワーキングメモリ」の容量を取られてしまうと、文の理解が疎かになるのです。
さらに今では「ワーキングメモリ」を単に入れ物としてではなく、「システム」として捉える考え方があり、特に「注意の監視システム」としての役割が注目されています。読み手は、文を読む時に文理解の中心となるもの(フォーカス)を探していますが、ひとたび特定の単語を重要な情報であると判断すると、すかさず、それを中心として心的表象を構築するのです。如何に効率よくフォーカスを形成できるかは、文理解の効率を決定します。
つまり、「ワーキングメモリ」は記憶の情報を使った知的活動(暗算、思考、推論、計画、問題解決など)の作業台であり、いわゆる「頭の良い人」は特に「ワーキングメモリ」を駆使することに長けている人と言ってもよいでしょう。ちなみにヒトと相同な「ワーキングメモリ」を担う「脳」部位は真猿類にしかないので、これは「人間性」にも直結する機能だと考えられます。
「自我」(スーパーバイザー)~自分の「脳」と他人の「脳」の活動を読み取りつつ、操作する高次脳システムです。自分の脳活動をモニター(意識化)しつつ統合し、適切に操作するシステムである「脳内操作系」であると共に、他者の脳活動を言語や表情、動作などで読み取りつつ、うまく操作するシステムである「脳間操作系」です。
要するに「脳内・脳間操作系」(Intr- & Inter- Brain Operating System)であって、その基本的目的は自然環境や社会の中でうまく生きていくこと、すなわち成功し、幸福になることです。
「脳から見ると、人間とは何か、この哲学的な問いの答えは極めて単純。前頭前野が発達している動物が人間、なんです。」(川島隆太東北大学加齢医学研究所教授)
【参考文献】
『脳のメモ帳 ワーキングメモリ』(苧阪満里子、新曜社)
『幸せになる成功知能HQ』(澤口俊之、講談社)