「脳科学と深層心理学のコラボレーション②」 ~「人間性」の根幹に関わる「脳」と「心」のヒミツ~

記事
学び
(1)脳科学から見た「頭の良さ」とは何か?
②「多重知性」を統合する「超知性」の存在

 個々の「知性」(「多重知性」、ソフトウェア、選手)を束ねる「超(ハイパー)知性」(「統合知性」「人間性(ヒューマニティ)知性」、オペレーティング・システム、監督)こそが問題です。

「超(ハイパー)知性」~「多重知性」を統括してコントロールする「統合知性」「ヒューマニティ(人間性)知性」「自我」(スーパーバイザー)です。「脳」が巨大になって、アプリケーション・ソフトとしての「多重知性」や記憶などが豊富かつ非常に複雑になったために発達したオペレーティング・システム(OS)です。
 脳科学者の澤口俊之氏は最初、これを「IQ」(Intelligence Quotient、知能指数)、「EQ」(Emotional Quotient、情動指数、「心の知能指数」)などに対して、「PQ」(Prefrontal Quotient、前頭知性)、後には「HQ」(Humanity/Hyper-Intelligence Quotient)と名づけましたが、「心の知能」(EI=Emotional Intelligence)に対して「心の知能指数」(EQ=Emotional Quotient)があるように、「知性」(Intellect)と「知能」(Intelligence)と「(知能)指数」(Quotient)の3つははっきり区別するべきでしょう。
 したがって、「超知性」(HI=Hyper Intellect)、「統合知性」(II=Integrating Intellect、OI=Operating Intellect)、「人間性知性」(HI=Humanity Intellect)などと捉えた方がすっきりします。

「サヴァン症」~発達障害ないし精神疾患による重度の精神障害を持つ人が、IQは40~70と低いものの、特定分野に関して驚異的な脳力、特殊な異才を示す、極めてまれな症状を指します。芸術に関する卓越した能力を示す子供の場合、何千曲もの音楽を覚え、楽譜なしで演奏出来たり、音楽を習ったことがないのに、10歳の時にチャイコフスキーのピアノ協奏曲を初めて聴いて、すぐにその曲をピアノで演奏したケースもあります。映画「レインマン」の主人公や山下清画伯、大江健三郎氏(ノーベル文学賞受賞者)の息子大江光氏なども「サヴァン症」と言われ、「多重知性」と「統合知性」の存在を示す症例と考えられます。

「大脳皮質」~前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉といった「脳葉」から成り、それぞれの「脳葉」は「領野」というさらに小さい区画に分けられます。「領野」によって機能は異なるため、「大脳皮質」は「異なった働きをする単位構造の集まり」であることが分かります。
 「脳」に役割分担があるということは、「心」も「小さな心」に区分され、「小さな心」が脳の異なった単位構造に対応していると予想されます。機能面から「視覚野」「言語野」といった区分けがされることが多いのですが、こういった「領野」が協働し合って、ある「知性」に固有の情報ネットワークを作り、このネットワークが独立して並列的に働いているので、表に出て来る「知性」もお互いに影響を受けないで機能していると考えられています。例えば、「脳」の一部にダメージを受けても、「言語野」が正常ならば話すことは出来るのです。

「ブロードマンの脳地図」~20世紀初頭にドイツの神経解剖学者コルビニアン・ブロードマンによって大脳皮質が48の「領野」に分類され、この「脳地図」が現在でも標準的なものとして使われています。ただし、現在では100以上の「領野」があるらしいことが分かっています。

「モジュール性」~認知科学では心がたくさんの機能単位に区分できることを明らかにし、この単位を「モジュール」と呼び、「モジュール」が集まっている性質を「モジュール性」と言います。「心」は「モジュール」の集合体であり、多くの「モジュール」によって、認識、判断、言語、記憶といった「心」の働きが生まれるのであり、これは「脳」の「モジュール性」と対応していると考えられます。「多重知性」もそれぞれの「知性」は「脳」のどの領域で担うのかという役割分担が出来上がっており、これも「心」と「脳」の「モジュール性」で説明されます。
 例えば、大脳皮質の側頭葉にある「MT野」(第五次視覚野)を損傷した患者は、対象の動きに関する知覚・意識「運動視」を失ってしまい、「対象の動き」が全く分からなくなってしまったといいます。向こう側に見える自動車を自動車として認識出来、色も形も知覚出来て、その位置関係に分かるのですが、その自動車が停車しているのか、こちらに向かって動いているのか分からないというのです。この患者の世界は、静止画が断続的に現われる世界であるといいます。他にも、顔の表情だけ認識出来なくなったり、動物の名前だけ分からなくなったりする症例があり、「脳」の「モジュール性」は多くの証拠によってはっきりと実証されているのです。

「階層性」~「知性」は「多重性」(並列性)のみならず、「階層性」を備えていますが、これは「脳」が光や音といったエネルギーを神経回路の「ニューロン」(神経細胞、「神経単位」)の活動に変えて情報処理する際、光や音などのエネルギーの集合体をまず様々な要素に分解し、その後、再構築して最後に対象が認識されることに対応しているとされます。つまり、「再構築して最後に対象が認識されるプロセス」が階層的であり、そのため、「知性」は「階層性」を備えているというのです。「脳」は情報を再構成するので、ヒトは「脳」の仕組みに応じてしか世界を認識できません。いわゆる「物自体」を認識することは不可能であり、「脳」の階層的処理を経て、ヒトは世界を再構成しつつ認識することになるわけです。
 例えば、愛する人の微笑みであっても、光エネルギーとしての視覚世界は「第一次視覚野」(ブロードマンの17野)のニューロンで「色」「線」「微小空間」などに一度分解され、すなわち「色ニューロン」「線ニューロン」「微小空間ニューロン」などによって「三原色線分微小空間」に分解されて、「視覚連合野」で少しずつ段階的に情報処理が進められて再構成されていき、最終段階に近い段階で「TE領野」(ブロードマンの21野)の「微笑みニューロン」によって微笑みとして認識されるのです。TE領野には「顔ニューロン」「手ニューロン」などがあり、サルの実験で「顔ニューロン」が豊富にある部位を傷つけると、群に溶け込めなくなり、あるいは小さい時に仲間の顔を見る機会が少ないと「顔ニューロン」の発達が遅れると言います。
 哲学的にも「世界は我々が見た通りにそこにある」という考えを「素朴実在論」と言いますが、これはカール・ポパーによって「バケツ理論」と批判されています。我々の目や耳は実在と知覚を結ぶ、ただの穴となってしまうのです。

「ニューロン」(神経細胞、「神経単位」)~「情報を伝える」という役割を果たすため、「電気的にコントロールされた物質分泌を行うこと」にその本質があります。電気的コントロールは「イオンの移動」により、物質分泌とは「伝達物質」を出すということです。ちなみに、ここで「脳内物質」と言う場合もありますが、脳内には様々な物質があり、その全てが「伝達物質」として働いているわけではないので、これは正確な表現ではありません。
 ところで、「イオンの移動」は秒速100メートル以下の場合がほとんどで、電子で動くために秒速30万キロメートルという光速並の信号伝達をするコンピュータと比べると、「ニューロン」の伝達速度は遅すぎると言わざるを得ません。
 さらに「伝達物質」を介した情報伝達は、「ニューロン」の突起(軸索)の末端が次のニューロンに接する部分である「シナプス」という構造で行われ、「軸索」の末端から放出された「伝達物質」は「シナプス」の隙間を移動して、次の「ニューロン」の受容体にくっつくのですが、これによって伝達速度はさらに遅くなるため、迅速な情報処理には適していないです。こうした「伝達物質」には、情報処理に直接関わる「狭義の伝達物質」と「脳内ホルモン」とも呼ばれる「調節物質」の2つの系統があります。
 かくして、編み出されたのが「並列処理」です。

「並列処理」~コンピュータの動作速度は大変速いのですが、情報を逐次処理するため、アプリケーション・ソフトが複雑になったり、膨大な情報処理が必要になると、コンピュータの処理速度を速くするしかありません。ところが、大量の情報を並列処理することが出来れば、速さはそれほど必要なくなります。このため、膨大な計算を要する情報処理において、何十台、何百台のスーパー・コンピュータに分散処理をさせることが行われていますが、実はこれは「脳」の情報処理をコンピュータ・システムに応用したケースなのです。
 「脳」は「ニューロン」の数を増やして「ニューロン」の並列的なシステムを増やすことによって、「並列処理」を発達させてきたのであり、こうした「ニューロン」の増加によってヒトの「脳」は大きくなり、情報処理が速くなって知能が高くなったのですが、こうした「並列処理」の仕組みが「知性」の「多重性」を生み出していったと考えられるのです。

「多重知性フレーム」~1989年に提唱された「多重知性」を再現する並列的かつ階層的な神経システム、脳内システムです。多重構造を作っている、個々の「知性」に対応した「脳」構造を指し、各「フレーム」では多数の「モジュール」(領野)が階層的システムを作っていますが、各「モジュール」はさらに小さな基本的構造「コラム」(皮質円柱構造)から形成されていて、コラム内部には数万個のニューロンが含まれています。
 「領野」は数十個から数百個の「コラム」群の集団であり、これを「心の単位」としての「モジュール」と考えることが出来ますが、「モジュール」には「低次モジュール」から「中位モジュール」、さらに「高次モジュール」があって、それらが階層的に配列して階層的ネットワークたる「フレーム」を構成しているのです。そして、こうした「多重フレーム」の集合体が「大脳皮質」なのです。

「統合系」~一連の情報処理には「入力系」と「出力系」、及び両者を連合ないし統合する「統合系」がありますので、「フレーム」も「入力系」「出力系」「統合系」の3つを持ちます。「入力系」は「視覚野」を始めとする一連の「感覚性領野群」によって、「出力系」は「運動性領野群」によって形成され、「統合系」はヒトでは「大脳皮質」の約25%の体積を占める「前頭連合野」の「領野」群が作っています。
 この「統合系」こそが「超知性」「統合知性」「人間性知性」「自我」に他ならないのです。

【参考文献】
『幸せになる成功知能HQ』(澤口俊之、講談社)
『心が脳を変える 脳科学と「心」の力』(ジェフリー・M・シュウォーツ、サンマーク出版)
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