【C.H.Sisson英訳】
He commands everywhere, and there he rules,
There is his city, there he has his throne:
Happy are those he chooses for that place!’
【Mark Musa英訳】
Everywhere He reigns, and there He rules;
there is His City, there is His high throne.
Oh, happy the one He makes His citizen!”
【野上素一和訳】
主権者は全地域を統括し、治めており、
そこにはその者の都市と高い座があるのだ。
そこに選ばれて住むものは幸福である」
【平川祐弘和訳】
皇帝(かみ)はあらゆる場所に君臨し統治し給う。
そこには皇城があり玉座がある。
皇帝(かみ)に選ばれてその国に行く人はさいわい(さいわい)なるかな」
【語句】
command=命令する。指揮権を持つ。
throne=王座、玉座。
He=宗教に関する文脈ではGodを指します。
【解説】
「天国」のイメージが「市民権を持つ者が住む場所」Cityで語られ、「選ばれた者」が「市民権を持つ者」citizenで表現されている所が日本人に理解しにくい所でしょう。この「市民権」に相当する部分が「神の法」Lawを守ることに他なりません。
ちなみにダンテは1313年に3巻からなる『帝政論』をラテン語で執筆していますが、第1巻の内容を要約すると次のようになます。
「市民は最高の行政官(執政官、コンソレ)の代理人ではないし、国民も王に奉仕する者ではない。否、執政官こそ市民の代理人であり、皇帝は国民の奉仕者である。しかし、かかる社会的共存共栄を図るためには、まず全人類の統一と平和がなくてはならない。それ故、人類は共通の規範による平和を共有し、平和を希求すべきである。最高の統率者であり、調停者である人は絶対君主でなくてはならない。その人は全て所有し、それ以上何も求めない人であり、あらゆる貪欲を欠き、あらゆる不正を欠く人である。
世界帝国は人類にとっても、皇帝にとっても必要であり、それは自由と正義における平和を保証する。そして、それは世界の政治的整理において特別大きな権威を代表する。」
さらにダンテに先行する国家論として、アウグスティヌスの『神の国』をふまえなければならないでしょう。特に『神の国』第5巻24章はセネカなどのストア学者らの「君主の鏡」の伝統を受け継ぎ、キリスト教徒たる皇帝が神を中心に如何に統治すべきかを説いていて、かのカール大帝(「ヨーロッパの原点」とされます)が地上に神の理想を実現する意欲に燃え、『神の国』を熟読したことはよく知られています。また、神聖ローマ帝国を開始したオットー大帝も『神の国』を引用して、この地上に神の理想郷が出来るのだと主張しました。さらにヨーロッパ中世・近世においても、例えば、トマス・モアのユートピア思想などに見られるように、『神の国』は人々に「理想国家実現」の意欲を植え付け、多大な影響を与えたとされます。ちなみにアウグスティヌスによれば、「神の国」は「自己を軽蔑するに至る神への愛」を起源とし、「人々は互いに愛において仕え、統治者は命令を下し、被統治者はそれを守る」が、「地上の国」は「神を軽蔑するに至る自己愛」を起源とし、「その君主達にせよ、それに服従する諸国民にせよ、支配欲によって支配される」のであるとしています。