【C.H.Sisson英訳】
Among whom you may climb, but if you do,
It will be with a spirit more worthy than I am;
With her I will leave you, when I depart:
【Mark Musa英訳】
to whom, if you too wish to make the climb,
a spirit, worthier than I, must take you;
I shall go back, leaving you in her care,
【野上素一和訳】
きみがそこからさらに高い所へ行くことを望み
私よりもいっそう高貴な霊さえ来てくれるなら、
私はその霊にきみを托して立ち去るとしよう。
【平川祐弘和訳】
また幸ある人の住む(天)国にも昇りたいのなら
それには私よりも立派な方がおられるから
別れ際におまえをその方にお任せするとしよう。
【語句】
worthy=価値のある、尊敬すべき、立派な。worthier(比較級)、worthiest(最上級)ですが、2音節語の大多数は-er, -est形とmore, mostの両方を取ることが出来ます。両方取る場合、-erの方が形式ばらない形になりますが、判断に迷う場合はmoreを用いる方が無難でしょう。
leave A with~=(物・子供などを人・場所に)預ける、(人に物を)残す、(伝言などを人に)伝えて行く。
depart=(人・列車などが)出発する。leave, startより形式ばった語です。
too=(文尾・文中で)~もまた、その上。alsoが客観的事実を述べるのに適するのに対し、tooはより口語的で感情的色彩を帯び、一層強意的です。
make+動作名詞=~をする、行う、持つ。同じ意味の動詞より、「1回だけの行為」であることが強調されます。
care=世話、保護、管理、監督。
高貴な霊=ダンテにとって「久遠の女性」たるベアトリーチェ。霊界案内はウェルギリウスから途中でベアトリーチェに引き継がれ、さらに聖ベルナールへと代わっていきます。
【解説】
聖ベルナール(1090~1153)は「クレルヴォーのベルナール」とも呼ばれ、12世紀のフランス出身の神学者で、優れた説教家としても有名で、"Hell is full of good intentions or desires."「地獄への道は善意で舗装されている」という言葉を残しています。シトー会修道院長として厳格な禁欲主義的修道士の模範であり、自ら創立したクレルヴォー修道院は多数の分院を持つに至っています。そして、聖公会とカトリック教会の聖人であり、33人の「教会博士」の中の1人としても数えられ、第2回十字軍の勧誘に大きな役割を果たしたことでも知られる人物です。この「教会博士」には、カイサリアのバシレイオス、ナジアンゾスのグレゴリオス、ヨハネス・クリュソストモス、アタナシオスといった「東方の四大教会博士」、アンブロシウス、アウグスティヌス、ヒエロニムス、グレゴリウス一世教皇といった「西方の四大教会博士」からトマス・アクィナス、ボナヴェントゥラ、カンタベリーのアンセルムスなどそうそうたるメンバーが名を連ねています。
また、ベルナールは「アウグスティヌスの神秘主義」(「神-神秘主義」から「キリスト神秘主義」へ、「思惟-神秘主義」から「信仰神秘主義」へ中心を移しながら、後者を経て前者の実現を将来において目指す「希望の神秘主義」とされる)を引き継ぐ、中世初期における神秘主義の代表者であり、中世のみならず、宗教改革者ルターにも大きな影響を与えているのです。