【物語】和道・侍一刀流・指南書【壱ノ巻】

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「見てんじゃねぇよ。」
何かの物音に気付くとすぐに男は言った。

「私に何か?」
物騒な・・・蛮族がここにも・・

「質疑応答じゃねぇんだよ。これは精神の言葉だ。」
もはや話にはなるまい・・・
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どう答えれば良いのであろうか・・・。

私は、お前の事を知りはしない。
どのような経緯かを知る間もなければ、知人とはなりえず。
その返答は、歩み寄りにも反する。
私は名門名家の名のある者。
格式として自問と自責以外は持ちえない。
不覚にも人間の恥となるお前を、見過ごすわけにはいかない。

「ちぐはぐの押し問答に支離滅裂の横暴。誰しもがお前を賊と見る。これまでもこれからも。私はお前を斬らなければならない。」


「人間はいつもそうだ・・・何かといえば軸に掴まり、頼りであると柱にすがる。立ったその場所が高みだとして、他を哀れみ見下すのが性・・・」
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立ち合いともなり行かぬ場面に、小次郎は切り捨ての一徹を固め始めていた。
「どうやらお前には、名を上げる事も頭にないようだ。」

二刀の構えは再度と改まる。
「見える姿、目の前に恐怖するなら退くがいい。さすれば我が道も開かれる。」

「その位置では、何かとたやすいのだが・・・」
小次郎は足を引き、音も無く鞘を引き抜いた。

無音の華麗なる抜刀に、誰も反応がないようだ。
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二刀の構えが無造作な太刀を思わせていた。
タイミングを見計らうような時が、止まっているかのように流れる。



間合いは変わらずとも、死合いは静かに始まっていた。

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二刀が反射する光が散り、その時を押し伸ばしているようだった。
「辻斬りも王道であるという貴様は、真に強き者なのだろうか・・・」




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「本能を律せぬ輩には、切り捨ての免罪がある。罪に問われなければと心を鬼にする所に、強きはあるのであろう。免許皆伝の私が、お前を斬り捨てる。」

小次郎は音も無く、見事な大振りを構えたが、二刀の刃先は一向に動く気配を見せていない。

小次郎には良からぬ事が、頭をよぎった。
仕切り直し再度と構え、動きも大きくなる時に・・・小次郎は悟った。



「お前は・・・目が見えておらぬではないか・・・」

盲目に死合いを挑んでいた。
名門名家の自責と自問が繰り返される。
この醜聞たる時間こそが恥そのものだ・・・。

それもこれも奴には見えていない。
「見て見ぬフリだと言え!」

恥を切り払う道理すら小次郎は失っているようだ。
「情けを受けることもなく与えられもしない。私だけが情けない鬼のようだ。掲げた正義と抜いた刀が鞘をなくしては、そのまま収まるわけにはいかない。」

小次郎は自らに背く事がないように、自分の頬を切りつけた。

「お前の代わりにはなれぬとも、私には敗戦の傷が付いている。」
そういって刀を鞘に収めた。

小次郎はここで、恥じるように去っていった。

「この世は訳も分からぬ事ばかりだ。」

盲目は苦しみと困惑を与え、過酷な人生へと導いている。
助けや叫びを上げようとも、誰も降ろしてはくれない。


この世は地獄なんだ。


修羅の道を行く者。
私だけがそれを熟知しており、経験として何度も刻まれている。
異形となり果てる時も、私は行かねばならないようなんだ。

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数年後・・・


小次郎
「二つの刀を振りかざすのは、無尽蔵なる生への運び。決して太刀打ちしてはならない。」

見習い
「師匠の傷は、その時につけられたのでしょうか?」

小次郎
「その時だな。」

弟子
「剣聖とうたわれる師匠に、唯一傷をつけたのは・・・二刀のトキ・・・」
師弟関係の弟子には、しばしこういう現象が起こる。

「我が一門の宿敵として、出逢った際には私の剣を、お披露目させていただきます」

小次郎
「そやつにも、お目見えとなるといいが・・・」

弟子
「今の私では眼中にないとまでに・・・」

小次郎
「・・・」
何かを思い浮かべるような沈黙が流れ、外に目をやる小次郎。

自ら付けた傷だというのが事実でも、証明が難しく証言とならない。
真実とは時に、この先にも伝えることが可能なのでしょうか。

憧れでは成せはしない。
真似事では越えはしない。
傷の痛みは自分にしかわからない。

END
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