手紙シリーズ「お侍の文 返事編」
「鼓下善十郎から打下九十郎への返事」
拝啓
早春の候 御藩益々のご繁栄お喜び申し候えども、打下九十郎殿におかれましては、心痛められておられるご様子、心中お察し申し上げ候。さて、御貴殿からの問いにお応え申し候。御貴殿の文を拝読致し、それがし五年前の苦悩を思い出し候。かく言うそれがしも組頭を拝命した当初、職務を遂行するに当たり御貴殿同様、実直に向き合い眉間にシワを蓄え口元はへの字に構え何かにつけ舌を鳴らし、舌打悪十朗の汚名をつけられし候。そんな折、苦悩するそれがしに、一人の和尚が説教を下さり候。御貴殿にもお役に立てばとご伝授いたし候。和尚よりのお言葉は次の通りで御座候。「お侍様、貴方様の顔はまるで鬼のようで御座います
そのような顔をされていましては、良き人は寄り付きますまい
奥歯も噛みしめておられるご様子。ほれ また舌打ちをなされました。良いですか? 先ず口角を上げ微笑みなされよそして、ご自身が話す時以外は唇を閉ざし
少し下顎を下げ、口の中を開くと宜しかろう。それ唇は閉じられよ 口角を上げられよ
そう そのようにすれば どうです?
舌打ちは出来ますまい。その状態で先ずは、相手の話が終わるまで我慢される事です。意に反する話も聞く事も有るでしょうが、話を止めず聞く事です。さすればいつしか、成る程と思える話が引き出せる事も有ります。そうなれば占めたものです。ほれ!また眉間にシワが・・・」それがしは、その和尚の言われる通り
口角を上げ、口を閉ざし下顎を少し下げ、我慢を重ね聞くに専念致し候。すると面白いもので、それが当たり前となり今では意識せずとも自然と微笑んでいる状態となり、周りの方々も笑
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