「やる気」は、組織にとって、とても重要な要素です。社員一人ひとりの「やる気」が、行動力と積極性を向上させ、チーム全体の雰囲気を盛り上げ、素晴らしい成果を生み出す原動力となります。
しかし、この「やる気」は、時に諸刃の剣となることを忘れてはいけません。方向性を間違えた「やる気」は、組織内に摩擦や紛争を生み出し、個人の思い込みや暴走によって、組織に大きな被害をもたらす可能性も秘めているのです。
例えば、目標達成への強い「やる気」を持つあまり、周囲との協調性を欠いたり、独断で行動してしまうケースは少なくありません。また、自分の「やる気」を正当化するために、ルールを無視したり、倫理的に問題のある行動に走ることもあるでしょう。
「やる気」は、本来素晴らしいものです。しかし、その方向性を誤ると、組織にとって大きなリスクとなることを認識しなければなりません。
だからこそ、組織は「やる気」を正しく管理し、導く必要があるのです。
なぜ、やる気の方向性が重要なのか
「やる気」とは、人の行動を変える原動力です。高い「やる気」を持つ社員は、業務スピードやアウトプットを向上させ、組織に貢献します。また、チャレンジ精神や創造性を刺激し、新たなアイデアやイノベーションを生み出すことにもつながります。
しかし、忘れてはならないのは、「やる気」はあくまでも行動を起こすためのエネルギーに過ぎないということ。その方向性が間違っていれば、組織に多大なダメージを与えてしまう可能性も秘めています。
特に、個人の欲求と組織の目的がずれている場合、その「やる気」は組織にとってマイナスに働く可能性があります。例えば、個人の評価を上げることに固執するあまり、チームワークを乱したり、組織全体の目標達成を阻害する行動をとってしまうケースも考えられます。
また、「成果を上げたい」という強い「やる気」を持つ人ほど、その方法論を見誤ってしまうリスクが高まります。「目的を達成するためには手段を選ばない」という考え方に陥り、コンプライアンス違反や不正行為に手を染めてしまうケースも少なくありません。
「やる気」は、本来、組織にとってプラスに働くものです。しかし、間違った方向へ向かってしまうと、その行動力が「逆風」となって組織を疲弊させてしまいます。
だからこそ、「やる気」を正しく導き、組織全体の目標達成に貢献できるよう、方向性を明確にすることが重要です。
3つの「やる気」の落とし穴
「やる気」には、大きく分けて3つのタイプがあります。
1つ目は、自由型。自分の裁量で自由に仕事を進められることに、大きな「やる気」を感じるタイプです。
2つ目は、成果型。目標を達成し、成果を評価されることによって「やる気」が高まるタイプです。
そして3つ目は、連帯型。仲間と協力し、連帯感を得ることに「やる気」を感じるタイプです。
これらのタイプは、それぞれに異なる特徴や強みを持っています。しかし、その反面、それぞれに特有の「落とし穴」も存在しています。
この章では、3つの「やる気」のタイプがそれぞれ陥りやすい「落とし穴」について解説し、どのようにすればその落とし穴を回避し、「やる気」を正しく組織に活かせるのかを考えていきます。
①自由型:自由に行動できることにやる気を感じる
自由型の人は、自分の裁量で自由に仕事を進められることに、大きな「やる気」を感じます。ルールや指示にしばられることを嫌い、自分のアイデアや発想を活かして、独自の方法で仕事に取り組みたいと考えています。
プラス面
このタイプの「やる気」は、新しい発想やアイデアを生み出すための原動力となります。既存の枠にとらわれず、自由な発想で仕事に取り組むことで、従来にはない斬新なアイデアや、画期的なサービスを生み出す可能性を秘めているのです。
また、自由型の人は、拘束の少ない環境でこそ、その能力を最大限に発揮します。マニュアルやルールにしばられず、自分のペースで仕事を進められる環境を用意することで、高いパフォーマンスを期待できます。
落とし穴
しかし、自由型には特有の落とし穴も存在します。
自由な発想を重視するあまり、組織のルールやモラルを軽視してしまう傾向があります。また、チームワークよりも個人プレーを優先しがちで、組織全体の方針との衝突が起きる可能性も高いでしょう。
個人の自由を尊重しつつ、組織としての秩序を維持するためには、適切なルールやガイドラインを設ける必要があります。また、定期的なコミュニケーションを通して、組織全体の目標や方向性を共有することも重要です。
自由型の人は、組織に新しい風を吹き込む貴重な存在です。しかし、その「やる気」を正しく導くためには、自由と規律のバランスを意識したマネジメントが求められます。
②成果型:成果にやる気を感じる
成果型の人は、目標を達成し、目に見える成果を評価されることによって「やる気」が高まります。数字や結果での評価を重視し、明確な目標に向かって努力することが得意です。
プラス面
このタイプの「やる気」は、組織全体の目標達成を促進する大きな力となります。高い目標を設定し、その達成にコミットすることで、個人のパフォーマンスを最大限に引き出し、組織全体の成果向上に貢献します。
また、成果型の人は、数字や結果が明確な分、達成感を味わうことが得意です。目標を達成するたびにモチベーションが高まり、やる気の好循環を生み出せます。
落とし穴
しかし、成果型にも特有の落とし穴が存在します。
例えば、数字に直結しない業務や、サポート・育成といった間接的な貢献を軽視する傾向があります。また、短期的な成果を優先するあまり、長期的な視点での組織づくりや人材育成をおろそかにしたりする傾向も強いです。
さらに、個人プレーに走ることで、チームワークを阻害し、組織の分断を招く可能性も懸念されます。
成果型の人は、組織の成長を牽引する重要な存在です。しかし、その「やる気」を正しく導くためには、短期的な成果だけでなく、長期的な視点を与えること、そして個人プレーだけでなくチームワークの重視を意識づける必要があります。
③連帯型: 仲間との連帯にやる気を感じる
連帯型の人は、仲間と協力し、共に目標達成に向かっていくことに「やる気」を感じます。チームワークを重視し、周囲との協調性を大切にすることで、高いパフォーマンスを発揮します。
プラス面
このタイプの「やる気」は、チーム内のサポート体制を強化し、互いに助け合い協力し合う雰囲気を生み出します。もし、チーム内に困っている人がいれば、自然と手を差し伸べ、チーム全体で課題を解決しようとする意識を高めるでしょう。
また、連帯型の人は、コミュニケーションを積極的に行い、周囲との信頼関係を築くことを得意とします。そのため、チーム内に協力しやすい雰囲気を作り出し、円滑なコミュニケーションを促進できます。
落とし穴
しかし、連帯型にも特有の落とし穴が存在します。
このタイプは仲間とのつながりを重視するあまり、チーム内の人間関係を優先しすぎ、組織全体の目的を見失ってしまう可能性があります。また、排他的なグループ化が進んでしまうと、他部署・他チームとの連携が不足し、組織全体の効率性を低下させてしまう危険性もあります。
さらに、連帯型の人はチームワークを重視するあまり、時に客観的な視点を持てなくなることがあります。組織全体の目標達成のためには、チーム内だけでなく、組織全体との連携を意識させることが重要です。
連帯型の人は、組織に調和と活力を与える存在です。しかし、その「やる気」を正しく導くためには、チームワークだけでなく、組織全体の目標を意識すること、そして他部署・他チームとの連携を促進することが重要です。
個人と組織で異なる最適化
「やる気」の方向性を考える上で、個人と組織で最適化が異なることを理解する必要があります。個人の「やる気」を最大限に引き出しつつ、組織全体の目標達成につなげていくには、それぞれの最適化のズレを認識し、適切なマネジメントを行うことが大切です。
個人の価値観やモチベーションの違い
個人の価値観やモチベーションは多種多様であり、成果重視、自由追求、連帯重視など、人によって「やる気」の源泉は異なります。
さらに、過去の経験や成功体験によって、それぞれの特性はより強化されます。例えば、過去の成功体験が「個人プレー」によるものだった場合、チームワークよりも個人プレーを優先する傾向が強くなる可能性があります。
このような個人の特性は、組織にとってはプラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともあります。個人の「やる気」を組織全体の目標達成につなげるためには、それぞれの特性を理解し、適切な役割分担や評価制度を設計する必要があります。
経営理念やビジョンの浸透
組織としてのゴールが不明瞭な場合、各人が自分の解釈で行動しやすくなり、「やる気」の方向性がバラバラになってしまいます。個人の行動を統一し、組織全体を同じ方向に向かわせるには、経営理念やビジョンを明確に示し、全社員に浸透させることが重要です。
しかし、同じ方向性に向かわせるには、理念やビジョンだけでなく、評価システムによって、組織が本当に求めている行動を明確に示す必要があります。どんなに素晴らしい理念を掲げても、評価システムが「短期的な成果」だけを重視していれば、社員は「短期的な成果」を上げることに「やる気」を集中させてしまうでしょう。
評価システムは、組織の「本音」を伝えるコミュニケーションツールです。個人の「やる気」を組織全体の目標達成につなげるには、評価システムを適切に設計し、組織が求める行動を明確に示す必要があります。
やる気を正しく誘導する管理方法
ここまで、「やる気」は諸刃の剣であり、その方向性を誤ると組織に悪影響を及ぼす可能性を解説しました。
それでは、どのようにすれば「やる気」を正しく誘導し、組織全体の目標達成に活かせるのでしょうか?
ここでは、効果的な「やる気」のマネジメント方法について具体的に解説します。
①組織目標の明確化と共有
「やる気」を正しく誘導するには、まず組織全体が目指すべき方向性を明確にする必要があります。目的地(Goal)がはっきりとしていなければ、個々の「やる気」はバラバラな方向に向かい、組織全体のパフォーマンスは低下します。
全社員が共通理解できるビジョン・バリュー・目標設定
組織として、どのような未来を目指しているのか(ビジョン)、どのような価値観を大切にしているのか(バリュー)、そして、そのためにどのような目標を達成する必要があるのかを、全社員が理解できるように明文化し、共有することが重要です。
目標設定は、具体的で測定可能なものである必要があります。「売上高を前年比120%にする」「顧客満足度を5ポイント向上させる」など、数値で示すことで、進捗状況を把握しやすくなり、社員の「やる気」を持続させられます。
定期的なアップデートと徹底
設定した目標は定期的に見直し、必要があればアップデートしていくことが重要です。市場環境や競合状況の変化に対応し、常に最適な目標を設定すれば、社員の「やる気」を持続できます。
また、目標達成に向けた進捗状況を定期的に共有し、社員一人ひとりが自分の貢献を実感できる仕組みが重要です。
評価システムの適正化
人が特定の会社で働く大きな動機の一つに、「存在価値を認めてもらいたい」という欲求があります。自分の仕事が組織に貢献していると感じられ、その貢献に対して正当な評価を受けることで、社員は「やる気」を高め、さらなる貢献意欲を持ちます。
だからこそ、評価システムは「やる気」の方向性に大きく影響を与えます。評価システムを通じて、組織にとって何がプラスで、何がマイナスなのかを明確に示せば、社員の行動を誘導し、組織全体の目標達成に貢献させられるでしょう。
②適切なフィードバックと面談
「やる気」を正しく誘導するには、社員一人ひとりのモチベーションを理解し、適切なフィードバックを行うことが重要です。定期的な面談を通して、個人の「やる気」の方向性を確認し、組織全体の目標達成に向けた行動を促す必要があります。
一人ひとりのやる気の源泉を理解する
「やる気」には、自由型、成果型、連帯型といった異なるタイプがあります。それぞれのタイプによって、モチベーションの源泉や行動特性が異なります。
例えば、自由型の人は、自分の裁量で自由に仕事を進められることに「やる気」を感じます。一方、成果型の人は、目標を達成し、目に見える成果を上げることによって「やる気」が高まります。
そのため、フィードバックを行う際には、それぞれのタイプに合わせたアプローチをとる必要があります。
定期的な1on1や評価面談で、本人のモチベーションの方向性を確認
定期的な1on1ミーティングや評価面談は、個人の「やる気」の方向性を確認し、軌道修正を行うための貴重な機会です。面談では、以下の点に注意しましょう。
傾聴する
まずは、社員の話をよく聞き、本人の考えや気持ちを理解することが重要です。
具体的で建設的なフィードバック
抽象的な意見ではなく、具体的な事例を挙げてフィードバックすることで、社員の理解を深め、行動変容をうながせます。
未来志向
過去の行動を責めるのではなく、未来に向けてどのように行動すれば良いのかを一緒に考えることが重要です。
チームや組織との接点を強調
フィードバックでは、個人目標の達成状況だけでなく、チーム全体への貢献度や連携状況についても触れる必要があります。個人の「やる気」が、チームや組織全体の目標達成にどのようにつながっているのかを理解させることで、組織への貢献意欲を高められます。
評価指標で「行動プロセス」にも注目する
評価指標は、成果だけでなく、行動プロセスにも注目する必要があります。例えば、「顧客満足度向上」という目標に対して、どのような行動をとったのか、どのような工夫をしたのかの評価によって、社員の行動変容をうながすことができます。
③ルールと裁量のバランス調整
「やる気」を維持し、組織全体のパフォーマンスを最大化するには、ルールと裁量のバランスを適切に調整することが重要です。社員一人ひとりの自主性を尊重しつつ、組織としての秩序を維持することで、創造性と効率性を両立させられます。
ルールを周知徹底する
近年、働き方の多様化が進み、フレックスタイム制やリモートワークなど、自由度の高い働き方が広がりつつあります。また、成果主義を導入する企業も増え、個人の裁量で仕事を進められる機会が増えています。
しかし、自由な働き方や成果主義を導入する場合でも、組織として守るべきルールは存在します。コンプライアンスや社内マナー、情報セキュリティなど、組織全体で共有すべきルールを明確化し、社員に周知徹底することが重要です。
裁量権の範囲を明確に設定
社員の自主性を尊重し「やる気」を高めるには、裁量権を与えることが効果的です。しかし、裁量権を与える範囲があいまいだと、責任の所在が不明確になり、トラブルに発展する可能性があります。
「ここまでは自由にやってOK」「これは必ずマネージャーと相談」など、行動範囲の線引きを明確にすれば、社員は安心して仕事に取り組めます。
裁量権の範囲は、社員の経験や能力、職務内容に応じて調整する必要があります。経験の浅い社員には、最初は小さな裁量権を与え、徐々に範囲を広げていくのが効果的です。
やる気を正しい方向へ導いて組織を強くする
組織が発展するためには、社員一人ひとりの「やる気」を最大限に引き出し、その力を結集することが重要です。「やる気」は、組織にとって重要なパワーソースであり、社員のモチベーション向上は、組織全体の成長に直結すると言えるでしょう。
しかし、前述の通り、「やる気」は諸刃の剣です。個人の「やる気」が組織の目標とずれている場合、その力は組織を弱体化させる方向に働いてしまう可能性も秘めているのです。
だからこそ、重要なのは「目的」を見据えた「やる気」です。個人の意欲を尊重しつつ、組織のミッション・ビジョンと一致させることで、それぞれの「やる気」を組織全体の成長へとつなげられます。
なお、当方では心理学に基づく、組織やチームのモチベーション分析を行っております。ご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。