「この仕事、本当に自分に合っているのかな?」「自分の強みを生かせる仕事ってなんだろう?」そんな悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。キャリアを築いていく上で、自分の価値観や欲求に合った仕事を選ぶことは、やりがいや成長につながる大事なポイントです。
キャリアアンカーとは、まさにその「自分に合った仕事」を見つけるための重要な手がかりとなる考え方です。アメリカの組織心理学者、エドガー・H・シャイン博士が提唱したこの理論は、個人が仕事において譲れない価値観や欲求を明らかにし、キャリア選択の指針とするものです。
この記事では、キャリアアンカー理論の基本的な内容から、それぞれのタイプの特徴、そして自己分析ツールとして活用できるキャリアアンカー診断の活用方法を解説します。
キャリアアンカーとは?
キャリアアンカーとは、個人がキャリアを選択する上で最も大切にし、譲ることができない価値観や欲求のことです。いわば、仕事における自分自身の「錨(いかり)」のようなもので、周囲の環境や状況が変わっても、自身のキャリアを安定させる軸となります。
この概念は、アメリカの組織心理学者であるエドガー・H・シャイン博士によって提唱されました。シャイン博士は、MIT(マサチューセッツ工科大学)で長年にわたりキャリア開発の研究を行い、数多くのビジネスパーソンを対象にしたインタビュー調査を通じて、キャリアアンカー理論を確立しました。
シャイン博士は、個人がキャリアにおいて重要視する要素として、「能力(コンピタンス)」「動機」「価値観」の3つを挙げ、これらが複雑に絡み合うことで、8つの異なるキャリアアンカーが形成されるとしました。
キャリアアンカーは、単なる「やりたいこと」や「得意なこと」とは異なります。それは、個人が仕事に対してどのような貢献をしたいのか、どのような働き方を望むのか、といったより深層的な価値観や欲求を反映しています。
キャリアアンカーのタイプ
キャリアアンカーは、個人の価値観や欲求によって8つのタイプに分類されます。それぞれのタイプは、仕事に対する考え方や、どのような環境で能力を発揮できるのか、といった特徴を持っています。
これから紹介する8つのタイプは、必ずしもどれか1つに当てはまるわけではありません。複数のタイプを併せ持つこともあれば、時間の経過とともに変化することもあります。
重要なのは、それぞれのタイプの特徴を理解し、自分自身と照らし合わせることで、より深く自己理解を深め、キャリア選択のヒントを得ることです。
①技術/職務型
技術/職務型のキャリアアンカーを持つ人々は、自身の専門技術や職務スキルに強い誇りを持ち、その分野での専門性を深めることに大きな満足感を感じます。
彼らは職務内容や技術の質を重視し、管理職や経営の役割よりも、特定の技術や職務のスペシャリストとしての地位を追求します。
このタイプの人々に適した職種は、エンジニア、プログラマー、研究者、デザイナーなど、専門知識や技術力が求められる職業です。
彼らは、自身のスキルを磨き続けることで高い成果を上げ、専門分野での卓越した能力を発揮することに喜びを見出します。
②管理職型
管理職型のキャリアアンカーを持つ人々は、組織やチームを効果的に運営・管理することに強い関心と満足感を持ちます。
彼らはリーダーシップを発揮し、目標達成に向けた戦略立案や意思決定、チームのモチベーション管理に優れています。組織全体の成果に寄与することにやりがいを感じるため、上級管理職や経営層を目指す傾向があります。
このタイプに適した職種は、マネージャー、プロジェクトマネージャー、部門長、CEO、COOなど、組織運営やチーム管理を担う役割です。
彼らは、人材育成や組織の効率化に力を注ぎ、リーダーシップを通じてチームを成功へと導く能力に秀でています。
③自立/独立型
自立/独立型のキャリアアンカーを持つ人々は、自由と自主性を重視し、組織や他人に依存しない働き方に強い魅力を感じます。
彼らは自分自身で決定を下し、自分のペースで仕事を進めることを好みます。
このタイプの人々は、独立して働く環境やフリーランスの仕事に適しています。具体的には、コンサルタント、フリーランスのデザイナーやライター、起業家、独立した専門職(例:弁護士、会計士)などが適した職種です。
彼らは自らのスキルや知識を活かし、自己の裁量でプロジェクトを遂行することに大きな満足感を得ます。自己管理能力が高く、挑戦を楽しむ傾向があります。
④保障/安定型
保障/安定型のキャリアアンカーを持つ人々は、職業生活における安定性と安全性を最も重視します。
彼らは長期的な雇用保障や福利厚生、安定した収入を求め、リスクを最小限に抑えることを好みます。
このタイプの人々は、大企業や公務員など、安定した職場環境と確実なキャリアパスを提供する職種に適しています。具体的には、銀行員、行政職、公務員、安定した企業の正社員などが挙げられます。
彼らは一つの組織で長期間働くことを理想とし、組織の一員として貢献し続けることで安心感を得ます。定型的な業務や予測可能な仕事の流れを好み、安定した環境での長期的なキャリア形成を目指します。
⑤起業家的創造性型
起業家的創造性型のキャリアアンカーを持つ人々は、新しいアイデアを生み出し、それを実現することに強い興味と情熱を持ちます。
彼らは創造性と革新性を重視し、リスクを取ってでも独自のビジネスやプロジェクトを立ち上げることに喜びを見出します。
このタイプの人々は、起業家、スタートアップ創業者、イノベーションマネージャー、新規事業開発担当など、創造力とリーダーシップを活かせる職種に適しています。
彼らは市場のニーズを敏感に察知し、新しい製品やサービスを提供することで成功を収めることを目指します。自分のビジョンを形にし、他者を巻き込んでプロジェクトを推進する能力に優れています。
⑥奉仕/貢献型
奉仕/貢献型のキャリアアンカーを持つ人々は、他者や社会に対する貢献を最も重視します。
彼らは人々の生活を改善したり、コミュニティに貢献することで充実感を得ます。
このタイプの人々は、社会的意義のある仕事や、人々の支援を直接行う職種に適しています。具体的には、医師、看護師、教師、ソーシャルワーカー、NPO職員などが挙げられます。
彼らは、助けを必要とする人々のために働き、社会全体の福祉向上に寄与することにやりがいを感じます。人間関係を大切にし、共感力や対人スキルに優れ、他者のために尽力することを喜びとする傾向があります。
⑦純粋な挑戦型
純粋な挑戦型のキャリアアンカーを持つ人々は、困難な課題や競争の中で自分の能力を試すことに強い魅力を感じます。
彼らは常に新しい挑戦を求め、自分の限界を超えることを目指します。
このタイプの人々は、予測不可能な状況や高いストレスの中で力を発揮することができ、問題解決や目標達成に向けて高いモチベーションを持ちます。適した職種には、起業家、トップ営業担当、アスリート、投資銀行員、戦略コンサルタントなど、競争が激しく、挑戦的な環境が求められる仕事が挙げられます。
彼らは、目標に向かって突き進むことで達成感を得るとともに、自分自身の成長を実感することに大きな満足を見出します。
⑧ライフスタイル型
ライフスタイル型のキャリアアンカーを持つ人々は、仕事と個人の生活のバランスを最も重視します。
彼らはキャリアだけでなく、家族、趣味、地域活動などのライフスタイル全体を大切にします。仕事が生活の一部であり、仕事とプライベートの調和が重要です。
このタイプの人々に適した職種は、柔軟な働き方が可能な職業や、ワークライフバランスを重視する企業の職種が挙げられます。具体的には、リモートワークの可能な職種、フリーランス、クリエイティブ職、地域密着型の仕事などが適しています。
彼らは、自分のライフスタイルを維持しながら働くことで、高い満足感と幸福感を得ることができます。
キャリアアンカー診断の活用方法
キャリアアンカー診断は、自分のキャリアアンカーを特定し、今後のキャリアプランを考える上で非常に役立つツールです。診断結果を参考に、以下の3つのステップでキャリアプランを見直せます。
自己理解を深める
診断結果で示された自分のキャリアアンカータイプを参考に、自分の価値観や欲求を深く掘り下げてみましょう。なぜそのタイプに共感するのか、過去の経験と照らし合わせて考えてみることで、より明確な自己像が見えてきます。
キャリアプランを具体化する
自分のキャリアアンカータイプに合った働き方や職種を具体的に考えてみましょう。転職サイトや求人情報、業界研究などを活用し、具体的な情報を収集することで、より現実的なキャリアプランを立てることができます。
行動計画を立てる
キャリアプランを実現するために、具体的な行動計画を立てましょう。必要なスキルや資格の習得、転職活動、副業の開始など、目標達成に向けたステップを明確にすることで、モチベーションを維持しやすくなります。
キャリアアンカー診断は、あくまで自己分析の1つのツールです。診断結果にとらわれすぎず、自分自身の経験や直感を大切にし、柔軟なキャリアプランを立てていくことが重要です。
まとめ
この記事では、キャリアアンカー理論の基本的な内容から、8つのタイプの特徴、そしてキャリアアンカー診断の活用方法まで詳しく解説しました。
キャリアアンカー診断は、自分自身の価値観や欲求を深く理解し、本当にやりたいこと、自分らしいキャリアを見つけるための強力なツールです。キャリアアンカー診断を活用すれば、これからのキャリアプランを具体的に考えることができます。
これからの時代、働き方はますます多様化し、一人ひとりが自分らしいキャリアを築いていくことが求められます。キャリアアンカーを意識することで、変化の激しい社会の中でも、自分自身の軸をしっかりと持ち、納得のいくキャリアを歩んでいきましょう。
なお、当方では、キャリアアンカー理論をベースとした診断コンテンツの開発を行っております。もし、興味がございましたら、お気軽にご相談ください。