【連載小説】第115話 思いがけない出会い

【連載小説】第115話 思いがけない出会い

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世の中、突然何が起きるか分からない。

その頃の『クラブ結』は、常連のお客様にも恵まれ、女の子たちもようやく落ち着いてきた。

これから――と思った矢先だった。

それまで頑張ってくれていた女性たちが、結婚やそれぞれの事情で次々と辞めることになった。

中には、あまりにも酒癖が悪く、こちらから他のお店を紹介して辞めてもらった女性もいた。

一人辞めると、なぜか続く。

その連鎖は怖いもので、瞬く間に人手不足が深刻な問題になった。

それでも、店の軸になっている女性たちは変わらずいてくれたので、さほど危機感を抱いていたわけではなかった。

それでも急いで、アルバイト情報誌で募集をかけることにした。

このアルバイト情報誌というのが、なかなかの曲者だった。

その週によっては、問い合わせの電話が一本もないこともある。

かと思えば、突然、何本もの電話が殺到することもある。

ところが今回は、まるで宝くじにでも当たったようだった。

面接に来る女性が、揃いも揃って美人ばかりだった。

私は自分の幸運に、思わず感謝した。

その中でも、蓉子ちゃんという女性は、決して若いという年齢ではなかったが、色白で品の良い美人だった。

そして、持って生まれたものなのだろう。

人を自然に惹きつける、不思議な魅力を持っていた。

もう一人は、早紀ちゃん。

こちらも美人だったが、どことなく表情が乏しく、暗い印象があった。

それでも、それを上回るほどの美貌があったので、来てもらうことにした。

『クラブ結』の中心になっている女性は三人だった。

一番古株なのが恵美さん。

年齢も一番上だったことから、みんなのリーダー的な存在だった。

次が、例の奈津子さん。

たくさんのお客様を持ち、事実上のナンバーワンだった。

けれど本人は、それほど自分がナンバーワンだということを意識していない。

明るくて、誰からも好かれる女性だった。

そして、その次に続くのが唯さん。

毎日のように遅刻するので、みんなから『遅刻の女王様』と呼ばれるほどルーズな性格だった。

それでもスタイルが良く、洗練されていて、お客様からの人気は高かった。

ただ、かなり気の強い女性でもあった。

その他にも何人かの女性がいたが、昼間も仕事をしているため、週に二日から三日の出勤。

戦力としては、なかなか計算できない女性がほとんどだった。

蓉子ちゃんと早紀ちゃんは、夜の仕事が初めてだった。

そこで、まずはカウンターで仕事を覚えてもらうことにした。

ところが不思議なことに、2人が入った初日から、カウンターに座りたがるお客様が多かった。

2人が来てくれたおかげで、店の雰囲気も一段と華やかになったように感じた。

その効果は、すぐに数字にも表れた。

そして、私が想像していた通り、蓉子ちゃんは持ち前の魅力で、あっという間に人気を集めていった。

それから一年が過ぎた。

ある秋の夜のことだった。

美月の古いお客様である三木さんが、どこかのお店の店長らしい男性を連れて来店した。

三木さんは蓉子ちゃんのファンだった。

普段はBOX席に出ることのない蓉子ちゃんだったが、三木さんの席だけは例外だった。

その夜も、蓉子ちゃんが席につくことになった。

『こんばんは。わあ! お待ちしてました』

『やあ、蓉子ちゃん。元気そうだね』

『ええ。三木さん、この前のゴルフはどうでした? 天気が悪かったから心配してました』

『嬉しいね。こんな美人さんに心配してもらうなんて。ところで蓉子ちゃん、今日はこちら、真田さん。ここの近くのお店のマスターで、俺の大学の後輩なんだよ』

『只今ご紹介に預かりました、真田です。マコトの田と書いて真田。真田を宜しく!』

『やだ、真田さん。選挙運動みたい』

その場にいた全員が大笑いした。

『いやいや、これまた失礼!』

真田さんがおどけて何かを言うたびに、みんなが笑った。

その場はいつの間にか、和やかな空気に包まれていた。

真田さんは、スポーツ選手のようなしなやかな体つきをしていた。

精悍な顔立ちからは想像できないほど明るく、人を和ませる才能があるようだった。

『真田さん、私、蓉子と言います。宜しくお願いします』

『蓉子ちゃんかぁ。太陽の陽子ちゃんかな?』

『いいえ。芙蓉という花の名前からとったって、母から聞いてます。本当かどうか分かりませんが、芙蓉の花は昔から美しい女性の例えにもなっているみたいで。綺麗になるようにって、付けたようです』

『そうか。芙蓉の蓉子ちゃんね。お母さんの期待通りだね』

そう言いながら、真田さんがそっと蓉子の手に触れた。

その瞬間だった。

蓉子の身体に、電気が走ったような感覚があった。

突然のことで動揺した蓉子は、それを隠すように急いで名刺を差し出した。

『遅くなりました。私の名刺です』

その名刺には、携帯電話の番号まで手書きされていた。

『なんだ、蓉子ちゃん。この後輩が気に入ったのか? 蓉子ちゃんの目が輝いてきたぞ!』

『やだ、三木さんったら。そんなことないですよ。私の名前の意味をお話ししてたの』

『蓉子ちゃんの名前の意味? 俺なんか一度も聞いたことないぞ!』

その日は、最後まで笑いに包まれていた。

誰もが、何事もなく楽しい夜が終わったと思っていた。

美月もそう思っていた。

この時の私は、蓉子ちゃんがこれほど早く店に馴染み、これほど多くのお客様に愛される女性になることを、ただ嬉しく思っていた。

そして何より――

これからも、彼女は『クラブ結』の仲間として、一緒に頑張ってくれる。

そう、当たり前のように思っていた。

まさかその一年後、

蓉子ちゃんと奈津子さんが2人揃って突然店を辞めることになるなんて。

しかも、それが真田さんと結託した上でのことだとは――

この時の美月は、知る由もなかった。
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