【連載小説】第54話 終わりの理由

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それは、あまりにも突然だった。

閉店前の静かな店内で、
正木店長がぽつりと口を開いた。

『……話があるんだ』

その顔を見た瞬間、
いい話ではないと分かった。

『この店、今月で閉めることになった』

一瞬、意味が理解できなかった。

『え……?どうして?
最近、少しずつ良くなってきてたじゃないですか』

『……理由は聞かないでくれ』

そう言いながらも、店長の声はどこか揺れていた。

『納得できません』

思っていたより、強い声が出た。

『私、この店を任されて……
ちゃんとやってきたつもりです』

その言葉は、
自分に言い聞かせるようでもあった。

しばらく沈黙が続いたあと、
店長は観念したように息を吐いた。

『……俺が悪いんだ』

空気が変わった。

『女房がな、入院してるんだ』

ぽつりぽつりと語られる言葉。

『金が必要で……
最初はほんの少しのつもりだった』

でもそれは、止まらなかった。

気づけば、戻れないところまで来ていた。

『……ばれるのは時間の問題だった』

その瞬間、美月は胸の奥がざわついた。

——もしかして。

私がつけていた、あの日計表。

けれど、その言葉は飲み込んだ。

『麗子ママには、全部話した』

『店は閉める。でも罪は問わないって言ってくれた』

店長は、どこか救われたような顔をしていた。

『……だから俺は、なんとしても全部返す』

その言葉は、重かった。

何が正しくて、何が間違っているのか。

分からなくなった。

ただひとつ確かなのは——

この場所が、終わるということだった。

それから数日で、店は静かに幕を下ろした。

あっけないほど、何も残さずに。

私はまた、元の店に戻ることになった。

あの、笑っていてもどこか張り詰めている場所へ。

正直、気が進まなかった。

ここで終わっていた方が、
きっと楽だった。

けれど——

人生は、そう簡単に終わらせてくれない。

その頃。

私は、もうひとつの流れの中にいた。

高坂。

気づけば、彼のことばかり考えていた。

自由で、強引で、どこか危うい人。

それでも、惹かれていた。

そんなある日。

突然、電話が鳴った。

『美月ちゃん……やばいことになった』

聞いたことのない高坂の声だった。

『どうしたの?』

『事故った』

一瞬、時間が止まった。

『怪我は!?』

『大丈夫……首がちょっと痛いくらい』

安堵と同時に、嫌な予感が胸をよぎる。

『車はダメになった。会社のだから……怒られたよ』

どこか軽く言っていた。

でも、その軽さが逆に引っかかった。

その時は、ただ無事でよかったと思った。

それだけだった。

けれど——

あの事故が、
この先の人生を変えることになるとは。

まだ、この時の美月は知らなかった。
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