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【連載小説】第54話 終わりの理由
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小説
☆夢子☆銀座30年相談室
2026/04/30 19:34
それは、あまりにも突然だった。
閉店前の静かな店内で、
正木店長がぽつりと口を開いた。
『……話があるんだ』
その顔を見た瞬間、
いい話ではないと分かった。
『この店、今月で閉めることになった』
一瞬、意味が理解できなかった。
『え……?どうして?
最近、少しずつ良くなってきてたじゃないですか』
『……理由は聞かないでくれ』
そう言いながらも、店長の声はどこか揺れていた。
『納得できません』
思っていたより、強い声が出た。
『私、この店を任されて……
ちゃんとやってきたつもりです』
その言葉は、
自分に言い聞かせるようでもあった。
しばらく沈黙が続いたあと、
店長は観念したように息を吐いた。
『……俺が悪いんだ』
空気が変わった。
『女房がな、入院してるんだ』
ぽつりぽつりと語られる言葉。
『金が必要で……
最初はほんの少しのつもりだった』
でもそれは、止まらなかった。
気づけば、戻れないところまで来ていた。
『……ばれるのは時間の問題だった』
その瞬間、美月は胸の奥がざわついた。
——もしかして。
私がつけていた、あの日計表。
けれど、その言葉は飲み込んだ。
『麗子ママには、全部話した』
『店は閉める。でも罪は問わないって言ってくれた』
店長は、どこか救われたような顔をしていた。
『……だから俺は、なんとしても全部返す』
その言葉は、重かった。
何が正しくて、何が間違っているのか。
分からなくなった。
ただひとつ確かなのは——
この場所が、終わるということだった。
それから数日で、店は静かに幕を下ろした。
あっけないほど、何も残さずに。
私はまた、元の店に戻ることになった。
あの、笑っていてもどこか張り詰めている場所へ。
正直、気が進まなかった。
ここで終わっていた方が、
きっと楽だった。
けれど——
人生は、そう簡単に終わらせてくれない。
その頃。
私は、もうひとつの流れの中にいた。
高坂。
気づけば、彼のことばかり考えていた。
自由で、強引で、どこか危うい人。
それでも、惹かれていた。
そんなある日。
突然、電話が鳴った。
『美月ちゃん……やばいことになった』
聞いたことのない高坂の声だった。
『どうしたの?』
『事故った』
一瞬、時間が止まった。
『怪我は!?』
『大丈夫……首がちょっと痛いくらい』
安堵と同時に、嫌な予感が胸をよぎる。
『車はダメになった。会社のだから……怒られたよ』
どこか軽く言っていた。
でも、その軽さが逆に引っかかった。
その時は、ただ無事でよかったと思った。
それだけだった。
けれど——
あの事故が、
この先の人生を変えることになるとは。
まだ、この時の美月は知らなかった。
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#欲望と野心
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