(1)問題
次の文章を読み、設問に答えなさい。
① デザインとはスタイリングではない。ものの形を計画的意識的に作る行為は確かにデザインだが、それだけではない。(イ)デザインとは生み出すだけの思想ではなく、ものを介して暮らしや環境の本質を考える生活の思想でもある。したがって、作ると同様に、気付くということのなかにもデザインの本意がある。
② 僕らの身の周りにあるものはすべてデザインされている。コップも、蛍光灯も,ボールペンも、携帯電話も,床材のユニットも,シャワーヘッドの穴の配列も,インスタントラーメンの麺の縮れ具合も、計画されて作られているという意味ではすべてがデザインされていると言っていい。人間が生きて環境をなす。(ロ)そこに織り込まれた膨大な知恵の堆積のひとつひとつに覚醒していくプロセスにデザインの醍醐味がある。普段は意識されない環境のなかに、それを意識する糸口が見つかっただけで、世界は新鮮に見えてくる。
③ (ハ)人間は、世界を四角くデザインしてきた。有機的な大地を四角く区画し、四角い街路を設けて、そこに四角いビルを無数に建ててきた。四角い自動ドアからビルに入り,四角いエレベーターに乗って昇降する。四角い廊下を直角に曲がって,四角いドアをあけると四角い部屋が現れる。そこには四角い家具,四角い窓が配されている。
④ テーブルもキャビネットもテレビも,それを操作するリモコンも四角い。四角いデスクの上で四角いパソコンの四角いキーを打ち,四角い便箋に文字を出力する。その便箋を入れる封筒も四角く、そこに貼る切手も四角い。そこに押される消印は時に丸いけれども。
⑤ なぜ人類は環境を四角くデザインしたのだろうか。見渡してみると、自然のなかには四角はほとんどない。四という数理が自然のなかになくはないはずだが,四角は非常に不安定なので、具体的に発現することが少ないそうだ。ごくまれに、完璧な立方体の鉱物の結晶など見ることがあるが、この造化の妙はむしろ人工的に見える。
⑥ おそらくは、直線と直角の発見、そしてその応用が、四角い形をこれほど多様に人間にもたらした原因だと思われる。直線や直角は、2本の手を用いれば、比較的簡単に具体化することができる。たとえばバナナのような大きな葉を2つに折ると、その折れ筋は直線になる。その折れ筋をそろえるようにもう1回折ると、直角が得られるのである。その延長に四角がある。つまり四角とは、人間にとって、手をのばせばそこにある最も身近な最適性能あるいは幾何学原理だったのである。だから最先端のパソコンも携帯も,そのフォルムは古典的なのだ。
(中略)
⑦ 円もまた、人間が好きな形の1つである。古代神具の鏡も、貨幣も,ボタンも,マンホールの蓋も,茶碗も CDも正円である。初期の石器の中央に正円が完璧にくり抜かれているのを見て驚いたことがあるが、硬い石をドリルのように回転させて、より柔らかい石をくり抜くと、ほぼ完璧な正円の穴を得ることができる。これもまた、回転という運動に即応して人の2本の手が、頭脳による推理や演繹より先に、正円を探り当てていたかもしれない。いずれにしても,簡潔な幾何学形態は、人間と世界の関係のなかに合理性に立脚した知恵の集積を築いていく基本となっている。人間は、四角に導かれて環境を四角くデザインしてきた。そしてそれに劣らず円形にも触発されて、日用品に少なからず円を適用してきたのである。
⑧ マンホールの蓋は、四角ではなく丸である。(ニ)もしマンホールの蓋が、四角だったら,蓋はマンホールの穴のなかに落ちてしまう。だから、マンホールの蓋は丸くなくてはいけない。
⑨ 丸いと無駄が発生する。紙は縦横のプロポーションが1対√2の比率に設定されていて、何度折っても縦と横の比率は同じになるように意図されている。
⑩ 鉛筆の断面は六角形であるが、これにも勿論理由がある。断面が丸いと、鉛筆は机の上を転がりやすく、机の上から床に落下しやすい。硬い床に落下すると、柔らかい炭素の芯は簡単に折れてしまう。この不都合を避けるなら、おのずと鉛筆の断面は転がりにくい形を模索することになる。しかし転がりにくいからといって、断面が三角や四角だと持った時に指が痛い。したがって、転がりにくく程よい握り心地で、左右対称で生産性のいい六角形に落ちついたという次第である。
(原研哉著『日本のデザインー美意識がつくる未来』岩波書店 2011年 一部改変)
問1 太字(ハ)に「人間は、世界を四角くデザインしてきた」とあるが,その理由を、著者の考えに即して120字以内で述べなさい。
問2 太字(ロ)に「そこに織り込まれた膨大な知恵の堆積のひとつひとつに覚醒していくプロセス」とあるが,四角や円形のデザインに関して、著者はどのようなプロセスを考えているか。120字以内で述べなさい。
問3 太字(ニ)に「もしマンホールの蓋が,四角だったら、蓋はマンホールの穴のなかに落ちてしまう」とあるが,なぜそうなるのか、その理由を120字以内で述べなさい。
問4 太字(イ)にあるように、「デザインとは生み出すだけの思想ではなく、ものを介して暮らしや環境の本質を考える生活の思想でもある」と著者は主張している。この考えをふまえて、あなたが宮城大学事業構想学部デザイン情報学科で学んでいくうえで、どのような態度や取組が必要だろうか。あなたの考えを,300字程度で述べなさい。
(2)解答例
問1
直線と直角の発見とその応用が四角い形をこれほど多様に人間にもたらした原因である。直線や直角は2本の手を用いれば比較的簡単に具体化することができる。四角とは人間にとって、手をのばせばそこにある最も身近な最適性能あるいは幾何学原理だったから。(119字)
問2
大きな葉を2つに折るとその折れ筋は直線になりそれをそろえるようにもう1回折ると直角となりその延長に四角がある。硬い石を回転させて、より柔らかい石をくり抜くとほぼ完璧な正円の穴を得ることができる。このように人の2本の手が四角や円を探り当てた。(120字)
問3
四角い穴に四角い蓋はズレて斜めになったとき、四角形の対角線は四角の一辺よりも長いから、対角線のところから蓋は穴へ落ちる。丸い蓋は斜めにズレても丸い穴の直径は3 6 0度同じ長さなので、マンホールの蓋の直径が同じか少し大きければ蓋が穴には落ちない。(120字)
問4
私は2つの態度と取組みを考えている。第一に環境を快適・安全なものとして人間に合わせるユーザーフレンドリーを志向する態度である。これを実現するには、心理学や認知科学、危機管理学といった、普遍的な人間の本質に関わる分野の学びから現場のユーザーの情報を収集・解析してシステムの改良へとフィードバックする取組みをする。第二に障害者や高齢者、情報弱者などのマイノリティーの立場に配慮してデザインする態度である。こちらは福祉や医療などの知見も参考にしながら、ユーザーの属性に合わせて、より多くの人が快適・安全に使えるユニバーサルデザインを通してノーマライゼーションに基づいた社会の実現に向けた取組みを目指したい。(300字)
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