(1)問題
① 大学の合格発表の日のことです。
② 私の父は日本経済新聞社の正社員、母親は小学校教員でした。障害のある兄がいましたが、我が家が経済的に困ることはありませんでした。
③ 母親は学校教員というだけあって、教え方がうまかったのだと思います。私は気がつけば「勉強のできる子」でした。
④ 中学校に入ってからは、個室も与えてもらいました。
⑤ 勉強したいときは、誰にも邪魔されずに勉強できる環境がありました。
⑥ 中学校二年生からは塾にも行きました。友だちが行き始めたから自分も行きたい,と言ったら行かせてもらえました。塾代は結構な金額だったと思いますが、親が全部出してくれました。
⑦ 公立高校に進もうと思っていましたが、塾の先生に薦められて私立武蔵高校を受験し、合格しました。その高校の学費は当時でも年間五十万円以上していたと思いますが、それも親に全部出してもらいました。
⑧ その高校は三分の一以上が東京大学に進む学校で、いい友人にも恵まれて、たくさんの刺激を受けました。私は勉強ができるほうではありませんでしたが、一年浪人して東大に合格しました。
⑨ 合格発表の日,自分の番号が掲示板にあるのを見つけたとき、私は上記のような環境で育つことができたから,自分は東大に入れたんだな、とは一切思いませんでした。
⑩ むしろ、「よくがんばったな」「いろいろ誘惑もあったけど、耐えたもんな」と、原因のすべてを自分の努力に帰していました。
⑪ たしかに、私なりの努力はしました。しかし世の中には、私と同じ努力をしても同じ結果に到達できない人はいます。
⑫ 自分の部屋が与えられず、小さい兄弟が騒がしくする中,また父親がテレビをつけている同じ空間で勉強せざるを得ない人は、私よりも高度な集中力を要求されたでしょう。
⑬ 自分が望んでも塾に通うことがかなわない人もいます。
⑭ 十分な学力があっても、授業料の高い私立高校には行けないという人もいるでしょう。一年浪人する余裕がない家庭もあると思います。
⑮ それでも、自分の努力を積み重ねて東大に入学した人はいると思います。そんな人はいないと言うつもりはありません。しかし、子どもを東大に入学させる家庭の平均年収は一千万円を超えているという調査結果もあるように経済力のある家庭の子は有利に、経済力のない家庭の子は不利になります。
⑯ しかし大学入学時の私は、そんなことには思い至りませんでした。自分の努力の結果だと思っていた私は、聞かれればこんなふうに答えていたのではないかと思います。
⑰ いやあ、 私は別に特別な人間ではありませんよ。私なりの努力をしただけです。私だって入れたんだから,他の人だってできますよ。あとは、やるかやらないかの問題でしょうね––と。
⑱ 条件(家庭環境)の異なる人がいることを知りつつ、その違いを消し去るために、あえてそう思っていたわけではない。悪気があるわけではない。単に「見えていない」「知らない」だけです。たいていの子どもは、自分の置かれた家庭環境が、そこに特別なところがあったとしても,「ふつう」だと「こんなもん」だと思うでしょう。
⑲ 他の家庭を詳しく知らないからです。
(中略)
⑳ 世の中には自分の望む結果を得られた人と得られなかった人がいますが、それらをすべて「その人の気持ち次第,努力次第」で、「自分や社会は関係ない」とは考えたくない。
21 むしろ、社会の側の責任を少し多めに見積もるくらいでちょうどいいのではないかと考えています。
(出典:湯浅誠,『ヒーローを待っていても世界は変わらない』, 朝日新聞出版, 2012年より抜粋·一部改変)
問 下線部についての著者の主張を説明した上で、自分と異なる人を受け入れる社会の実現について、あなたの考えを600字以内(句読点を含む)で述べなさい。
(2)解答例
世の中には自分の望む結果を得られた人とそうでない人がいるが、結果の責任を本人の気持ちや努力か社会かと考えるとき、社会の責任を少し多めに見積もることが妥当であると筆者は考えている。
初め筆者が東京大学に合格したとき、これを自分の努力に帰していた。実は経済力のある家庭の子とそうでない家庭の子で大学入試の結果は有利・不利に分かれる。このような家庭環境といった社会的条件の異なる人のことが筆者には見えていず、知らなかった。
筆者と同じように社会的・経済的に恵まれた人はそうでない人の窮状が見えていず、このような状況に人々が置かれていることを努力が足りないと自己責任で切ってしまっている。これでは、困難に直面している他者の存在を他人事として看過し、恵まれている人と恵まれない人との間に分断が起こる。恵まれた境遇に自分がいる場合であっても、親ガチャという言葉があるように、自分がもし貧困家庭に生まれていたら、今どうなっていたかわからない。また将来自分が病気や障害を発症し、苦難に陥ることもあるかもしれない。
自分と異なる人を受け入れる社会を実現するためには、社会のこと他者の置かれた環境について自分ごととして知ることから始めたい。学校などでの学びに加え社会経済や福祉を学び、自分の力ではどうすることもできない課題に直面している人々の声を直接聞く機会を設けることが私たちに求められる。(600字)
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