「異質な他者と共生することの意義」都留文科大学文学部2016年

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学び

(1)問題


設問 次の課題文を読んで、問1と問2に答えなさい。

① 「万物の霊長」という言葉があるように、私たち人間は他の動物よりも頭が良いと思っているらしい。人間はコウモリのように暗闇の中を超音波の反射を頼りに飛び回れはしないし、チーターのように猛スピードで走ることもできない。それでも、これだけの文明を発達させてきたという事実を見ると、確かに少しは「頭が良い」と思ってもいいのだろう。

②人間の「頭の良さ」は、何に由来するのか。計算を素早く、正確に実行するだけならば、今やコンピュータのほうが遥かに優れている。コンピュータはルールの決まったゲームをするのも得意で、チェスの世界チャンピオンを打ち負かしてしまったほどである。

③ 一体、人間の頭の良さの特徴とは何か。多くの研究者が、人間の知能の本質はその社会性にあると考えている。養老孟司先生は、「教養とは他人の心がわかることである」としばしば言われる。他人と心を通じ合わせ、協力して社会をつくりあげることが、人間の頭の良さの本質である。

④ 頭の良さが社会性と深く関わるということを、意外に感じる人もいるかもしれない。学校で勉強ができる子どもはなんとなくツンと澄ましていて、あまりできない子のほうがかえって他人と温かく接することができる。一般にはそのような思い込みがあるかもしれないが、現代の脳科学では、頭の良さとはすなわち他人とうまくやっていけることであると考えるのだ。

⑤他人の心を読み取る能力を、専門用語では「心の理論」という。コンピュータは、いくら計算が速くできたとしても。心の理論を持たない。他人の心を読み取り、初めて会う人ともいきいきとしたやりとりができるといった「コミュニケーション」の能力においては、人間はコンピュータよりもまだまだ遥かに優れているのである。

⑥人間の社会的知性を、他の動物と比べてみると、どうだろうか。人間以外にも、社会をつくる動物はいる。アリは高度に発達した分業体制を持つし、猿の群れの中には社会的地位のようなものがある。しかし、これらの動物に比べてみても、人間の社会的知性が特に優れていることは疑いない。

⑦現在までに得られている知見を総合すると、厳密な意味で他人の心を読み取ることができるのは、全ての動物の中で人間だけであるとされる。「惻隠(そくいん)の情(注)」「あうんの呼吸」「本音と建前」といった言葉に表れているように、相手の考えが身振りや周囲の状況からは容易に判断できない場合でも、目には見えない相手の心を読み取る能力に大変優れている。

⑧そのような能力は、動物にもあると考える人もいるかもしれない。ペットを飼っている人は、うちのポチ、うちのミイちゃんは私の心がわかるのよ、と反論したくなるかもしれない。

⑨確かに、犬や猫などのペットを観察していると、飼い主の心を読み取っているのではないかと思えることがある。寂しそうにしていると近くに寄ってきたり、散歩に連れていってくれそうだとわかるとよろこんだりする。

⑩しかし、科学者は、このような場合、ペットは飼い主の目に見える「行動」を読んでいるのであって、目に見えない「心」がわかるのではないと考える。飼い主のポーカーフェイスの下に隠された本心を察知したり、本当は悲しいのに楽しそうな顔をしているといった飼い主の心がわかるわけではないのだ。
⑪ところで、厳密な意味では「他人の心がわかる」とは言えない犬たちだが、彼らと人間の交流は、社会的知性がそもそもどのように進化してきたのかを考える上で、大切なヒントを提供してくれる。

⑫犬は、人間の行動から意図を察知する能力に長けている。飼い主が見た方向に自分も目を向けたり、手の動きが示すほうに走ったりといった行動は、知能が発達しているとされるチンパンジーよりもむしろ敏捷で反応が良い。

⑬どうして、犬は人間の意図を読み取れるようになったのか。人類の歴史の中で、犬がペットとして飼われるようになった経緯は明確ではないが、犬と人間がお互いの存在を「許容」するようになったことが一つの鍵であったと考えられている。

⑭野生の動物は、お互いに対する警戒心に満ちている。異種の動物はもちろん、同種の仲間にさえ容易に警戒を解こうとはしない。目を合わせれば闘ったり、逃げだしたりすることが普通である。そのような状況では、相手の振る舞いに合わせて自分が協力したり、微妙なニュァンスを読み取ったりといった認知能力は発達しない。

⑮英語に「犬は人間の最良の友」という表現がある。ある時期から、犬と人間がお互いの存在を許容し、リラックスしたままで「一緒にいること」が可能になったことが、犬と人間の「社会的な関係性」が発達する上で大切なきっかけとなったと、科学者たちは考えているのだ。

⑯犬と人間だけではない。人間同士の社会的知性の進化においても、お互いの存在を受け入れ、共生することが本質的に重要であったとされる。

⑰異質な他者を受け入れ、共生することが「頭が良くなる」ことにつながる。最先端の科学の理論が描き出したそのようなシナリオには、世知辛くなっていく現代を生きる人間が耳を傾けるべきメッセージが潜んでいる。

⑱一緒に仲良くいることで頭が良くなる。私たち人間は、そのようにして「万物の霊長」になったのである。
(出典 茂木健一郎「それでも脳はたくらむ」所収、2007年、中央公論新社)

注記(注)惻隠の情―人をいたわしく思う心。(出典「広辞苑」第六版)

問1 人間の頭の良さの特徴は何であると筆者は述べていますか。本文中に出てくる他の動物との違いに触れながら200字以内で述べなさい。

問2 課題文で筆者は、「異質な他者を受け入れ、共生することが『頭が良くなる』ことにつながる」と述べていますが、異質な他者を受け入れて共生することの意義について、あなたの考えを見聞や体験をふまえて800字以内で述べなさい。
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(2)解答例


問1

他人の心を読み取ることができるのは全ての動物の中で人間だけである。相手の考えが身振りや周囲の状況からは容易に判断できない場合でも目には見えない相手の心を読み取る能力に優れている。他人と心を通じ合わせ協力して社会をつくりあげ、異質な他者を受け入れ共生することが人間の頭の良さの本質である。このような能力は動物にはない。動物は人間の目に見える行動を読んでいるのであって、目に見えない心がわかるのではない。(200字)

問2

 グローバル化の進展により、日本には毎年多くの外国人観光客が訪れ、インバウンド消費に日本経済は支えられている。また、コンビニを初め、人手不足が深刻な産業に外国人労働者は今や欠かせない存在となっている。一方で、近年LGBTと呼ばれる性的少数者の存在がクローズアップされ、こうしたマイノリティーの人権が取り沙汰されている。

 かつて日本は共通の価値観の下、生活スタイルや行動規範が画一化された均質な国民性を持つと言われた。これが大量生産・大量消費を特徴とする高度経済成長をもたらし「豊かな社会」を実現させた。しかし、高度成長も終わりバブル崩壊を経て格差が進展するなか、気候変動とそれに伴う自然災害の甚大化や新型感染症の流行など不確実で先の読めない不安な時代が到来した。こうしたなか、外国人や性的少数者といった人々は大多数の日本人にとって異質な他者であり、彼ら/彼女らに対して不安に駆られる人も現れた。その結果、このようなマイノリティーを排除する動きも一部には起こってきている。

 しかし、同質とされてきた日本文化の源流を辿ってみると、日本固有の要素は意外に少ないことがわかる。仏教や儒教は大陸から伝来し、その媒体となった漢字も中国由来である。明治の文明開化以来、衣食住のすべてにわたり欧米文化の影響は顕著なものとなった。日本文化の本質は異質な他者を受け入れ、自らの内部に取り込み吸収することによって形成されてきたことは以上の例を見ても明らかである。

 様々な局面で困難に直面している現代社会であるからこそ、このような異質な他者とともに各人の持つ知見を取り交わしながら一つ一つ課題を乗り越えてゆくことが求められている。異質なものをうまく取り込む雑種性にこそ日本人の強みがある。多様性が声高に叫ばれるいまこそ、ピンチをチャンスに変えて新しい時代を創ってゆくエポックである。(799字)

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