(1)問題
① 「たしかにわれわれのこの国については」とぼくは言った、「ほかの多くの点でもこの上なく正しい仕方で国を建設してきたと思うけれども、しかしぼくは、とりわけ詩(創作)についての処置を念頭に置いてそう言いたい」
② 「とおっしゃいますと、どのような?」と彼はたずねた。
③ 「詩(創作)のなかで真似ることを機能とするかぎりのものは、けっしてこれを受け入れないということだ。つまり、どうもすべてそうした類いのものは、聴く人々の心に害毒を与えるもののようなのだ。聴衆のほうで、それらの仕事がそもそもどのような性格のものであるかという知識を、解毒剤としてもっていないかぎりはね」
④ 「いったいどのようなお考えで」と彼はたずねた、「そう言われるのでしようか?」
⑤ 「では聞いてくれたまえ。というよりむしろ、答えてくれたまえ」
⑥ 「たずねてください」
⑦ 「それならば、われわれは次のことから考察をはじめることにしようか―いつもやっている探求方法を出発点としてね。というのは、われわれは、われわれが同じ名前を適用するような多くのものを一まとめにして、その一組ごとにそれぞれ一つの(実相)(エイドス)というものを立てることにしているはずだから。どうだ、わからないかね?」
⑧ 「わかります」
⑨ 「ではいまもやはり、そのような(多くのもの)のうちで、どれでも君の好きなものを取り上げることにしよう。たとえば、もしよければ、こんな例で考えよう―寝椅子や机は、数多くあるはずだ」
⑩ 「ええ、むろん」
⑪ 「ところがそれらの家具について、(実相)(イデア)はということになると、二つあるだけだろう―寝椅子のそれが一つと、机のそれが一つ」
⑫ 「はい」
⑬ 「ところで、これもまたわれわれのいつもの説ではないか、―すなわち、いまの二つの家具のそれぞれを作る職人は、その(実相)(イデア)に目を向けて、それを見つめながら一方は寝椅子を作り、他方は机を作るのであって、それらの製品をわれわれが使うのである。他のものについても同様なのだ、とね。なぜなら、(実相)そのものについては、職人のうち誰ひとりそれを作ることはないのだから。どうして作ることができよう?」
⑭ 「けっしてできません」
⑮ 「それではひとつ、次のような製作家についても、君はその職人を何と呼ぶか考えてみてくれたまえ」
⑯ 「どのような職人ですか?」
⑰ 「それぞれの種類の手仕事職人が作るかぎりのものを、すべて何でも作るような職人のことだ」
⑱ 「なんとまあ腕の立つ、驚くべき男ですね!」
⑲ 「まあ待ちたまえ。いますぐにもっと感心するだろうから。いいかね、この同じ手仕事職人は、すべての家具を作ることができるだけではなく、さらに、大地から生じる植物のすべてを作り、動物のすべてを―自分自身をも―作り、さらにこれらに加えて、大地と、天空と、神々と、すべての天体と、地下の冥界にあるいっさいのものを作るのだよ」
⑳ 「ほんとうに驚きました」と彼は言った、「大へんな知恵者ですね」
㉑「信じられないかね?」とぼくは言った、「では聞くが、君はそのような職人は、いかなる意味においても存在しえないと思うのか?それとも、ある意味ではいま言ったすべてのものを作る人がありうるが、ある意味ではありえないと、こう思うのかね? 君は気づかないだろうか―君自身でも、ある仕方でならば、そういったもののすべてを作ることができるだろうということに?」。
㉒「ある仕方とは、どのような?」と彼はたずねた。
㉓「むずかしい仕方ではないよ」とぼくは答えた、「いろんなやり方で、すぐにでもできることなのだが、まあいちばん手っとりばやくやるには、鏡を手に取ってあらゆる方向に、ぐるりとまわしてみる気になりさえすればよい。そうすれば、君はたちまち太陽をはじめ諸天体を作り出すだろうし、たちまち大地を、またたちまち君自身およびその他の動物を、家具を、植物を、そしていましがた挙げられたすべてのものを、作り出すだろう」
㉔「ええ」。と彼は言った、「そう見えるところのもの(写像)を、しかしけっしてほんとうにあるのではないものを、ですね」
㉕「うまい!」とぼくは言った、「議論のために必要適切なことを言ってくれた。というのは、思うに、画家もまたそのような製作者だろうからね。そうだね?」
㉖「ええ、むろん」
㉗「しかしながら、ぼくの思うに、君はきっと画家が作り出すものはほんとうのものではないと、主張するだろう。ただし、ある仕方では画家もやはり寝椅子を作るのだがね。そうではないか?」
㉘「ええ」と彼は言った、「彼もまた、寝椅子と見えるもの(写像)を作るのです」
㉙「では寝椅子作りの職人の場合はどうだろう。ついさっき君は、こう言っていたのではなかったかね。彼は(実相)を――これをわれわれは(まさに寝椅子であるところのもの)と言うわけだが、その(実相)を――作るのではなくて、ある特定の寝椅子を作るのである、と」
㉚「ええ、そう言っていました」
㉛「それなら、彼が<まさにそれであるところのもの>、を作るのではないとすると、彼が作るのは真の(あるもの〉だとはいえなくなって、<あるもの>に似てはいるけれども、ほんとうにあるのではないような何かだ、ということになるだろう。寝椅子作りの職人の製品にせよ、他の何らかの手仕事職人の製品にせよ、それが完全にあるものだと主張する人があれば、その人の言うことは真実ではないだろう」
㉜「けっして真実ではありません」と彼は答えた、「いやしくも、この種の議論に親しんでいる人々の判断するところでは」
㉝「それなら、そういう製品とても真実在にくらべれば、何かぼんやりした存在にすぎないということになっても、けっして驚かないようにしよう」
㉞「ええ、けっして」
出典:プラトン『国家』藤沢令夫訳、岩波書店(一部省略)
問1 本文中の語り手―「ぼく」―の主張を200字以内の日本語で要約しなさい。
問2 問1で要約した「ぼく」の主張に対する論理的な反論を200字以内の日本語で述べなさい。
問3 問1と問2を踏まえた上で、あなたはどちらの立場に立つか表明し、それを現代の具体的な事例をあげながら300字以内の日本語で展開しなさい。
問4 次の文章の空欄①②~⑲⑳にあてはまる最も適切な語を、下の語辞の中からそれぞれ選び、その番号をマークしなさい。ただし、同じ番号の空欄には同じ選択肢が入る。語群には正解と無関係な選択肢も含まれている。一桁の番号の選択肢を選ぶ場合は、十の位に「0」をマークすること
プラトンの時代の古代ギリシャにおける「国家」とは、①②国家のことである。それは集住する市民の共同体であり、「ポリス」と呼ばれた。主たるポリスのひとつ、アテネでは、紀元前71世紀に王制から貴族制へ、その後さらに③④制へと移行したが、ベルシャ戦争において下層市民が活躍して発言力を高めたため、前5世紀には全市民による⑤⑥③④制が確立された。これは民会や民衆裁判所をもつ先進的なものであったが、しかしこの「全市民」からは女性や在留外国人などが排除されており、また奴隷はそもそも「市民」には含まれなかった。このように大きな限界はあるものの、市民ないし人民・民衆(demos)+支配・権力(kratia)として③④主義は、紀元前の古代ギリシャ人によって発明されたと言える。これに対し、現代の③④主義は、古代ギリシャにはなかった基本的人権や、自由、平等の概念を前提としている。それらの新しい概念の起源は、直接的にはヨーロッパ⑦⑧思想に求められる。
近代以前には、国王や貴族たちが身分制を基礎に権力を独占し、民衆に重税を課したり、従わない者を投獄したり、勝手に戦争を始めたりと。民衆の利益を考慮しない一方的な政治が行われた。このような政治を⑨⑩政治と言うここうした政治に対する不満が高まり、近代ヨーロッパに新しい政治・社会思想と体制が生まれたのである。
政治体制としての近代国家は18世紀に相次いで成立した。その成立をもたらした事件とは、⑪⑫=独立戦争と、⑬⑭革命である。イギリスの思想家ジョン・ロックは「個人の生命・自由・則産などは誰も侵すことができない」とし、基本的人権の思想を基礎づけた。彼はまた、「人々の自由を守らない政府は倒してもよい」という革命権・抵抗権の思想も唱えた。⑪⑫独立宣言は、このロックの影響を大いに受けている。
一方、⑬⑭革命の理論的支柱となったのが、ジャン=ジャック・ルソーの「国の権力は本来人民のものだ」という「人民⑮⑯」の思想である。たび重なる戦争や宮廷の浪費によって財政難に陥り、その収拾のために開かれた三部会から階級闘争が激化したが、最終的には市民側が、特権階級が支配する旧体制(アンシャン・レジーム)を拘破し、国王を処刑して、「人間と市民の権利宣言」(人権宣言)を採択した。
これらに共通するのは、⑮⑯が王・貴族から市民・人民に移ったという事実である。こうした体制変革のことを一般に「⑰⑱革命」と言う。「権力者もまた法に従わなければならない」という「⑲⑳の支配」の原則は、⑨⑩政治や独裁政治に陥らないために重要な原則である。
語群
1.間接 2.民主 3.啓蒙 4.産業5.市民 ス6.主権 7.集中
8.神権 9.絶対 10.専制 11.代議制 12.直接 13.田園
14.都市 15.農村 16.法 17.僣主 18.アメリカ 19.イギリス
20.イタリア 21.スペイン 22.ドイツ23.フランス 24.ロシア
(2)考え方
問1
詩作などの芸術において、実相=理想主義と写実=写実主義との対立が論点となっている。
筆者は前者に立っている。このことを踏まえて要約する。
問2
理想主義は表現者の客観を装いながらも、表現者の偏った主観に陥りやすい。この点を突いて批判する。
さらに、理想=抽象、寝椅子や机などの個物=具体の対比関係を押さえ、対象を表現する芸術は、抽象ではなく、まず実際に目で見た具体的な現実から出発することを説く。
問3
筆者に対して賛成するほうが書きやすい。
芸術などの表現は対象を捨象することによって成立するものであることを指摘する。
(注意)捨象:物事の表象から特徴的なことや要素などを取り出して抽象するときに、それ以外の特徴的なことや要素などを切り捨ててしまうこと
ものごとの本質に迫ることが芸術であるとするなら、事物を捨象する操作が本質を考えるうえで欠かせないことを指摘する。
(3)解答例
問1
詩の創作は模倣であってはならない。そうした作品は鑑賞者に害毒を与える。多くのものには共通の実相 (イデア)がある。実相そのものを作ることはできない。一方、鏡で物を写すように、対象を模倣すればすべてのものを作ることができる。こうした制作された写像は実相を表してはいない。画家などの芸術家も同様な手法で作品を制作できるが、こうして作られたものは実相とは似て非なるものである。詩の創作についてもあてはまる。(199字)
問2
筆者の言う実相とは、理念や理想である。優れた芸術家は作品を通してこれを表現するべきであり、対象を写実的に表現することは芸術ではないという主張は、抽象的な観念の遊戯である。これは特定の理念から出発する極端な理想主義に走り、現実を無視したイデオロギーに陥る危険性がある。真実は具体的な現実抜きには語れない。本質とは、先入観を排してひたすら対象を観察し分析することで見えてくるものであって、その逆ではない。(200字)
問3
私は筆者の意見に賛成である。筆者の言う実相とは、具体的な対象を捨象することによって抽出されたものごとの本質である。詩作などの芸術は現実を模倣するわけではない。リアリズム絵画も三次元の対象を二次元空間のキャンバスに表現するのだから、捨象の操作を経る。実相は、個々の寝椅子や机を構成する要素や機能などの共通する特徴を取り出したものである。鑑賞者が寝椅子や机を認識することは、このような実相を表現することなくしては得られない。現実に存在するさまざまなものは多様性を持ち、無秩序で統一性がない。芸術は、実相から出発することで対象に秩序を与え、普遍的な本質に迫ることができるのであって、その逆ではない。(297字)
問4
① ②:14 ③④:2 ⑤⑥:12 ⑦⑧;3 ⑨⑩:10 ⑪⑫:18 ⑬⑭:23 ⑮⑯:6 ⑰⑱:5 ⑲⑳:16
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