オリジナル恋愛小説『檸檬(レモン)~突如姿を消した君~』:第一章「雨とワイン」

記事
小説
※『檸檬(レモン)~突如姿を消した君~』は、魅綬オリジナル小説です。
※魅綬本人の実体験を元に、登場人物や場所・建物名・出来事などには、フィクションを交えて作成しています。
※この小説に関するお問い合わせをメッセージ(DM)等に頂きましても、お答えできかねます。
※実体験を含む小説のため、無断転載や無断使用・無断引用、コピーなどの著作権侵害行為を禁止します。万が一発見した場合は、然るべき措置を取ります。
※シェアは大歓迎なので、是非お友達や家族などにシェアしてもらえると嬉しいです。

第一章『雨とワイン』


私たちには定位置があった。大学にはA棟~J棟まで建物がある中で、私たちはいつもB棟にあるだだっ広いテラス席にいた。
授業やレッスン、各々の練習時間以外は基本的に私たちはここで過ごしたし、ここに来れば誰かしらいつも一緒にいる友達がいる。
直美がイタリア語の授業を受けている間、私と麗子は練習室に行こうと思ったけど、今日は練習室が満室で予約が取れず、仕方なく授業1コマの時間をこのテラス席で過ごしていた。

「あ!魅綬、来たよ!洸(ひかる)くんだ!」

洸くんは私が片思い中の、私の1つ後輩のピアノ専攻の人。身長がとても高く、がっしりとした身体つきとは裏腹にスラリと細く綺麗で長い指。そして髪に緩いパーマを当てていて、少し猫背で歩くイケメン。
たまに挨拶を交わしたり少しお喋りするくらの仲だけど、この恋の進め方がいまいちよく分からなくて、なかなか進展できずにいる。

はぁ。今日もかっこいいなぁ。

そんな事を思いながらチラチラと洸くんを見つめていると、その隣に誰かいるのが見えた。

「あ!魅綬ちゃん!おはよう!」

ピカーン!という言葉がぴったりな満天の笑顔と声のトーンで、その”誰か”が私に話しかけた。凌くんだ。

「凌くん、おはよう。洸くんもおはよう。」

しっかりと顔で笑いながら、若干心の中では舌打ちをしている私がいた。
ーーアンタもおんのかい。
そう出かかった言葉を、グッと飲み込んだ。

「洸、ちょっと魅綬ちゃんと話したいんだけど、いい?」
「え、あ、うん。じゃあ俺、先に行ってるね。」

凌くんの思わぬ発言に驚く私と、少し戸惑う洸くん。
そして洸くんは(お邪魔しました)と言わんばかりのオーラで、そそくさとどこかへ行ってしまった。
「何してくれてんだよ!」
そう口から出かけたその時、横からスッと麗子が出てきた。

「凌くん、今のはダメだよー。魅綬は洸くん推しなんだからー。」

(やれやれ)といった表情で、凌くんに苦言を呈してくれたのだ。

「えっ…!?あ、そうなの!?魅綬ちゃん、洸と話したかった!?ごめん、俺知らなくて……本当ごめん。洸のこと呼んで来ようか!」

本気で申し訳なさそうな表情をしながら、今にでも走り出しそうな凌くんの腕を掴んで「いいの、いいの。眺めてるだけで充分だから。麗子もありがとね、代わりに言ってくれて嬉しかった。凌くんも本当気にしないで。で、話ってなに?」つい口からそう出てしまった。本当は若干腹立ってたのに…。

ーーどこまでも偽善者だなぁ。人の顔色とその場の空気を読み過ぎて、結局自分が一番損な立ち回りをして、何やってんだろう。

いつも自分に対してそう思いはするものの、改善方法が見つからず、今日もこうして同じ過ちを繰り返してしまった。
そこから何だかボーっとしてしまって、気付いたら凌くんが私に言いたかった話も終わっていた。

「あ、ごめん、ボーっとしちゃって…。もう一回話してもらってもいい?」

目の前にいる女が自分の話を全く聞いていなかったのにも関わらず、凌くんは満面の笑みで「全然気にしないで!」と言って、私にこう話しかけた。

「魅綬ちゃんの連絡先を聞きたいのと、もっと仲良くなりたいからもし良ければ今日の夕飯、どこか一緒に食べに行きたいのと、魅綬ちゃんの好きな作曲家が知りたい!」

改めて聞いてはみたけど、心の中で「何言ってんの…?」そう思った私はやっぱりボーっとしていたのかもしれない。でもそれ以上のことを考えることも、その日の私には気力が残っていなくて、ぼんやりとさっきの洸くんの何とも言えない表情が遠くの方でうっすらと思い出されていたことだけは覚えている。

「連絡先、交換しようか。夕飯もいいよ、どこか一緒に食べに行こうか。好きな作曲家はショパンとベートーヴェンとか色々。最近はブラームスのピアノ小品を結構聴いてるかな。」

口からスラスラとセリフのように出てきた自分にびっくりしつつ、その隣で「大丈夫?無理してない?」と心配そうに私の顔を覗き込む麗子の心配りに何故か涙が出そうだった。

その後は自分が一日どうしていたのか覚えてないけど、次にハッと我に返った時には私と凌くんは大学近くにあるイタリアンのお店の中にいて、向かい合わせに座っていた。

「そうかぁ、魅綬ちゃんは洸くんのことが好きなんだね。じゃあ本当に今日のことは申し訳なかった。ごめんね。」

あぁ、そうか。私は洸くんに勘違いをされたかもしれないことに、まず少しモヤモヤしているんだ。そして、洸くんが勘違いしてしまったかもしれない状況を作ったこの目の前の男にも、モヤモヤしているんだ。
それくらい、私はもう洸くんのことが大好きで恋をしていて、どうにか良い関係になりたいと願っているんだ。
この時、改めて自分の気持ちの強さと濃さに気付いた気がする。
そして無意識のうちに、私はそのことを凌くんに話していたようだ。
自分が何を話したのか自分でも覚えていないけど、きっと「どうしたらいいのかなぁ」とか「好きなタイプはどんな人なんだろう」とか、そういう表面的な恋愛相談みたいなことを言ったんだと思う。

「だけどさ、洸くんって麻友ちゃんの事が好きなんだよねぇ。」

全く悪びれる様子も無く、嫌味を言う様子でもなく、赤ワインを慣れた感じでゴクンと飲み干しながら、凌くんは言った。

「え?麻友ちゃんって、洸くんたちといつも一緒に行動している、ピアノ科のあの麻友ちゃん?」

さっきまで飲んでいたビールの酔いが、一気に冷めるのを感じた。
そして自分の頭から血の気が引いていくのも、同時に感じた。

「うん、そうそう。あの麻友ちゃん。近いうち告白するって、洸言ってたよ?」

ーー天然無神経。

私がこの日から、凌くんのことを陰でそう呼ぶことになったのは、言うまでもない。今、目の前で私が好きだと言った男が好きな女の情報を呑気に話し、挙句の果てには近いうちに告白する予定だということまで聞かされて、私は何だか無性に腹がたった。
それは洸くんに、ではなく、もちろん凌くんの無神経さに。

「そうなんだ。それを私に話して、私がどんな気持ちか考えて喋ってる?」

ついトゲトゲしい口調になってしまった。やっと私が言っていることの意味に気付いたのか、ハッとした顔をして「ごめん…」彼は呟いた。
長い沈黙が続き、2人の間には”気まずさ”が激しく存在していた。

ザァァァァァーー………。

沈黙になって、初めていつの間にか外は雨が降っているのだと知った。
目の前にあるワイングラスにほんの少しの赤ワインが残っているのを見つめながら、雨音だけを聞いていた。

次回は『第二章 汗とブラームス』をお送りします。

是非お楽しみに♬


魅綬✬
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら