値上げ(原材料費・エネルギーコスト上昇)対応における調達の心がまえ・姿勢について

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ビジネス・マーケティング
2022年1月26日、公正取引委員会HPにて以下の発表がされました。

(令和4年1月26日)「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」に関する取組について:公正取引委員会

内容を平たく言うと、昨今の原材料費やエネルギーコスト上昇に伴う、仕入先からの値上げ要請に関し、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあることをより明確化(厳格化)するため、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」が改正されました。

改正後の運用基準は下請事業者である仕入先から値上げを求められた際、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で回答することが必要となります。

バイヤーはこれまで以上に厳しい価格交渉となるでしょう。

しかし、『ピンチはチャンス!!』

この状況化でのバイヤーの心がまえ・姿勢を考えてみたいと思います。


値上げ対応における調達の心がまえ・姿勢



査定力向上のチャンス



当然、バイヤーは仕入先からの値上げ要請に対し、その妥当性を見極めることが求められます。

・原材料費アップはマーケット市況比で適切か?
・調達品の原材料比率、使用量などを考慮してどうか?
・そもそも、調達品における労務費や輸送費の原価比率はどれくらいか?
合理的理由のない便乗値上げではないか?


等々、さまざまな側面から仕入先の要請が適切か?検証する必要があり、これができるバイヤーが合理的な理由の範囲で決着させることができるのではないでしょうか。

これまで、仕入先との価格交渉において、調達品の原価を把握する努力を怠ってきたバイヤーには難しいことかもしれません。しかし、かと言って適切な理由なし現在の価格を据え置くことは「買いたたき」に該当するおそれがあります。従い、バイヤーは今回の改正をきっかけに自身の調達品の原価をより深く知る姿勢が求められます。

原価情報を知ることができるチャンス



原価をより深く知る一つの方法として、『仕入先から情報を得る』ことができるかもしれません。当然、普段なら仕入先も顧客バイヤーと共有するはずもない、原価情報ですが仕入先も値上げ要請の根拠を示し、バイヤーへ説明する必要があります。

恐らく、その資料には普段なら聞けない原価に関する情報が記載されているはずです。仕入先からの根拠が不十分なものであれば、より詳細な中身をヒアリングすることでこれまで漠然としかわからなかった調達品の原価の輪郭が鮮明に見えてくるのではないでしょうか。

また、その原価情報は当該調達品のみならず、類似品などにも一定の転用ができるはずです。そうなれば他の調達品の割高品が見つかるなど、副次的効果も得られるかもしれません。

値上げというバイヤーにとって逆風下の中、得られる貴重な情報もあるのです。

値下げの確約を得るチャンス



チャンスというと少し語弊があるかもしれません。

バイヤーは値上げの了承とセットで、原材料やエネルギーコストの市況が下がった場合、値戻ししてもらう確約・合意を仕入先ととりつけましょう。

調達コストが上がることに関して、社内部門の承認を得ることは容易ではありません。円滑な社内合意を得るために『ここまで市況が下がれば、もとの価格に戻してもらうよう合意しております』と言えるように交渉を決着させることが肝要です。

また、仕入先とは担当者が変更になる等が起因して後で“言った言わない”にならぬよう、何かしらの書面で値戻しに関する記録に残しておくこともおススメします。更に月に一度程度、仕入先から市況データを提供してもらうことをお願いしておくと良いかもしれませんね。

値戻しの確約をとりつけたことで、これまで以上に市況に敏感になり、日々の変動チェックを怠らない感度の高いバイヤーが増えることでしょう。

販売価格への転嫁ができるチャンス



これはチャンスと書きましたが、『危機』でもあります。

仕入先からの値上げにより、調達コストが上がると当然、自社の損益が悪化します。改善するには内部での原価低減をより推進することが求められますが、加えて、自社の顧客へコストが上がった分、販売価格を転嫁する必要もあります。

特に昨今のような原材料・エネルギーコスト・輸送費の異常な高騰は自社努力だけでは吸収しきれません。

販売価格に展開してもらうために、バイヤーがすべきことの1つが営業を中心した社内部門に対して『調達コスト上昇の見える化』をすることです。具体的な調達品ごとの影響額に加えて、市況高騰データなどコストアップの根拠を共有し、営業へ顧客との転嫁交渉の武器として与える。更には、顧客との転嫁交渉進捗を定期的に仕入れ、どこまで転嫁ができたかを確認していく必要があります。

顧客との関係を重視し、転嫁に及び腰な営業も中にはいるかもしれません。しかし、転嫁ナシには板挟みでどんどん損益が悪化し、自社が厳しい環境に置かれることを訴え続けるべきでしょう。

これを機に仕入先→自社→顧客というサプライチェーンの中で市況に基づいたスライド価格改定制を導入すべきではないでしょうか。

まとめ



いかがでしたでしょうか。

値上げ、更には半導体中心として供給逼迫と、現在の調達環境はまさに『冬の時代』です。

しかし過去に比べ、調達部門に対する期待がこれほど高まっている時代もないでしょう。会社の競争力を高め、利益を確保するためにバイヤーひとりひとりがどうするか?で自社の運命が導かれる、と考えれば、今こそ最も調達という仕事のやりがいがある時なのかもしれません。
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