「いいことも、悪いことも変わる。
どんな辛い目にあって、どん底だと思っても、それは続かない。
だから、心配することはないの。」
――瀬戸内寂聴
この言葉を初めて目にしたとき、胸の奥が少しゆるむのを感じました。
励まそうとしてくるわけでもなく、「頑張れ」と背中を押してくるわけでもない。
ただ、そっと隣に座って、「そういうものだよ」と教えてくれるような言葉です。
私たちは、苦しい状況にいるときほど、「この状態が永遠に続くのではないか」と感じてしまいます。
不安や悲しみ、孤独や後悔。
それらが重なったとき、視界は狭くなり、未来は暗く、出口は見えなくなります。
まるで時間が止まったように、「今」という苦しさだけがずっと続く気がしてしまうのです。
けれど、寂聴さんは言います。
いいことも、悪いことも、変わるのだと。
それは希望的観測でも、楽観論でもありません。
人生を長く生き、多くの苦しみと再生を見てきた人だからこそ言える、静かな真実なのだと思います。
「どん底だと思っても、それは続かない」。
この一文には、経験から滲み出た確信があります。
今がどれほど辛くても、人の心も、環境も、状況も、必ず揺れ動いていく。
止まっているように見える時間も、実は少しずつ流れているのです。
私自身、振り返ると「もう無理だ」と思った瞬間が何度もありました。
これ以上悪くなりようがない、ここが人生の底だ、と感じたこともあります。
そのときは、「時間が解決する」なんて言葉を信じる余裕すらありませんでした。
ただ息をして、今日をやり過ごすだけで精一杯でした。
それでも、後になって振り返ると、不思議なことに状況は少しずつ変わっていました。
劇的に好転したわけではなくても、
苦しみの質が変わったり、
感じ方が変わったり、
新しい人や考え方に出会ったり。
気づけば、「あのときとは違う場所」に立っていたのです。
寂聴さんの言葉が優しいのは、「だから、心配することはないの」と、結論まで示してくれるところだと思います。
私たちはよく、「心配しないようにしよう」と努力しがちです。
でも、不安なときに「心配するな」と言われても、余計につらくなることもあります。
この言葉は違います。
心配しなくていい理由を、ちゃんと教えてくれる。
変わるから、大丈夫。
それ以上の説明はいらない、と。
無理に前向きにならなくてもいい。
今がしんどいなら、しんどいままでいい。
泣いても、立ち止まっても、投げ出したくなってもいい。
それでも、時間は流れ、状況は移ろっていく。
それが人生なのだと、この言葉は教えてくれます。
もし今、どん底にいると感じている人がいたら、この言葉を「信じなさい」とは言いません。
ただ、どこか心の片隅に置いておいてほしいのです。
今は信じられなくても、思い出せなくてもいい。
ただ、「変わるかもしれない」という小さな余白だけ、残しておいてほしい。
いいことも、悪いことも、変わる。
それなら、今の苦しさが永遠ではないということも、また真実です。
そう思えたとき、ほんの少しだけ呼吸が楽になるかもしれません。
心配しなくていい。
そう言ってもらえること自体が、もう十分な救いなのだと、私は思います。