中小企業経営のための情報発信ブログ26:デザイン経営

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今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
今日は「デザイン経営」「デザイン思考」について書きます。
デザインを科学における思考方法をしてとらえる見方は1969年のハーバード・サイモン著「デザインの科学」に見られ、1987年のピーター・ロー著「デザインの思考過程」で「デザイン思考」という言葉が使われました。2000年代に入ってデザイン思考に関する関心が高まり、デザインを重視した職場を生み出しイノベーションを促進する方法が多くのビジネス書で取り上げられるようになりました。
このところ、「デザイン経営」や「デザイン思考」という言葉がブームになっています。
デザイン経営」とは、デザインを活用した経営手法のことで、ここでいう「デザイン」とは「『企業が大切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営み』に基づいてブランドを構築し、『顧客の潜在的なニーズをもとに既存事業に縛られず、事業化を構想する営み』を通じてイノベーションにつなげていくこと」と言われています。
デザイン思考」は、文字通り、デザイナー的に物事を考えること、「生活者がどのような行動をとり、どのような考え方をし、どのような感情を示すかを詳細に観察し、時にはインタビューを行うことでニーズを把握し、そのあとで簡単なスケッチを描いてニーズに合致するかを検証し、求められていることが明確になるまでこの作業を繰り返すこと」、つまり「顧客のニーズを起点にして問題解決を図る思考方法」です。
1.社会技術としてのデザイン思考
 新しい仕事のやり方は時として目覚ましい改善につながります。1980年代に製造業界で広まったTQM(総合的品質管理)活動では、トヨタかんばん方式QCサークルなどの手法と「現場の作業員は、通常要求されているよりもはるかに高水準の仕事ができる」という気付きが結びついて著しい改善を実現しました。
 デザイン思考もTQMが製造分野で成し遂げたのと全く同じ成果をイノベーションの分野で上げることができます。つまり、人材の創造性とコミットメントを十二分に引き出し、業務プロセスを劇的に改善する可能性を秘めていることが判明しているのです。
 しかし、人間には創造力の発揮を阻む先入観や特定の行動規範への思い入れがあり、それがイノベーションの妨げとなっています。
 デザイン思考のツールや明確な手法が、こうしたイノベーションの妨げとなる人間のさまざまな傾向を掘り下げ、そこから逃れる際に役立つのです。
2.イノベーションの成果を左右する3つのポイント
 イノベーションプロセスが成果を上げるためには次の3つがそろっていなければなりません。
 Ⅰ:秀逸な解決策・・・課題を分かり切った慣例的なやり方で定義すると、従来型の自明な解決策に辿り着く。趣向の違った問いを投げかけると独創性の高いアイデアの発見につながりやすい。ユーザー主体の基準を取り入れると、格段に優れた解決策が導き出されることも多いが、未知の製品やサービスについて尋ねられても顧客の側で判断に窮する。多様な意見を取り入れると解決策が質的に向上するが、異なる意見の収拾を付けることが難しくなるケースもある。
 Ⅱ:少ないリスクと変革コスト・・・イノベーションには不確実性がつきものである。だからイノベーションを起こそうとする人は複数の選択肢を用意する。しかし、アイデア・選択肢が多すぎると焦点やリソースが拡散する。有望でないアイデアを排除する勇気が求められるが、残念ながら、創造的なアイデアの方が否定されやすい。
Ⅲ:従業員の賛同・・・従業員の支持を得ない限りイノベーションは成功しない。彼らの支持を取り付けるにはアイデア出しのプロセスに巻き込むことであるが、視点の異なる大勢の人々を巻き込むと混乱や支離滅裂の状況を引き起こすことにもなりかねない。
 上記の3つを上手くそろえるというのは難しく、いざ活用しようとすると、組織は得てして新たな障害や二律背反に遭遇することになります。
 組織が、数々の二律背反に対処するには、問題行動や非生産的な先入観に対処する社会技術が必要で、それがデザイン思考なのです。
3.デザイン思考のフェーズに沿った7つのステップ
 デザイン思考については、経験豊富なデザイナーから、四角四面で手順も決まり、あまりに硬直的で、実際のデザイナーの思考方法とはかけ離れているとの批判があります。
 確かにデザイナーからの批判はもっともですが、デザイン思考で考えるのは、デザイナーではなく経営者をはじめとしたビジネスパーソンです。ある意味デザインの素人です。決まった手順が決められていると脱線することなく、問題の掘り下げに時間をかけすぎたり、先を急ぐあまり途中を飛ばしたりすることを防ぐことができます。さらに、手順通りに行えばいいので、失敗を恐れずに進めることができます。人は、失敗を恐れるあまり、行動を控えるものです。しかし、行動しない限りイノベーションは起こせません。あらかじめ決まった手順があれば、安心感を持って臨むことができます。
 デザイン思考のツールや手順は安心感をもたらすため、イノベーションを目指す人々は、顧客ニーズの発見やアイデアの造像、検証を、確信をもって進めることができるのです。
 バージニア大学のリエトカ教授は、デザイン思考は、大きく3つのフェーズに分かれ、その実践に当たっては7つのステップを経ると言っています(参考 ハーバードビジネスレビュー2019年6月号)。各段階で明確な成果が生まれ、次の段階でそれが新たな成果につながり、この繰り返しによって、やがて実用的なイノベーションが実現するのです。
第1フェーズ 顧客の発見
 デザイン思考においては、データの収集や分析に重点を置くのではなく、有意義な顧客経験が何によってもたらされるのかを掘り下げることが大切です。
第1ステップ 顧客の立場に立つ・・・イノベーションの担当者に顧客と同じ経験をさせることで、隠れたニーズを掘り起こす。
第2ステップ 掘り下げる・・・顧客と同じ体験をすると洞察を深めるための材料が得られる。顧客の立場に身を置くことで突き止めた事柄を掘り下げるには、「ギャラリーウォーク」というデザイン思考の訓練が有用である。集めたデータをインタビューの対象者の写真とともに大きなポスターに書き出し、部屋の壁に張り付け、他の人たちもこのギャラリーを歩き回ることで、インタビュー対象者の声を身近に感じることができ、情報の共有ができる。インタビュー対象者を身近に感じることで先入観にとらわれ見たいものだけを見るという罠を避けることができる。
第3ステップ 調整する・・・「何も制約がないとしたら、このデザインはどのような仕事を得意とするだろう」という問いをテーマに、ワークショップとセミナー形式の議論を行う。現状の制約を気にせず可能性に着目すると、多様なメンバーで構成されるチームが、デザイン基準や理想的なイノベーションの主な特徴に関して協調しながら創造的な議論を展開することができる。
第2フェーズ アイデアの創造
 顧客ニーズをを理解した後に自分たちが掲げた基準に沿った具体的な解決策を見つけて、絞り込んでいきます。
第4ステップ 創発・・・まずは考えられる解決策について話し合いの機会を設け、誰を参加させるか、どのような課題を与えるか、どのように話し合いを組み立てるかを慎重に計画する。参加者たちは、デザイン基準をもとに、個別のブレインストーミングをした後、アイデアを持ち寄り、それらをもとに創意工夫をする。
第5ステップ 明確化・・・創発段階では、魅力的で実現できそうな、競合する数々のアイデアが生まれる。ここでは暗黙の前提を引き出し、その妥当性に疑問を投げかける。前提に疑問をさしはさまないでいると、過度の楽観論、。確証バイアス、最初の解決策への執着など様々なバイアスにとらわれてしまう。デザイン思考では「アイデアを実現するには何が真実でなくてはならないか」を掘り下げるために議論を組み立てる。
第3フェーズ 検証
 デザイン思考では、完成に程遠い製品のプロトタイプを作成し、未完成なアイデアを利用者に試してもらうことになります。その過程で、大幅な編子言うが起き、デザインを一から作り直す場合もあります。
第6ステップ 先行体験・・・未知の何かをあたかも現実であるかのように生き生きと思い浮かべる先行体験は、その対象の価値をより正確に評価するうえで有用です。デザイン思考では、実現を目指す顧客経験の本質をとらえた低コストの簡易人工物の作成が望まれます。このような人工物は、顧客に使ってもらって得た知見をもとに容易に変更できますし、意見交換を促します。
第7ステップ 実地学習・・・新しいアイデアを評価し、実用に向けて必要となる変更を見極めるには、実環境での試行が欠かせません。これにより、従業員や顧客が当然のように抱く変化への不安を和らげることにもつながります。
デザイン思考の枠組みは、上述の調査から実地展開への自然な流れをつくるものです。より簡潔化して言えば、
共感 ⇒ 問題定義 ⇒ 創造 ⇒ プロトタイプ ⇒ テスト
です。
 Ⅰ:共感・・・ターゲットを決定し、ターゲットの立場に身を置き、何を求めているか観察し、共感してニーズを探る
 Ⅱ:問題定義・・・ユーザーの視点で具体的なニーズを定義する
Ⅲ:創造・・・定義された問題について自由に意見交換して、具体的にどうアプローチするかを考える
Ⅳ:プロトタイプ・・・選んだアイデアをもとにプロトタイプ(試作品)を早いスピードでつくり、機能性・効果・実現性について検討する
Ⅴ:テスト・・・プロトタイプをユーザーに実際に使ってもらいフィードバックを受けて改善する
マーケティングの有名な言葉に「ドリルを買う人が欲しいのは『穴』である」というのがあります。ドリルを売る人は製品志向でドリルの性能ばかりを説明しがちですが、顧客が真に求めているのは、商品そのものではなく、商品を使用することで得られる効能、つまり問題解決(穴をあける)にあるのです。顧客視点に立って、顧客が「なぜドリルで穴をあけたいと考えたのか」を聞き出してみれば、もしかしたら、穴をあける必要はなく、顧客の問題解決に必要なものは、ドリルではないかもしれません。
このように、デザイン思考は、顕在化している問題に対し、顧客の立場に立って顧客が抱える真の問題の本質はどこにあるかを考えるもので、問題を解決するための真のアイデアを見つけることなのです。
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