【第八話】市町村史を前に、ただ、立ち尽くした

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コラム
図書館に行きました。


特別な決意があったわけではありません。
「そろそろ、かな」
そんな感覚に近かったと思います。


本籍地は分かっている。
土地から見ていく、という方向も、
頭の中では整理がついていました。


市町村史。
郷土資料。
土地の来歴。


やるべきことは、
もう、はっきりしています。


カウンターで聞いて、
該当する市町村史を出してもらいました。


想像していたより、
ずっと分厚い本でした。


机に置くと、
どん、と音がしました。


ページをめくると、
年表が続きます。
制度の変遷。
地名の由来。
港の整備。
産業の移り変わり。


情報は、たくさんあります。


でも、
人の名前は、ほとんど出てきません。


出てきても、
名主であったり、
歴史に名を残した人ばかりです。


祖母の父の名前は、
当然のように、ありませんでした。


少しだけ、
司書の方と話をしました。


「このあたりは、
昔は漁師が多かったんですよ」
そんな話でした。


土地としての特徴。
地域全体の傾向。


なるほど、とは思いました。


けれど、
それで祖母の父が見えてきたかと言えば、
そうではありません。


その土地で、
祖母の父が
どんな一日を過ごしていたのか。


そこには、
まだ届いていませんでした。


ページをめくりながら、
不思議な感覚がありました。


調べている。
確かに、前に進んでいる。


それなのに、
距離が縮まっていない。


情報は増えているのに、
核心からは、離れているような感じ。


市町村史は、
土地の本です。


人の本ではありません。


もちろん、
どこかに記録はあるのかもしれない。
私が、まだ見つけられていないだけかもしれない。


けれど、この時点では、
少なくとも、
ここに答えがそのまま書いてある、
という感触はありませんでした。


机の上には、
分厚い市町村史。


頭の中には、
さっきより増えたはずの情報。


それでも、
祖母の父との距離は、
あまり変わっていない。


そんな状態で、
私はまた、ページを閉じました。


土地を知ることは、
無駄ではない。


でも、
それだけでは足りない。


この時点では、
まだ、次に何をすべきかは
はっきりしていません。


ただ、
「調べ始めたら、分かる」
という段階は、
もう過ぎてしまった。

そんな感覚だけが、
少しずつ、
確かなものになっていました。
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