先週観たTV番組の中に、私にとって興味深い記事があり改めて「スマホ」について考えさせられた。
その番組は、NHKBSで深夜時間帯に放映されていた「スパイウェア”ペガサス”」に関する「調査報道」の記録、であった。
この番組は「BSドキュメンタリー」という骨太のジャーナリズム番組であり、私が時々チェックするまともなジャーナリズム番組で、なかでも数少ない「信を置いている番組」の一つである。
当該番組はNHK自らの制作というより、海外の提携先の番組などから選び抜いた作品を放映している、地球規模の課題や問題を放映している番組である。
今回の番組は、フランスとアメリカの報道機関が合同で制作した「フォービドン、ストーリーズFilm」の作品であるとの事。
深夜の時間帯で二日間合計100分近く、前・後編に分かれて放映されたその番組が取り上げていたのは、仏の「ル・モンド」を初めとした、「ガーディアン(イギリス)」「ワシントン・ポスト(USA)」等、世界のまともなジャーナリスト系の報道機関17社が集まった連合体で、「調査報道」を主体とした世界的な報道機関ネットワークが行った、「スマホのハッキング」に関するドキュメンタリー番組である。
具体的には「スマホ」の中に潜ませた「スパイアプリ」を使った、「個人情報の乗っ取り」の結果発生したと想われる、「事件」や「事象」の検証プロセスを記録し、編集した番組であった。
サウジアラビアの反体制派ジャーナリスト、「ジャマル・カシュギ氏暗殺」、ギャングと結託したメキシコの州政府によって引き起こされた「汚職摘発ジャーナリストの暗殺」、アゼルバイジャンの「反体制ジャーナリストネットワークの摘発」、UAEアラブ首長国の「王族王女の監禁事件」、モロッコによる「マクロン仏大統領周辺の監視及び情報取得」といった事件と、それを可能にした「スパイアプリの関係」の解明である。
暗殺された「ジャマル・カシュギ氏」 サウジアラビア「ムハンマド皇太子」
フランスとアメリカの番組制作会社が作成したこのドキュメンタリー番組は、私にとってはここ数年間に断片的に報道されて知っていた、国際的な事件やスキャンダルの発生に、「スマホ」がどのように関わって来ていたかを知る、好い機会であった。
番組の内容は詳述しないが、ざっくり言うとこれらの諸事件や・諸事象が起こる際に活躍したのが、イスラエルのIT企業「NSO」が開発し運用した「スパイアプリ:ペガサス」という「個人情報乗っ取りシステム」なのであった。
イスラエルの情報機関「モサド」のIT専門部隊出身者と、イスラエルの最先端IT企業が結合して誕生した民間企業「NSO」は、ネタニヤフ首相もBackÙpし関与した「スパイウェア」を開発し、40ヶ国以上の政府機関を主要顧客とした、年商数千億円規模の最先端IT企業である。
そこで「盗まれ」る「個人情報」の対象は、スマホの中にアプリとして活用され、貯蔵されたすべての過去の蓄積情報、なのである。
即ち「通話先:電話番号」「会話内容」「写真/動画情報」「SNSの利用履歴:閲覧や投稿内容を含む」「位置情報」「ダウンロードした音楽」等々の膨大な蓄積DATAである。
また遠隔操作で、「カメラやマイク」のコントロールも出来るアプリだという。
自分のスマホがこの「スパイウェア”ペガサス ”」に感染し、個人情報が「乗っ取られた」事を知った、ジャーナリストや反体制派の活動家・弁護士たちが、その事実を知らされた時に呟いたのが、
「まるで、私の隣に常に居て、私を常に監視している様だ・・」といった類の思いや感想を述べていた。
実際にそうであったのだろう。
文明の利器である「スマホ」は、持ち歩く「小型コンピューター」であり、個人情報満載の精密な情報機器なのであるから、蓄積された「スマホ内情報」を乗っ取られる事は、自分の「個人的な情報」が常に、「アプリ購入者=政府機関」の「NSO」への依頼によって、「見ら」れ「監視され」「分析され」ている事を意味する。
因みにこのソフトは、「政府機関」にのみ販売や運用され「業務契約」を締結した上で販売し運用している、という事である。
従って個人への販売や依頼は受け付けない、という事であるが、それはこのドキュメンタリーが作成された時点での事である。
この調査報道は「2020年から取材や検証作業が行われ」一年後の「2021年7月」に、加盟する17の報道機関が世界中で、同日の同時刻に報道・公開する事で世界中に知られることに成った。今からほぼ2年前の事である。
そして当該Filmの完成は、編集等を経た2023年の事であった、という。
因みに「イスラエルとサウジアラビアの急接近」がここ数年進展したのは、このスパイアプリをネタニヤフ首相がムハンマド皇太子に提供した事にも関連があるのではないか、というのがこの番組のだした推測であった。
要するにイスラエルの先端IT企業の製品=スパイアプリの提供に依って、サウジアラビア王室のスキャンダルや汚職等を摘発して来た「ジャーナリスト暗殺」が、成功した事への見返りという面も含めて、両国の「国交正常化」に役立っていたのではないか、というのが番組の分析結果であった。
またこの番組では「アゼルバイジャン政府」が、長期独裁政権の構造的な汚職問題を摘発し、報道し続けた女性ジャーナリストの「支援ネットワークの摘発」も扱っていた、との事であった。
がその報道内容を観ていて私が想起したのは、「アゼルバイジャンvsアルメニアの領土紛争」の際の軍事利用の事であった。
2・3年前の「報道1930」で、番組のアドバイザー堤伸輔氏が語っていた事を思い出したのである。その時堤氏は
「『アルメニア軍』の兵士達は、『アゼルバイジャン軍』のトルコ製ドローン攻撃に依って、潜伏先をことごとく突き止められ攻撃され、多数の死者を出し多大の被害を被った」
といった様な事をニュースの解説で、指摘していたのであった。
私はこの番組を観ながら「アルメニア軍兵士」の潜伏先を突き止めたのは、スマホのスパイアプリ「ペガサス」の「スマホ内の位置情報検索」システム利用に依って行われたに違いない、と妄想した。
「反体制ジャーナリスト支援ネットワーク摘発」で、既にイスラエルのIT企業「NSO」と「業務契約」を締結していた、「アゼルバイジャン政府」がアルメニア軍兵士のスマホ情報を取得し、ターゲットの位置情報を特定した上で、トルコ製のドローンを使った攻撃をしたに違いない、と頭の中のシナプスが繋がった、のである。
そう考えると、この軍事衝突の顛末が理解できる。
因みに、アルメニアはこの軍事衝突の敗戦により、領土問題で敗れそれまでの領土の一部をアゼルバイジャンに割譲した、のである。
従ってこのスパイアプリの活用は、アゼルバイジャンの領土拡大という政治的・軍事的な課題に、大いに役立ったことに成る。
と、言うことはこのスパイアプリを導入し活用すれば、当該国政府や情報機関が抱える軍事的・政治的・治安的課題は解決する可能性が高い、という事を意味する。
現在直面している「イスラエルvs ハマス」の軍事行動という名の、「パレスチナ人虐殺行為」にも当然使われて来たであろうし、「ロシアのウクライナ侵攻」に際しても利用された可能性は高い、と妄想はさらに膨らんだ。
取り分けイスラエルの国策で作られたIT企業「NSO」は、「ハマス対策」としては早い段階で、同様のアプリを開発し運用していたであろう、と考える事は自然である。
「ロシアのウクライナ侵攻」という名の「侵略戦争」に際して、当該スパイアプリの導入をプーチンが欲しがったとしても不思議ではない。
ネタニヤフとプーチンの関係の太さを考えれば、それも大いにあり得るしその効果の大きさは、かつてのソ連の一部であったアゼルバイジャンの政府機関から知らされていた可能性はかなり高いだろうと、私は更に妄想している。
しかしながら当該スキャンダルが世界中に拡散したのが2021年7月であった事を考え、「ウクライナ侵略戦争」が2022年2月であったことを考えると、プーチンがウクライナの政府要人に関して、このアプリを使う事は出来なかったものと想われる。
ウクライナの政府機関はこの「スパイアプリ:ペガサス」の存在を知ってからは、すぐに対策を講じていたことも推測されるからである。
ウクライナはIT先進国であることから、この様な「スパイアプリ」への対抗措置を素早く取ったであろう。
相手がスパイ大国ロシアである事を考え併せれば、当然の事である。
いずれにしても今回の「スパイアプリ:ペガサス」の問題は、大きな教訓を私に与えてくれたのである。
即ち、「スマホ」という名の「文明の利器」は、非常に便利で使い勝手の良い「道具」であるが、それが何らかの方法によって「乗っ取られた」場合は、実に「脆く」「危うい」存在である、という事を知っておくべきである、という事である。
「スマホ」は便利だからと言って、すべての個人情報をその中に埋め込んでおくのは危険である、という事になる。
常に「乗っ取られる可能性がある」という事を自覚しておく必要があり、自己防衛策として、機密事項は出来るだけ「スマホ」以外の方法で確保しておく必要がある、という事であろう。
今回のスパイアプリ” ペガサス ”を開発したイスラエルのIT企業「NSO」は、この報道を受けて破滅の道を辿った、という事であるがそれはこの問題の解決を意味してはいない。
この手の「スパイアプリ」の入手を望む国家や政府が存在する限り、第二第三の「NSO」が生まれてくる事は容易に想像することが出来る。
需要がある限り、必ず供給は行われる、からである。
また、ロシアや中国・北朝鮮といった独裁的な非民主主義国家や政府機関が、自ら同様のアプリを開発したとしても、私は驚かない。
民主主義を恐れる独裁国家にとってこれらの「道具」は、国民を監視し管理するためには最も有効な「道具」と成り得るから、である。
そのリアリティを理解した上で、私達も便利で使い勝手の良い「文明の利器」と付き合っていかなければならないのである。
何よりも自分自身と大切な人達を守るためにも・・。