今日は、脳科学者中野信子さんの著書「脳科学からみた祈り」(潮出版社)をご紹介します(いつものことですが、勘違いや解釈の誤りはすべて私の責任です)。
なかなかいいことが書いてありますので(私の文章では伝わらないかも知れませんが)、興味をお持ちになった方は是非お読みください。
最初にこの本のもっとも重要なメッセージを書いておきます。
「人は一人では幸せになれない」
つまり人が本当に幸せになるためには他者を必要とするということです。
少し説明しましょう。
人の脳は恋愛や金銭的な報酬よりもずっと「社会的報酬」を欲します。
社会的報酬とは、簡単にいうと「誰かに褒めてもらう」ということです。
しかし、最近の研究によって「誰か」からの良い評価は必ずしも必要ではないということが明らかになってきました。
脳が自分の行動を「素晴らしい」と評価すると、別に誰かに褒められなくても、非常に大きな快感が生まれるのです。
そして、この利他的な行動は具体的な行為を行うことに限られません。
他者の幸福を「祈る」だけでもいい。
「祈る」というと何か宗教的な感じがするかも知れませんが、そんなことはありません。
神社や寺に行ったり、祭壇の前で厳粛に執り行う必要はなく、普通に誰かが幸せになるように願うだけでかまわないのです。
ところで、「祈り」といっても様々な種類がありますが、大きくはネガティブなものとポジティブなものの2種類に分けられます。
ネガティブな祈りとは、他者への怒り、妬み、恐れ、不安などから生まれる人の不幸を願うもので、これは自分自身に返り、悪影響を及ぼします。
これに対して、ポジティブな祈りは、多幸感や快感をもたらし、脳を活性化させ、身体の免疫力を高め、さらに記憶力が高まり、集中力も増します。
ただし、同じポジティブな祈りでも、「ライバルを蹴落としたい」といった攻撃的な祈りは、悪い祈りになることがあるので注意が必要です。
他人に勝ちたいと思う気持ちは当然のことで、否定されるべきではありませんが、そのためにライバルの失敗や不幸を願うと悪い祈りになってしまうのです。
この下りを読んで思い出したのはタイガー・ウッズのことです(彼の悪い評判はこの際忘れてください。また、この部分は中野さんの本には書いてありません)。
彼は、ある試合でライバルと激しい優勝争いを繰り広げ、プレーオフにもつれ込みますが先に打ち、見事にパットを沈めます。
そして、ライバルの打つ番になりました。
このような場面では、普通の選手は外れるように願うのではないでしょうか。
しかし、タイガー・ウッズは入って欲しいと願います。
彼は相手のミスでは勝つのではなく、最高の勝負内容で勝ちたいんですね。
奇麗事に聞こえるでしょうが「この勝負を通じて、ともに成長していこう」と大きな心で相手の幸福も祈ることができたら、自らの幸福にもつながっていきます。
話を戻すと、ポジティブな利他の祈りは脳に良い影響を与えます。
利他行動によって、脳は見返りなど必要ないくらい、大きな快感を得ることができるということです。
これは恋愛などより大きな幸福感です。
みなさんもできれば他者の幸福を祈ることを習慣にされたらいかがでしょう。