校庭の風が、やわらかく吹いていた。
グラウンドでは、もう体育の準備が始まっている。
女子のグループの中で、陽菜が笑っているのが見えた。
その笑い声は、ここまで届くような気がした。
太陽の下で、
陽菜はやっぱり明るかった。
凪はフェンスのそばで立ち止まる。
悠真も、少し遅れて足を止めた。
「凪。」
悠真の声。
凪は顔を上げる。
悠真は、少しだけ心配そうに見ている。
「ほんとに大丈夫?」
その言葉が、胸に落ちる。
凪は、ほんの少しだけ笑う。
「うん。」
でも。
その笑顔の奥で、
もう一つの声が、静かに響いていた。
――やっぱり。
どう考えても。
陽菜のほうが、似合う。
あんなふうに笑える人が、
悠真の隣には、きっといい。
凪は、グラウンドを見る。
陽菜が友達と走り出す。
髪が風に揺れる。
みんなの視線が自然に集まる。
凪は思う。
ああいう
太陽みたいな人を、
人は好きになるんだろうなって。
凪は、そっと息を吸う。
胸の奥で、
静かに言葉が形になる。
わたしが、引けばいい。
まだ誰にも言わない。
でも。
この気持ちは、
もう消えない気がした。
悠真は、まだ気づいていない。
凪の心の中で、
小さな決意が、
ゆっくり芽を出していることに。
体育の笛が鳴る。
グラウンドに声が広がる。
凪は、ゆっくり歩き出す。
その背中は、
さっきより少しだけ、
静かだった。