昨日止まった時間が、また動き出そうとしていた

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コラム
悠真は、凪の机の横に立ったまま、
ほんの一瞬だけ迷うように視線を落とした。

そして、静かに口を開く。

「……昨日」

その一言に、
凪の指先がピクリと動く。

周囲にはクラスメイトの話し声。
なのに、二人の間だけ音が遠い。

「ありがとう」

それだけ。

短い言葉なのに、
胸の奥にまっすぐ届く。

凪はゆっくり頷いた。

「うん……」

一瞬、沈黙。

そのとき――

「おーい悠真!」

後ろから友達の声が飛ぶ。

悠真は振り返り、
軽く手を上げる。

「すぐ行く」

そして、もう一度凪を見る。

少しだけ近づいて、
声を落とす。

「放課後、昨日の橋で待ってる」

凪の心臓が一気に跳ねる。

——昨日の続き。

——逃げられない続き。

「……わかった」

その返事を聞いて、
悠真は安心したように小さく笑った。

その笑顔が、
凪の胸をぎゅっと締めつける。

悠真が去ったあとも、
凪はしばらく動けなかった。

周りのざわめきが戻ってきても、
心だけは夕焼けの橋に飛んでいた。

——今度こそ、何かが変わる。

そんな予感が、
はっきりとあった。

恋は、
静かに始まるものだと思っていた。

でも本当は、
静かに、そして確実に
一歩ずつ踏み込んでくるものだった。

放課後のチャイムが鳴った瞬間、
凪の胸が小さく跳ねた。

教室が一気にざわつく。

椅子を引く音。
笑い声。
部活へ向かう足音。

その中で、
凪は席を立ちながら、無意識に探していた。

——悠真。

窓の外に見える夕焼けが、
もう昨日と同じ色に染まり始めている。

すると、
向こうから悠真が現れた。

紺のブレザーに紺のズボン。
無地の紺ネクタイ。

いつも通りの姿なのに、
今日はなぜか特別に見える。

悠真は凪の前で立ち止まり、
少しだけ視線を落とす。

「……行こ」

それだけ。

なのに、
凪は胸がいっぱいになる。

二人は並んで歩き出す。

距離は近いけれど、
まだ触れない。

廊下に伸びる夕方の影が、
二人の足元でゆっくり重なっていく。

誰も話さない。

でも沈黙は、
昨日ほど重くなかった。

むしろ、
心地いい。

橋へ続く道が見えてきたとき、
悠真が小さく息を吸ったのがわかった。

——何か言う。

凪の胸が高鳴る。

夕焼けの空が、
二人を包み込む。

昨日止まった時間が、
また動き出そうとしていた。
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