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昨日止まった時間が、また動き出そうとしていた

悠真は、凪の机の横に立ったまま、ほんの一瞬だけ迷うように視線を落とした。そして、静かに口を開く。「……昨日」その一言に、凪の指先がピクリと動く。周囲にはクラスメイトの話し声。なのに、二人の間だけ音が遠い。「ありがとう」それだけ。短い言葉なのに、胸の奥にまっすぐ届く。凪はゆっくり頷いた。「うん……」一瞬、沈黙。そのとき――「おーい悠真!」後ろから友達の声が飛ぶ。悠真は振り返り、軽く手を上げる。「すぐ行く」そして、もう一度凪を見る。少しだけ近づいて、声を落とす。「放課後、昨日の橋で待ってる」凪の心臓が一気に跳ねる。——昨日の続き。——逃げられない続き。「……わかった」その返事を聞いて、悠真は安心したように小さく笑った。その笑顔が、凪の胸をぎゅっと締めつける。悠真が去ったあとも、凪はしばらく動けなかった。周りのざわめきが戻ってきても、心だけは夕焼けの橋に飛んでいた。——今度こそ、何かが変わる。そんな予感が、はっきりとあった。恋は、静かに始まるものだと思っていた。でも本当は、静かに、そして確実に一歩ずつ踏み込んでくるものだった。放課後のチャイムが鳴った瞬間、凪の胸が小さく跳ねた。教室が一気にざわつく。椅子を引く音。笑い声。部活へ向かう足音。その中で、凪は席を立ちながら、無意識に探していた。——悠真。窓の外に見える夕焼けが、もう昨日と同じ色に染まり始めている。すると、向こうから悠真が現れた。紺のブレザーに紺のズボン。無地の紺ネクタイ。いつも通りの姿なのに、今日はなぜか特別に見える。悠真は凪の前で立ち止まり、少しだけ視線を落とす。「……行こ」それだけ。なのに、凪は胸がいっぱいになる。二人は
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もう、逃げられない

スマートフォンを胸に抱いたまま、凪はベッドにごろんと横になる。天井を見つめると、さっきまで普通だった部屋が、少しだけ違って見えた。嬉しかった。たった一言。それだけなのに、心の奥がずっと温かい。画面をもう一度開く。新しい通知は、まだ来ていない。なのに、来そうな気がしてしまう。その予感だけで、胸がきゅっとなる。「……ばか」小さく呟いて、枕に顔を埋める。橋の上で近づいた距離。カフェで向かい合った時間。駅前で交わした約束みたいな言葉。全部が、ちゃんとつながっている気がした。スマートフォンが、また震える。今度は短く、軽く。画面に浮かんだのは――おやすみ。また明日。その一行に、凪の心臓が一気に跳ねる。ゆっくり、指を動かす。おやすみ。また明日ね。送信。既読がつくのは、ほんの一瞬だった。凪は思わず笑ってしまう。もう、逃げられない。でもそれが、嫌じゃなかった。布団をかぶって目を閉じる。夜は静か。なのに胸だけが騒がしい。恋は、音を立てずに始まるものだと思っていた。でも本当は、こんなふうに――静かに、でも確実に、心を占領していくものなんだ。凪はそのまま、小さな幸せを抱えたまま眠りについた。明日が来るのが、少しだけ楽しみで。
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