俺は、凪の隣にいる
記事
コラム
翌朝。
凪は、目覚ましが鳴る前に目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光は、
昨日と同じなのに、
胸の奥にある重さだけが、
まだ残っている。
学校に行かない。
そう決めたはずなのに、
「行かない」という選択肢が、
こんなにも
心をざわつかせるなんて思わなかった。
スマホを手に取る。
通知はない。
——当然だよね。
誰も、私がいなくても困らない。
そう思った瞬間、
昨日の夕焼けの中で、
悠真が言った言葉がよみがえる。
「凪がここにいてくれるなら、
それでいい」
胸が、ぎゅっと締めつけられた。
昼過ぎ。
玄関のチャイムが鳴った。
驚いてドアを開けると、
そこにいたのは悠真だった。
制服のブレザー姿のまま、
少し息を切らしている。
「……来た」
凪の声は、
自分でも驚くほど震えていた。
「勝手に来てごめん」
悠真はそう言って、視線を落とす。
「でも、ひとりにしたくなかった」
凪は何も言えず、ただ首を横に振った。
近所の公園まで、
二人は並んで歩いた。
会話は少ないのに、
不思議と沈黙が怖くない。
ベンチに座ると、凪はぽつりと言った。
「……私、学校に行く資格ないのかな」
その言葉に、悠真の表情が変わった。
「そんなこと、誰が決めた?」
静かだけど、強い声だった。
「噂とか、告白とか、嫉妬とか」
「全部、凪が悪いみたいに言われてるけど」
悠真は、はっきり言った。
「凪は、何も間違ってない」
凪の目から、涙がこぼれ落ちる。
「でも……居場所が、なくなった気がして」
悠真は、少し間を置いてから言った。
「じゃあ、作ろう」
「凪の居場所」
凪が顔を上げると、
悠真はまっすぐこちらを見ていた。
「学校でも、学校の外でも」
「俺は、凪の隣にいる」
その言葉は、慰めじゃなかった。
覚悟だった。
凪は、初めて自分から言った。
「……それでも、怖い」
「うん」
「でも、一緒なら大丈夫だと思ってる」
夕方の風が、二人の間を静かに通り抜ける。
凪はまだ、答えを出せていない。
学校に行けるかも、
明日どうするかも、わからない。
それでも——
「ここにいていい」
そう思えたことが、
凪にとっては、
何より大きな一歩だった。