本音を言えるようになってきたのが……怖い

記事
コラム
月曜日の放課後。

いつもの図書室の窓際には、
まだ誰もいない。

凪は机にノートを置き、深呼吸した。

(今日は……“話す側”になりたいって、
   自分で言ったんだよね)

胸が少しざわつく。

でも、
それは嫌なざわつきじゃなく、
ほんの少しだけ勇気が
体温を持ちはじめたような感覚だった。

そこへ、軽い足音。

悠真が扉から入ってきて、
凪を見つけると柔らかく笑った。

「来てたんだ。……
   じゃあ、今日は俺が聞く日だね」

凪はこくんと頷いた。

悠真はいつもの席に横向きで座り、

“準備OK”の合図のように、
缶の緑茶を机に置く。

「じゃあ……凪の順番で、どうぞ」

その言い方は、
押しつけも気遣いも混ざらない、
“ただ待ってる”という姿勢そのものだった。

凪は胸の奥の扉をそっとノックするように、
息を吸った。

「……あのね、私、最近ちょっと怖いの」

悠真の目が、すっと凪へと向く。

「何が?」

「本音を言えるようになってきたのが……怖い」

「え?」

凪は続ける。

「本音を言ったら、嫌われる気がしてたの。
 ずっと“いい子”でいなきゃいけない
   と思ってきたから。
 でも最近……
   悠真には、力を抜いて話しちゃう」

悠真は少し驚いた顔をし、
照れくさいように後頭部をかいた。

「それって……怖いことなの?」

「うん。
   “こんな自分を見せてもいいんだ”
    って思うほど、逆に怖くなる。
 ……もし途中で期待を裏切ったらって」

悠真の視線が一瞬だけ揺れる。
凪はそれを見逃さなかった。

(あ、何か響いたんだ……)

数秒の沈黙。

その沈黙は、
今までとは違う色をしていた。

重くもなく、冷たくもない。

ただ、
ふたりの間にひとつ新しい空気が
降りてきたような――そんな沈黙。

悠真は、
少しだけ視線を落として話し出した。

「……俺さ。
 誰かに安心してほしいって
 思ってたけど、
 本音をぶつけられるのって、
 実はちょっと怖いんだよ」

凪は目を瞬いた。

「怖い?」

悠真は続ける。

「うん。
 “頼られるのが怖い”とかじゃなくて……
 相手が本音を出してくれるってことは、
 そのぶん俺も“嘘つけなくなる”って
 ことでしょ?」

言われてみれば、その通りだった。

「だから……凪の本音を聞くと、
 嬉しいけど、同時に怖い。
 でも、怖いっていうのは――
 それだけ、
 本気で向き合ってるってことだと思う」

凪は胸に手を当てた。
鼓動がゆっくり強くなっていく。

悠真は言った。

「誰かの本音って、
 “危険物”みたいなところがあるじゃん。
 扱い方を間違えたら傷つけるし、
 でも大事に扱えば……
 そのぶん距離が縮まる」

凪は思わず微笑んだ。

「その例え、好きかも」

「よかった」

悠真も笑った。

図書室の静けさの中で、
ふたりの笑いだけが淡く響く。

凪は、ゆっくり言葉を紡いだ。

「じゃあ……怖いままでいてもいい?」

「もちろん」

「怖いって言いながら、
 本音を話してもいい?」

「それがいちばん自然だと思う」

凪は小さく息を吐いた。

(ああ……話せてよかった)

すると悠真が、
机の上の凪のノートを指さした。

「書いてるんでしょ?“今日の気づき”」

「え!?なんで知ってるの?」

悠真は笑って肩をすくめた。

「凪がペンを持つ時だけ、呼吸が整うから」

凪は顔が熱くなった。

(そんなの、気づく?)

「今日の気づき、ちゃんと書くんだよ」

「……うん。もちろん」

その夜。
凪はベッドに座り、いつものノートを開いた。

《今日の気づき》
・本音を言うのは怖い。
 でも“怖いまま言う”のも、ひとつの誠実さ。
・沈黙には、距離を縮めるための静けさがある。
・期待を裏切るかも、怯える気持ちも、
 相手を大切に思う気持ちから生まれる。
・“本音を受け止めようとする姿勢”だけで、
 人は救われる。

最後に、一行足した。

・悠真といると、
 言葉の“隙間”に安心が生まれる。

書き終えて、ノートを閉じた瞬間――
スマホが震えた。

《今日の話、聞けてよかった。
 また続き、聞かせて。—悠真》

凪は思わず笑ってしまった。

《うん。次は……
 もう少し深い話、したい》

送信して、ランプを消す。

真っ暗な部屋で、
胸の奥だけがぽうっと明るかった。

――言葉の隙間に生まれる安心は、
  ふたりの距離をひそやかに近づけていく。

その夜、凪は静かに眠りについた。
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