夢を追いかけるって、怖くない?

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コラム
蝉の声が、夏の空に響いていた。

校舎の屋上から見える雲は、
ゆっくりとかたちを変えている。

柚(ゆず)はその景色を眺めながら、
胸の奥のざわめきを抑えられずにいた。

明日、新(あらた)が東京に行く。

全国音楽コンクールの代表に選ばれ、
夏休みの間だけ、
音楽学校でレッスンを受けるのだ。

「たった三週間」と言われても、
柚にとっては、
それが果てしなく長い時間に思えた。

放課後の音楽室。

新はピアノの前で、
指を滑らせながら言った。

「この曲、帰ってきたらまた一緒に弾こう。」

「“ひとつの空の下で”、だよね?」

「そう。あれ、
   柚の声があったから完成した曲だよ。」

新は軽く笑って、鍵盤を撫でた。

その笑顔を見ているだけで、
胸の奥が少し痛くなる。

「……なんか、不安だな。」

「僕がいない間のこと?」

「そう。
 新がいなくなると、
 音楽室も、風の音も、
 少し違って聴こえそうで。」

「大丈夫。」

新は、窓の外を見上げた。

そこには茜色の空。
風が木々を揺らしている。

「音ってさ、消えるように見えて、
 ちゃんと残ってるんだ。
 空気の中にも、心の中にも。」

柚はその言葉を聞きながら、
窓の外の空気をそっと吸い込んだ。

たしかに、
風の中に小さな余韻がある気がした。

「ねぇ、新。」

「ん?」

「夢を追いかけるって、怖くない?」

「怖いよ。」

新は笑いながらも、
少しだけ真剣な目をした。

「怖いけど、その怖さがあるからこそ、
 “今、自分は本気なんだ”って分かるんだ。
 不安って、夢の輪郭みたいなものだよ。」

「……夢の輪郭。」

柚はゆっくりとつぶやいた。
心の奥で、何かが少し形を持ちはじめた。

「じゃあ、最後に弾いてもいい?」

「もちろん。」

新が奏でる旋律は、
どこか切なく、でも優しかった。

柚は、思わず目を閉じる。
ピアノの音が、夏の風に溶けていく。

(この音、忘れたくない。)

音が止まった瞬間、
蝉の声が少しだけ近くで鳴いた。

「帰ってきたら、また聴かせてね。」

「もちろん。そのときは柚の歌も。」

ふたりは笑い合った。

翌日。
駅のホーム。

新が乗る列車のドアが開く。

「じゃあ、行ってきます。」

「はい……行ってらっしゃい。」

柚は笑顔を作ったけれど、
胸の奥がじんわり熱くなった。

電車が動き出すとき、
新が窓越しに手を振った。

柚も手を振り返した。

その瞬間、風が吹いた。

まるで「大丈夫」と
言ってくれているようだった。

その夜。
柚は窓を開け、空を見上げた。

満天の星が、
五線譜のように並んでいる。

ひとつ、ふたつ、
瞬く光が音符のように踊っていた。

(新の音、きっと届いてる。)

風が髪を揺らす。

その中に、
かすかにピアノの音が聴こえた気がした。

柚は目を閉じ、そっと口ずさんだ。

「ひとつの空の下で、
 今日も誰かが夢を奏でてる――」

夜空に、透明な旋律が広がっていった。

夢に向かうとき、
誰もが“不安”を抱く。

でもその不安は、
本気で何かを大切にしている証。

離れても、想いは消えない。

風のように、音のように、

きっとどこかで、
あなたの声と誰かの音が響き合っている。
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