第9話 俺に早く堕ちてください。
荷物を車まで運ぶ往復をしたら、頭に上った血が落ち着いていく感じがわかった。
自覚している以上に、隣人に対しての怒りがあったみたいで、琉生るいさんが止めてなかったから、ほんとにやばかったかもしれない。
(自覚足りなかったんだなー…)
ガチャーーー
玄関を開けて中に入ると、次の荷物を入り口にまとめている琉生るいさんと八会う。
「お、おかえり。顔も冷静にもどってるじゃん」
琉生るいさんのこのゆるっとした感じが、安心させてくれる。さすが、モテ男…。
「助かりました、ほんとに」
「うん。いい子いい子。で、これで最後の荷物になるから、俺が戻ってくるまで朱音あかねたちといてあげて」
俺も身長が高い方だけど、さらに高い琉生るいさんから頭を撫でられると、子どもに戻ったようなむず痒さと安心を感じる。
軽々と残りの荷物を持った琉生るいさんは、玄関の向こうへと姿を消していく。
俺も靴を脱ぎ、姉ちゃんたちがいるだろう部屋を探しながら、奥へと進む。
奥の角部屋の方から茉由まゆさんたちの声が聞こえてくる。
「姉ちゃん?茉由まゆさん?」
少し空いている扉から顔を出すと、恥ずかしそうに抵抗をする茉由まゆさんと、茉由まゆさんから取られないように必死になにかを持つ、姉の姿。
「なにしてんの?」
俺の姿を見て固まった茉由まゆさんと、「あ…」といたずらっぽい顔をして、姉ちゃんがこっちを見てくる。
落ち着いて見渡すと、部屋の中に溢れるのは、色とりどりの下着たちで…。
姉の手の中にあるのも、茉由まゆさんの下着と思われるもので…。
「え?なにやってんの?」
姉に対して冷たい声を発しただけなのに、茉由まゆさんは痴漢にあったような悲鳴を上げて、必死に隠そうと抵抗する。
俺の怒りの矛先は、もちろん姉に向かうわけで。
「おい。なにしてんだよ」
「わ、本気で怒ってるー」
「茶化すな…っ」
万が一琉生るいさんが目にしたら、どうするつもりだったんだよ。
ドアの方を向いて、琉生るいさんが入ってくるか確認できるように背を向けた。
その間に、茉由まゆさんが落ち着いてしまうことが出来ればいいと思ってのこと。
茉由まゆさんは俺の意図をくみ取ってくれたのか、まとめ終わった後に、声をかけてくれた。
「碧斗あおとくん、ありがとう。大丈夫だよ」
茉由まゆさんの声に向き直ると、まだ恥ずかしそうに耳を赤く染めている。
(可愛い…)思わず、心の声が漏れるかと思った。
「で、なんであの状態になってたの?」
なるべく落ち着きを持った声で姉に事情を聴く。
「茉由まゆね、スタイルいいでしょ?」
ここで「うん」って頷けるわけねーだろ、ちょっと手を出したなんて、言えないし。
「お胸も大きいから、ちゃんとしたブランドの下着付けてるんだけど、サイズがあれだから、可愛いデザインに限りがあって。その中でも大事に集めて、大切につけてたの」
つまり、茉由まゆさんは可愛い下着をつけるのが好きなコレクター…。
可愛すぎる…。
あの白くてつやさら肌で、大きな胸から細い腰のラインに流れる曲線も、色鮮やかで可愛い下着も、茉由まゆさんの色気を引き立てる。
可愛い雰囲気から、脱いだら…が、確かにやばかった。(正確には脱がしたです。)
「でも、その、隣人のことがあってから、可愛い下着をつけることも怖くなったみたいで。大事に集めたものだから、守りたい気持ちと、余計に自分が女性らしく振舞うものを選ぶことが怖くて、しまってたんだって」
「あ、…なるほど」
話の流れがわかった。
今回の引っ越しで、茉由まゆさんが我慢しなくていいように、提案してたってことか。
「碧斗あおとなら、大丈夫でしょ?」
「ん?」
どっちの大丈夫か知りませんが、茉由まゆさんがどの下着をつけてても大歓迎だし、脱がすときだって丁寧に扱うし、隣のくそみたいに怖がらせるようなことはしませんよ?
(にしても、あのクズ、やっぱ一発殴っておけばよかった)
俺と姉ちゃんの話を見守っている茉由まゆさんが、小動物のように、恥ずかしそうに挙動が落ち着かず、可愛いな…と思ったら、怒りもすぐに落ち着く。
「茉由まゆさん、俺のところなら、大丈夫だから。茉由まゆさんの自由に過ごしてよ」
しゃがみこんで見つめる茉由まゆさんの瞳は、嬉しそうにうるうると動いていた。
守るし、大事にするから、俺に早く堕ちてください。