刑法~詐欺と文書偽造の諸論点~

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 こんにちわ。昨日、このブログをアップしようと思っていたのに、初日からさぼってしまった私です(笑)。
 昨日は、井田良・佐伯仁志・橋爪隆・安田拓人 『刑法事例演習教材[第2版]』(有斐閣、2014年)の演習問題46、及び辰巳法律研究所 『NEW えんしゅう本6 刑事系刑法』 (辰巳法律研究所、平成28年)の問題38を解きました(解いたというより、答案構成をさらっとした、が正しいですが。(笑))。

 その際に、気づいた点をまとめたいと思います。

① キャッシュカードとその暗証番号を聞き出す行為の関係

刑法の問題を解いていると、以下のような事案に出会うことがあると思います。

 甲はキャッシュカードをV宅で盗んだ。しかし、そのキャッシュカードの暗証番号がわからなかったので、Vをだまし(脅し)、その暗証番号を聞き出した。そして、甲はATMに行き、その暗証番号を入力して、10万円を引き出した。この場合、甲に何罪が成立するか。 


 ここで悩むのが、キャッシュカードを盗む行為とその後の暗証番号を聞き出す行為とで、別個の犯罪が成立するか、という点です。カードを盗むという行為は、窃盗罪に当たる可能性がありますが、まず窃盗罪の客体にはどういう要素が必要か、明らかにする必要があります。
 大塚祐史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦 『基本刑法Ⅱ 各論』(日本評論社 2014年)P119によると、「経済的にも主観的にも価値が認められないものは財物ではない」としています。そうだとすると、暗証番号がわからないキャッシュカードを奪っても、経済的にも主観的にも価値がないのだから、その段階では、窃盗罪の客体にはなり得ない、と考えられないことはないと思います。このように考えると、窃盗罪の客体としては、「預金口座から引き出す地位を有するキャッシュカード」であると考えられ(※このように考えてもキャッシュカードという有体物を対象にしている点で利益を問題にしているとははならないと思います。)、暗証番号を聞き出すというのは、窃盗罪の客体の要件を満たすための行為である、という立論も個人的には、可能であると思います。 
 しかし、前掲刑法事例演習教材P236~237によると、そうは考えないそうです。
 前掲は、まず東京高判H21.11.16を参考にします。『かかる判例は、キャッシュカードを確実に窃取できる犯人が被害者から暗証番号を聞き出した場合に取得する「ATMを通じて当該預貯金口座から預貯金の払戻しを受け得る地位」は「財産上の利益」に当たると解してい』(前掲基本刑法P172)ます。そうだとすると、東京高判の判断は、暗証番号がわかろうがわからまいがキャッシュカードそれ自体が窃盗罪の客体になり、さらに、暗証番号を聞き出すことによって、財産上の利益を得ることができるという枠組みであると言えます。したがって、暗証番号をだまして聞いた場合は、2項詐欺罪、脅して聞いた場合は、2項強盗罪が、成立することになります。

 個人的には、暗証番号がわからないキャッシュカードに財物性が認められるのか、疑問がないわけではありませんが、上記東京高判の判断も理解できるので、これからは、キャッシュカードそれ自体の価値と、預貯金の払戻しを受けられる地位を峻別して、押さえておきたいと思います。

②社会生活一般に置いて完全に定着した通称を用いていた人が、通称を用いると不都合が生じたため、本名を使用した場合の文書偽造の成否

文書偽造の諸論点として、通称を用いて、文書に署名した場合、文書偽造罪が成立するのか、という論点があります。これについては、偽造とは、作成者と名義人の人格の同一性を偽る行為を指す以上、社会生活一般において完全に定着している通称を使用しても、偽造には当たらないとされています。ただし、文書の性質上、本名での記載が求められるもの(たとえば、再入国許可申請書(最判S59.2.17))については、偽造に当たりうるというのが、一般論です。
 では、逆の場合、すなわち、社会生活一般に通称が完全に定着している者が本名を使用した場合は、どうでしょうか。
 この点、前掲えんしゅう本は以下のように説明しています。
 「これについてはあまり議論されていないところであるが、通称名を使用していても人格的な変化はないのであるから、作成者・名義人ともに本名となり、偽造とはいえないというのが一つの考え方であろう。」
  たしかに、そのような考え方もあると思います。しかし、以下のように考えることもできると思います。
 文書偽造の保護法益は、文書に対する公共の信用である以上、通称が完全に社会生活に定着している者の場合、通称の者が作成者であるという考え方です。例えば、前掲えんしゅう本の問題は、旧司法試験H15年度第2問の問題でしたが、このような事情がありました。
 「甲は,20年以上前から乙という名前で社会生活を営み,運転免許証も乙の名前で取得していた。ところが,甲は,乙名義で多重債務を負担し,乙名義ではもはや金融機関からの借入れが困難な状況に陥った。」
 この場合、本名甲は、社会では乙という名で知られていて、取引の際の信用性判断の材料となる名前は、乙であると言えます。そうだとうすると、文書に対する公共の信用という文書偽造罪の保護法益から考えれば、作成者は乙と考えることは、十分可能であると思います。

 みなさんは、どのように考えるでしょうか。 
 司法試験ではこのような基本から考えて、どちらの結論も取れうる嫌なところを聞いてきます。その際には、どちらが妥当かというよりも、論理が一貫しているか、という点が何よりも重要となってきますので、今後の参考にしていただけると幸いです。


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