漠然とした将来への不安
「このままでいいのか」という気持ちが、ふとした瞬間に浮かんでくる。
仕事を終えて帰宅して、ご飯を食べて、寝る。客観的に見れば特に大きな問題はない。でも、なんとなく、何かがずれているような感覚がある。将来が漠然と不安だ。でも、何が不安なのかと聞かれると、うまく答えられない。
「将来が不安なら、ライフプランを立てよう」——こういうアドバイスをもらったことがある人もいると思う。しかし、何が不安かがわからない状態で計画を立てるのは難しい。「不安の正体を特定しないと計画も立てられない」という鶏と卵の問題に、ぐるぐるしてしまう。
この状態には、実は出口がある。
「漠然とした不安」には、構造がある。そして、その構造を知ることが、対処の最初の一歩になる。この記事では、漠然とした不安がなぜ「漠然としてしまうのか」と、具体化するための視点をお伝えしたい。
第1章:「漠然とした不安」が漠然としている理由:不安の三つの成分
不安の心理学的な研究によれば、不安は三つの成分でできているとされている。
ひとつは「認知的成分」——「このままではまずいのではないか」という思考。ふたつめは「生理的成分」——胸のざわつき、眠れない感覚、胃の重さといった体の反応。みっつめは「運動的成分」——なんとかしようとソワソワする、あるいは逆に何もできなくなる、という行動面の変化だ。
漠然とした不安が「漠然としている」のは、この三つが混ざり合った状態で意識に浮かんでいるからだ。「なんだか不安だ」というとき、それは思考なのか、体の感覚なのか、行動の詰まりなのか、自分でも区別がついていない。
さらに、不安の研究には「真の不安」と「偽の不安」という区別がある。
真の不安とは、実際に対処が必要な問題に対する、合理的な警告信号だ。「老後の資金が全くない」「健康診断で引っかかった」——こういった不安は、対処する意味がある。
偽の不安は、現実的な根拠のない不安が増幅してしまったものだ。「なんとなく将来がうまくいかない気がする」「自分だけが取り残されそう」——こういった不安は、実際の問題に対応した警告ではなく、過去の経験や思い込みから来ていることが多い。
厄介なのは、漠然とした将来不安の多くに「偽の不安」と「真の不安」が混在していることだ。だから、「すべて気のせいだ」とも言えないし、「全部対処しなければ」とも言えない。まず、どちらなのかを仕分けることが必要になる。
ワークショップで「将来が漠然と不安」という方と話すとき、私がよくやるのは「今、体のどこに不安を感じていますか」という問いかけだ。頭の中の思考ではなく、体の感覚に意識を向けてもらう。すると、「胸のあたりが締め付けられる感じがある」「肩が常に凝っている」という言葉が出てくることが多い。
その「体の感覚」が、実は不安の最初の入口になっていることが多い。
第2章:「何が不安かわからない」三人の経験:漠然から具体へのプロセス
Gさん(30代前半、メーカー勤務)
Gさんは仕事自体に大きな不満はなかった。年収も平均より少し上。会社も安定している。でも、なぜか朝起きたときに気が重い。「このまま定年まで同じことを繰り返すのだろうか」という感覚が、常に薄く張り付いていた。
ライフプランの本を買って読んでみたこともあった。老後の計算をしてみたこともある。しかし、なんだか的外れな感じがして、余計に不安になった。
Gさんの不安の正体は、「キャリアの先が見えない」という認知的な不安と、「毎日の業務で体が重くなっている」という生理的なサインが混ざり合ったものだった。計算で解決する問題ではなく、「今の仕事と自分の間に、何かがズレている」という体の訴えだったのだ。
Hさん(20代後半、サービス業)
Hさんは「将来のことを考えると怖くて、逆に何も考えられなくなる」という状態だった。給料は低いが、今の仕事に慣れているし、転職する勇気もない。「変わりたいけど、変わるのが怖い」という矛盾した状態に、自分でも疲れていた。
ある日、「自分が不安に感じていることを、とにかく紙に書き出してみる」という作業をやってみた。出てきたのは20項目ほど。「収入が増えないこと」「スキルが身についていない気がすること」「結婚できるかどうか」「老後の資金」——全部違う種類の不安が混ざっていた。
それを見て、Hさんははじめて「ああ、私はこんなにいろんなことを同時に不安に思っていたんだ」と、少し客観視できた。全部を一度に解決しようとしていたから、どこにも手がつけられなかったのだと、気づいた。
Iさん(30代、育児中・パート勤務)
Iさんの「漠然とした不安」は、「自分のキャリアが止まっているのではないか」という感覚だった。育児中であることはわかっている。でも、ふとSNSを開くと「キャリアを積み上げている同世代」の情報が流れてきて、自分が遅れているように感じた。
しかし、整理してみると、Iさん自身は「今のペースで育児と仕事を両立したい」という気持ちがあった。不安の正体は、「自分が望んでいないペースを、社会が求めているように感じていた」ことだった。
三人に共通するパターンが見えてくる。漠然とした不安は、複数の異なる種類の不安が「一塊」になっていることが多い。そしてその正体を一つひとつほぐしてみると、「対処できるもの」と「今はどうにもならないもの」と「そもそも自分の問題ではなかったもの」に分かれていく。
ほぐすことができたとき、不安のサイズが少し小さくなる。全部が「一塊の恐怖」ではなくなるからだ。
第3章:漠然とした不安を具体化する三つのアプローチ
① 不安を「書き出す」だけで、サイズが変わる
頭の中にある不安は、書き出す前は「巨大な一塊」に見える。書き出してみると、実際には「10個のそれぞれ違う不安」だったりする。
紙でもスマホのメモでも、「今、自分が不安に感じていること」をとにかく書き出してみよう。うまくまとめなくていい。箇条書きで十分だ。
書き出した後で、「これは今すぐ対処できるか?」「これは今の自分にコントロールできるか?」という問いで仕分けしてみる。「コントロールできない不安」については、今は手放す。「コントロールできる不安」だけを、最初の対処対象にする。
② 体の感覚を不安の「入口」にする
「何が不安かわからない」とき、頭で考えるより先に、「今、体のどこが緊張しているか」に意識を向けてみてほしい。
肩が凝っている、胸が締まる感じがある、胃が重い——そういった身体感覚は、自分が何に対して反応しているかのサインになっていることがある。体の感覚から遡って「何に対して緊張しているのだろう」と探ると、頭の中だけでは出てこなかった答えが見えてくることがある。
③ 「これは真の不安か、偽の不安か」を自分に問う
漠然とした将来不安の多くは、「まだ起きていないこと」への反応だ。現実に問題が発生しているわけではなく、「起きるかもしれない」という想像への反応だ。
「この不安は、今実際に起きていることか?」という問いを立ててみる。「今は起きていない。でも起きるかもしれない」という不安なら、まず「今できる具体的な準備は何か」を一つだけ考えてみる。一つだけでいい。全部を解決しようとしないこと。
ただ、こういった「不安の仕分け作業」は、一人でやるとどうしても思考が循環してしまいやすい。「これは真の不安か偽の不安か」という問いも、自分の中だけで考え続けると、答えが出にくい。
誰かに話しながら整理する。それができると、一人で考えていたときとは全く違う景色が見えてくることがある。これは、キャリアの悩みでも、メンタルの悩みでも、どちらでも同じだ。
「このままでいいのかわからない」「何が不安なのかも言葉にできない」——そういう状態で相談に来る方は、実は多い。
私のキャリア・メンタル相談では、最初に「今、どんな状態にありますか」という問いから話をはじめる。答えがまとまっていなくていい。「なんとなく不安で、何が不安かもわからない」という状態でも、話しながら整理していくことができる。50分後に「モヤモヤの正体が少し見えてきた」という感想をいただくことが多い。
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おわりに
「このままでいいのか」という問いに、即座に答える必要はない。
まず「自分は今、何に対して不安を感じているのか」を知ること。それだけで、不安は少し輪郭を持つ。輪郭が見えると、向き合い方が変わる。
漠然とした不安は、放置していると大きくなる。でも、正体がわかると、対処できるサイズになる。
焦らなくていい。まずは一つだけ、「今の自分が感じていることを言葉にしてみる」ところからはじめてみてほしい。
🙋 このブログを書いている人について
だいき|産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
会社員時代、職場の人間関係でメンタルが限界に。「このままではまずい」と一念発起し、コミュニケーションを学び直した経験が、産業カウンセラー・キャリアコンサルタントの資格取得につながりました。
恋愛・婚活でも7年間で88人とデートを重ねながら、うまくいかない時期が長く続きました。その苦しさを知っているからこそ、脳科学・進化心理学・愛着理論といった知識を「自分ごと」として学び続けてきました。
キャリアブレイクコミュニティでは160回以上のワークショップを主催。さまざまな悩みや状況を持つ方と向き合い続けてきた経験が、相談の土台になっています。
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