その自己分析、まだ続けますか?
「自分のやりたいことが分からない」
この悩みは、就職活動のときに始まり、社会人になっても、30代になっても、40代になっても、多くの人について回る。まるで亡霊のように。
Aさん(20代後半・女性)は、ある企業で営業の仕事をしている。数字を追う毎日は正直しんどい。学生時代は別の分野に興味があったが、「現実的じゃない」と諦めて今の仕事に就いた。最近になって「やっぱりあの時の選択は間違っていたのかも」と考えることが増えた。
でも、じゃあ何がやりたいの? と聞かれると、言葉に詰まる。
性格診断をやってみた。強みを分析するツールも試した。キャリアに関する本を何冊も読んだ。ノートに自分の価値観を書き出すワークもやった。
でも、答えは出ない。むしろ、やればやるほど「こんなに自己分析しても見つからないなんて、自分は本当にダメなんじゃないか」という劣等感が膨らんでいく。
もしあなたも同じような経験をしているなら、ここで1つ、衝撃的な事実を伝えたい。
「やりたいこと」は、考えて見つけるものではない。
第1章:天職神話の崩壊
「天職」という言葉は、まるで宝物のように語られることが多い。「いつか天職に出会えたら」「天職を見つけた人は幸せそうだ」。
でも、この「天職」に対する一般的なイメージには、致命的な誤解がある。それは、「天職は最初からどこかに存在していて、それを見つけるのが人生の使命だ」という思い込みだ。
もし天職が最初から決まっているなら、自己分析をすれば見つかるはずだ。でも、いくら分析しても見つからない。なぜか?
答えはシンプルだ。天職は「見つける」ものではなく、「作り出す」ものだから。
キャリア心理学の世界では、人生の大半の転機は「計画されたもの」ではなく「偶然の産物」であることが分かっている。成功したビジネスパーソンや研究者に「今の仕事に就いたきっかけは?」と尋ねると、驚くほど多くの人が「たまたま」「偶然の出会い」「予想外の展開」と答える。
ある人は、子どものころの夢を追いかけて金融の世界に入ったが、そこで出会った別の分野に心を奪われ、まったく違う道に進んだ。また別の人は、学校を中退するかどうか悩んでいた時に、たまたま耳を傾けてくれた人の一言がきっかけで、カウンセリングの世界に入った。
つまり、天職は机の上で見つかるものではない。行動し、人と出会い、偶然に身をさらすことで、結果として「天職だった」と思える仕事に出会う。 順番が逆なのだ。
では、偶然を味方につけるためには何が必要なのか。それが先ほども触れた5つの姿勢だ。好奇心を持って新しいことに触れること。1つのことを粘り強く続けること。うまくいかない時にしなやかに方向転換すること。「なんとかなる」と前向きに構えること。そして、小さなリスクを恐れずに一歩を踏み出すこと。
この5つは、特別な才能ではない。日常の中で意識的に実践できるスキルだ。
第2章:「やりたいことが分からない」から動き出した人たち
Bさん(30代前半・男性)——「何者にもなれない」と絶望した日
Bさんは大学卒業後、なんとなく入った会社で事務の仕事をしていた。同期はそれぞれの分野で専門性を磨いていくのに、自分にはこれといった強みがない。「何者にもなれない」という焦りが日に日に強くなっていた。
あるとき、仕事帰りにふと立ち寄った本屋で、目に留まった一冊の本をきっかけに、ある社会人コミュニティの存在を知った。参加してみたところ、そこにはBさんと同じように「何がしたいか分からない」と悩む人たちがたくさんいた。
「自分だけじゃないんだ、と知っただけで、ものすごく救われました。そして、みんなで"やりたいことが分からない"を出発点にして、いろんなことを試していく中で、少しずつ自分の輪郭が見えてきたんです」
Bさんはその後、コミュニティでの出会いをきっかけに、人と人をつなぐ企画の仕事に関わるようになった。それが今では、Bさんの名刺に書かれている肩書きになっている。
「面白いのは、この仕事は自己分析からは絶対に出てこなかったということです。やってみて初めて"あ、これ好きだな"と気づいた」
Cさん(20代後半・女性)——教育への夢を「現実的じゃない」と封印した話
Cさんは学生時代、教育に強い関心を持っていた。でも就職活動の時、「教育分野は給料が低い」「安定しない」という周囲の声に押されて、まったく関係のない業界に就職した。
数年間働いてみて、やっぱり何かが違う。でも、いまさら教育の世界に飛び込むのは怖い。年齢的に遅いのではないか。そもそも自分は教育の専門家でもないし。
そんなCさんの転機は、ボランティアだった。週末だけ、地域の学習支援に関わるようになったのだ。最初は「自分に何ができるか分からない」と思っていたが、やってみると想像以上に楽しかった。
「"教育の仕事がしたい"っていう大きな夢じゃなくて、"週末だけ子どもたちと関わる"という小さな一歩が、すべての始まりでした」
Cさんはその後、本業を続けながら教育分野での活動を少しずつ広げていった。今では「教育に関わることが自分のライフワーク」と胸を張って言える。
Dさん(30代後半・男性)——「好きなこと」が変わってもいいと知った日
Dさんは若いころからものづくりが好きで、技術系の会社に入った。ところが実際に働いてみると、好きだったはずのものづくりがどんどん苦痛になっていった。
「好きなことを仕事にしたはずなのに、なぜこんなに辛いんだろう」と悩み続けた。ある時、専門家に「好きなことは変わっていくものです。学生時代に好きだったことと、今好きなことが違っていて当然なんですよ」と言われ、ハッとした。
「自分は"好きを仕事に"という考えに縛られすぎていたんです。好きなことが変わったなら、仕事も変わっていい。それは"飽きっぽい"のではなく、"成長している"ということなんだと気づきました」
第3章:「やりたいこと」を見つけるための逆転の方法
1. 自己分析をやめて、「行動分析」を始める
「自分の強みは何か」「どんな価値観を持っているか」——これを延々と考え続けるのは、もうやめよう。代わりに、「行動分析」を始めてみてほしい。
具体的には、今月中に3つの「やったことないこと」に挑戦してみる。料理教室に行ってみる。山に登ってみる。プログラミングの無料講座を受けてみる。なんでもいい。
そして、それぞれの体験の後に「楽しかった度合い」を10点満点で記録する。これを数か月続けると、頭で考えた自己分析よりもはるかに正確な「自分の好き嫌いマップ」ができあがる。
大切なのは、「将来の役に立つかどうか」で選ばないこと。「なんか面白そう」という直感を信じて、気軽に試してみることだ。
2. 「消去法」で選択肢を絞る
やりたいことが分からないなら、「やりたくないこと」から先に明確にしてみよう。
「毎日同じ作業を繰り返すのは嫌だ」「人とまったく関わらない仕事は無理だ」「通勤に2時間かかるのは耐えられない」——こうした「嫌なこと」のリストは、意外とすらすら書ける。
そして、「嫌なこと」を除外していくと、残った選択肢の中に自分が心地よく過ごせる領域が見えてくる。天職は「大好きなこと」よりも「嫌じゃないこと」の延長線上にあることも多い。
3. 「人」をきっかけにする
やりたい「こと」が分からないなら、「人」から入るのも有効だ。
「この人みたいに生きたいな」「この人の話を聞いていると、なぜかワクワクする」——そんな人がいたら、その人の近くに行ってみよう。同じコミュニティに入る、同じイベントに参加する、思い切って話しかけてみる。
「何をやるか」よりも「誰と過ごすか」の方が、意外と大きな手がかりになることがある。惹かれる人の周りには、自分が本当に興味のある世界が広がっていることが多いのだ。
まとめ:「やりたいこと」が見つからなくても、幸せにはなれる
最後に、少しだけ気持ちをラクにする話をしたい。
「やりたいことが見つかった人だけが幸せになれる」というのは、幻想だ。
世の中には、明確な「やりたいこと」がなくても、日々の仕事や暮らしに充実感を感じている人がたくさんいる。彼らに共通しているのは、「やりたいことを探す」のではなく、「目の前のことに好奇心を持って取り組む」という姿勢だ。
だから、焦らなくていい。「やりたいことが分からない」と悩んでいるあなたは、少なくとも「このままではいけない」と感じるだけの感性を持っている。それだけで十分だ。
あとは、ほんの少しの好奇心と、小さな一歩を踏み出す勇気があれば。思いがけない偶然が、あなたを「天職」へと導いてくれるかもしれない。
🌿 一人で抱え込まないでください
「退職すべきか、休み続けていいのか」――そのモヤモヤ、キャリアとメンタル両面からいっしょに考えます。
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🙋 このブログを書いている人について
だいき|産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
会社員時代、職場の人間関係でメンタルが限界に。「このままではまずい」と一念発起し、コミュニケーションを学び直した経験が、産業カウンセラー・キャリアコンサルタントの資格取得につながりました。
恋愛・婚活でも7年間で88人とデートを重ねながら、うまくいかない時期が長く続きました。その苦しさを知っているからこそ、脳科学・進化心理学・愛着理論といった知識を「自分ごと」として学び続けてきました。
キャリアブレイクコミュニティでは160回以上のワークショップを主催。さまざまな悩みや状況を持つ方と向き合い続けてきた経験が、相談の土台になっています。
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