繰り返される「愛の失敗」
カウンセリングルームのドアが開くと、少し緊張した面持ちの女性が入ってきた。事前の予約票には「恋愛のパターンについて相談したい」とだけ書かれていた。
ダイキ「こんにちは。今日はお越しいただいてありがとうございます。リラックスして座ってください」
クライエント「...ありがとうございます」
椅子に座った彼女は、バッグを膝に置いたまま、しばらく言葉を探しているようだった。
ダイキ「大丈夫ですよ。何から話そうか迷っているなら、今一番気になっていることから話してもらえれば」
クライエント「......実は、また別れたんです」
彼女の声は小さかった。
クライエント「もう何回目かわからないくらい。いつも同じなんです。最初はすごく優しくて、でも付き合っていくうちに......」
そこで彼女は言葉を切った。
ダイキ「......付き合っていくうちに?」
クライエント「だんだん冷たくなって。連絡も返ってこなくなって。で、気づいたら私が一人で必死に追いかけてる感じになって......」
彼女の目が少し潤んできた。
クライエント「友達に相談したら、『また同じタイプの男じゃん』って言われて。自分でもわかってるんです。でも、なんでこうなるのか全然わからなくて」
「好き」になるタイミング
ダイキ「『同じタイプ』って、具体的にはどんな感じの方なんですか?」
クライエント「えっと......最初はすごく優しいんです。マメに連絡くれて、デートにも誘ってくれて。でも、付き合い始めると......なんていうか、急に態度が変わるっていうか」
ダイキ「態度が変わる、というのは?」
クライエント「忙しいって言われて会えなくなったり、連絡の返事が遅くなったり。私が『会いたい』って言っても、『今は無理』って。でも、私が少し距離を置こうとすると、また優しくなって......その繰り返しなんです」
彼女は小さくため息をついた。
ダイキ「......それは辛いですね」
クライエント「自分でもおかしいと思うんです。友達には『そんな人やめときなよ』って言われるし。でも、なんか......離れられないんです」
ダイキ「離れられない?」
クライエント「優しくされると、『やっぱりこの人は私のこと好きなんだ』って思っちゃって。で、また頑張ろうって」
彼女の声が少し震えた。
クライエント「でも結局、また同じことの繰り返しで......最後は向こうから別れを切り出されて。『俺たち合わないんじゃない?』って」
幼い頃の記憶
ダイキ「......少し違う質問してもいいですか」
クライエント「はい」
ダイキ「子どもの頃のこと、覚えていますか? 特に、お父さんやお母さんとの関係で、印象に残っていることって」
彼女は少し驚いたように顔を上げた。
クライエント「......えっ、子どもの頃ですか?」
ダイキ「ええ。もし話せる範囲で構いませんので」
クライエント「......うーん。父は......あまり家にいなかったですね。仕事が忙しくて」
彼女は少し考えるように視線を落とした。
クライエント「週末も接待とか出張とかで。一緒に遊んだ記憶って、ほとんどないかもしれません」
ダイキ「そうだったんですね」
クライエント「でも、たまに家にいるときは......なんていうか、すごく優しかったんです。お土産買ってきてくれたり、『今度遊びに行こう』って言ってくれたり」
彼女の表情が少し柔らかくなった。でもすぐに曇る。
クライエント「でも、結局その『今度』は来なくて。また仕事で忙しくなって......私、いつも待ってたんです。お父さんが帰ってくるの」
ダイキ「......待っていたんですね」
クライエント「はい。で、帰ってきたら『お父さん疲れてるから静かにしてなさい』って母に言われて。だから、なるべくいい子にして、お父さんが喜びそうなことして......」
そこで彼女は言葉を詰まらせた。
クライエント「......今話してて、なんか......」
ダイキ「なんか?」
クライエント「......彼氏に対してやってることと、同じような気がしてきました」
彼女は自分の言葉に驚いたように目を見開いた。
気づきの瞬間
しばらく沈黙が流れた。クライエントは自分のバッグを握りしめながら、何かを考え込んでいる様子だった。
ダイキ「今、何を感じていますか?」
クライエント「......なんか、すごく......複雑な気持ちです。お父さんのことは今まで考えたことなかったし、関係ないと思ってたのに」
ダイキ「関係ないと?」
クライエント「恋愛とか、パートナーの選び方とか。全然違う話だと思ってました」
彼女はゆっくりと息を吐いた。
クライエント「でも......確かに。私、いつも『次は優しくしてくれるかも』『今は忙しいだけかも』って待ってるんです。彼が変わってくれるのを」
ダイキ「......お父さんが帰ってくるのを待っていたときのように」
クライエント「......そう、なのかもしれません」
彼女の目に涙が浮かんだ。
クライエント「子どものとき、私......『お父さんが忙しいのは、私がいい子じゃないからだ』って思ってたんです。だから、もっといい子になろうって。そしたらお父さんが家にいてくれるかもって」
ダイキ「......それは辛かったでしょうね」
クライエント「でも、違ったんですよね。私がどんなにいい子にしても、お父さんは仕事で忙しくて......」
涙がこぼれた。
クライエント「......今も同じことしてるんですね、私」
愛着のパターン
少し落ち着いてから、ダイキは静かに話し始めた。
ダイキ「子どもの頃、特に小さいときの親との関係性は、大人になってからの人間関係に影響を与えることがあります」
クライエント「......それって、変えられないってことですか?」
ダイキ「いえ、そういうわけではありません。まず、自分のパターンに気づくことが大切なんです」
彼女はハンカチで目元を拭きながら、頷いた。
ダイキ「さっき話してくれたこと、お父さんを待っていたこと。それは子どもとして自然な反応だったと思います」
クライエント「......自然な、反応?」
ダイキ「ええ。子どもは親に愛されたい、認められたいと思うものです。でも、お父さんがいつも忙しくて......」
クライエント「......いつも待たされて」
ダイキ「そう。そして、たまに優しくされると、『あ、やっぱり愛されてる』って思えた」
クライエント「......はい」
ダイキ「でも、またすぐに忙しくなって、不安になる。そうすると、もっといい子にならなきゃ、もっと頑張らなきゃって」
クライエント「......そうです。まさに、そうでした」
彼女は自分の膝を見つめていた。
ダイキ「そのパターンが、今の恋愛にも表れている可能性があります。不安定な愛情、待たされる経験、たまに優しくされると安心する......」
クライエント「......だから、いつも同じタイプの人を選んじゃうんですか?」
ダイキ「『選んでしまう』というより、『慣れている』と言ったほうが正確かもしれません」
クライエント「慣れている?」
ダイキ「人は無意識に、自分が知っているパターン、経験したことのあるパターンに引き寄せられることがあります。たとえ それが辛いパターンだとしても」
クライエント「......それって、私が不幸を求めてるってことですか?」
ダイキ「いいえ、違います。ただ、『これが愛情だ』と学習したパターンを、無意識に繰り返してしまう、ということです」
「いい子」でいることの代償
クライエント「......私、ずっと『いい子』でいようとしてきた気がします。子どもの頃から」
ダイキ「今もそうですか?」
クライエント「......たぶん。彼氏ができると、嫌われないように、捨てられないようにって。相手に合わせちゃうんです」
ダイキ「自分の気持ちはどうしているんですか?」
クライエント「......我慢してます。『会いたい』って言いたくても、『しつこいって思われたら嫌だな』って。『寂しい』って言いたくても、『重いって思われたら嫌だな』って」
彼女は自分の手を見つめた。
クライエント「でも、我慢しすぎて......爆発しちゃうときもあって。そしたら『面倒くさい』って言われて......」
ダイキ「......辛いですね」
クライエント「自分でも、なんでこんなことしてるのかわからなくて。もっと普通に恋愛したいのに」
ダイキ「『普通に恋愛する』って、どういうイメージですか?」
クライエント「......えっと......お互い自然体でいられて、無理しなくていい関係、とか......」
ダイキ「それは素敵ですね」
クライエント「でも、私......それができないんです。いつも相手の顔色見ちゃって」
ダイキ「それは、お父さんの顔色を見ていたときと似ていますか?」
彼女はハッとした表情を見せた。
クライエント「......そう、かもしれません。お父さんが機嫌いいかどうか、ずっと気にしてました」
本当に欲しかったもの
ダイキ「少し違う質問をしてもいいですか」
クライエント「はい」
ダイキ「子どもの頃、本当はお父さんに何をしてほしかったですか?」
クライエントは少し考えてから、小さな声で答えた。
クライエント「......ただ、そばにいてほしかった、です」
ダイキ「そばに?」
クライエント「はい。お土産とかいらないから、ただ......一緒にいてくれたらよかった。私の話を聞いてくれたらよかった」
涙がまた流れ始めた。
クライエント「......なんか、今気づきました」
ダイキ「何に?」
クライエント「私、彼氏にも同じこと求めてるんだって。プレゼントとか、高いレストランとか、そういうのいらないから......ただ、ちゃんと向き合ってほしい。私のこと見てほしい」
彼女は自分の胸に手を当てた。
クライエント「でも、それを言えなくて。『こんなこと言ったら重いって思われる』『嫌われる』って怖くて」
ダイキ「......その怖さは、どこから来ていると思いますか?」
クライエント「......お父さんに嫌われたくなかった。だから、いい子でいなきゃって。自分の気持ちは言っちゃいけないって......」
彼女は顔を覆った。
クライエント「子どもの頃から、ずっとそうだったんです」
パターンを理解する
しばらく時間をとってから、ダイキは静かに話し始めた。
ダイキ「今日話してくれたこと、すごく大切な気づきだと思います」
クライエント「......でも、どうしたらいいのかわからないです」
ダイキ「まず、このパターンに気づけたこと、それ自体がすごく大きな一歩なんです」
クライエント「......そうなんですか?」
ダイキ「ええ。無意識のパターンは、意識できないから変えられないんです。でも、今こうして『私はこういうパターンで動いてるんだ』って気づけた」
クライエント「でも、気づいただけで変わるんですか?」
ダイキ「変わるというより......選択肢が増える、と言ったほうがいいかもしれません」
クライエント「......選択肢?」
ダイキ「これまでは、無意識に同じパターンを繰り返していました。でも、これからは『あ、また同じパターンに入ろうとしてるな』って気づけるようになります」
クライエント「......気づいたら?」
ダイキ「別の選択をすることもできる、ということです。簡単ではないかもしれませんが」
彼女は少し希望が見えてきたような表情を見せた。
新しい一歩
クライエント「......具体的には、どうしたらいいんでしょうか」
ダイキ「まず、『いい子』でいることをやめる必要はありません」
クライエント「え?」
ダイキ「優しさや思いやりは、あなたの素敵なところです。ただ......」
ダイキは少し間を置いた。
ダイキ「『いい子でいないと愛されない』という思い込みに気づくことが大切だと思います」
クライエント「......思い込み」
ダイキ「子どもの頃は、それが生き延びるための戦略だったかもしれません。でも、今は大人です」
クライエント「......はい」
ダイキ「自分の気持ちを伝えて、それで去っていく人は......本当にあなたに必要な人だったんでしょうか?」
クライエントは少し驚いたように目を見開いた。
クライエント「......考えたことなかったです」
ダイキ「もちろん、すぐに変わるのは難しいと思います。でも、少しずつ......たとえば、小さなことから自分の気持ちを伝えてみる、とか」
クライエント「小さなこと、ですか」
ダイキ「『今日は和食が食べたいな』とか、『この映画見てみたいな』とか。そういうところから」
クライエント「......そんな小さなことでいいんですか?」
ダイキ「ええ。大切なのは、『自分の気持ちを言ってもいいんだ』って体験を積み重ねることです」
クライエント「......やってみます」
彼女の表情が、少しだけ柔らかくなった。
ダイキ「それと、もう一つ」
クライエント「はい」
ダイキ「『待つ』ことをやめてみる、というのもいいかもしれません」
クライエント「待つことを?」
ダイキ「相手が変わってくれるのを待つ、相手が優しくなってくれるのを待つ。そういう『待つ』姿勢から、自分で選ぶ姿勢へ」
クライエント「......自分で選ぶ」
ダイキ「この人は私を大切にしてくれるだろうか。私はこの人といて幸せだろうか。そういうことを、自分で判断して選ぶ」
クライエント「......でも、それって自分勝手じゃないですか?」
ダイキ「自分を大切にすることと、自分勝手は違うと思いますよ」
対話の終わりに
セッションの終わりが近づいてきた。クライエントは最初よりもずっと落ち着いた表情を見せていた。
クライエント「......今日、来てよかったです」
ダイキ「そう言ってもらえてよかったです」
クライエント「なんか、すごく複雑な気持ちですけど......でも、ちょっとだけ、希望が見えた気がします」
ダイキ「それは何よりです」
クライエント「お父さんのこと、今までずっと考えないようにしてきたんです。『もう大人だし関係ない』って」
ダイキ「......」
クライエント「でも、ちゃんと向き合わないといけないのかもしれないですね。子どもの頃の自分と」
ダイキ「焦る必要はありませんよ。少しずつ、自分のペースで」
クライエント「......はい」
彼女は立ち上がって、ドアに向かった。ドアノブに手をかけたとき、振り返った。
クライエント「あの......次もまた来てもいいですか?」
ダイキ「もちろんです。いつでも歓迎します」
クライエント「ありがとうございます」
彼女が去った後、カウンセリングルームにはしばらく静寂が残った。
エピローグ
その後、彼女は月に一度のペースでカウンセリングに通うようになった。
少しずつ、自分の気持ちを言葉にする練習を始めた彼女は、ある日こんなことを話してくれた。
「この前、合コンで会った人に『次いつ会える?』って聞かれて......前だったら『いつでもいいですよ』って答えてたと思うんです。でも、今回は『来週の土曜日の午後なら』って、ちゃんと自分の都合を言えました」
小さな変化かもしれない。でも、その小さな変化が、彼女の中で確実に何かを変え始めていた。
「待つ」ことをやめ、「選ぶ」ことを始めた彼女の旅は、まだ始まったばかりだ。
📝 自分の恋愛パターンを「見える化」してみませんか?
心理学の2つの理論をベースに、あなたのパーソナリティタイプと恋愛スタイルを分析するサービスをココナラで提供しています。約20分の診断に答えるだけで、20ページ以上の詳細レポートをお届けします。
🙋 このブログを書いている人について
だいき|産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
会社員時代、職場の人間関係でメンタルが限界に。「このままではまずい」と一念発起し、コミュニケーションを学び直した経験が、産業カウンセラー・キャリアコンサルタントの資格取得につながりました。
恋愛・婚活でも7年間で88人とデートを重ねながら、うまくいかない時期が長く続きました。その苦しさを知っているからこそ、脳科学・進化心理学・愛着理論といった知識を「自分ごと」として学び続けてきました。
キャリアブレイクコミュニティでは160回以上のワークショップを主催。さまざまな悩みや状況を持つ方と向き合い続けてきた経験が、相談の土台になっています。
「記事を読んで、もう少し深く話してみたい」と感じたら、ぜひココナラのサービスをのぞいてみてください。