「安定した人と付き合うの、怖いんです」――ユーモアに惹かれる女性が気づいた本当の理由

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「好きなタイプ」が分からない


カウンセリングルームのソファに座ったユウコは、少し緊張した様子で視線を落としていた。

ユウコ「あの...なんか、変な相談かもしれないんですけど」

ダイキ「大丈夫ですよ。どんなことでも、ユウコさんが話したいことを聞かせてください」

ユウコ「実は、最近...職場の人から告白されて」

そう言ってから、ユウコは小さく笑った。

ユウコ「32歳にもなって、告白されたとか言ってるの、なんか恥ずかしいですよね」

ダイキ「そんなことないですよ。年齢に関係なく、誰かから好意を持たれるって、嬉しいことでもあり、同時に悩ましいこともありますよね」

ユウコ「そうなんです。嬉しい反面、どう答えたらいいのか分からなくて...」

少しの沈黙の後、ユウコはゆっくりと言葉を続けた。

ユウコ「その人、すごくいい人なんです。真面目で、仕事もできて、優しくて。でも...」

ダイキ「でも?」

ユウコ「なんか、ピンとこないっていうか...それで、自分でも不思議に思って。何がピンとこないのかって考えたら、たぶん、その人があんまり面白くないからかなって」

ユウコはそう言いながら、少し罪悪感のある表情を浮かべた。

ユウコ「ひどいですよね。真面目ないい人なのに、面白くないからって理由で断るなんて」

ダイキ「ユウコさんにとって、『面白い』って、どういうことですか?」

ユーモアって何だろう?


ユウコは少し考え込んでから、答えた。

ユウコ「う〜ん...なんていうか、一緒にいて笑えるっていうか。話していて楽しいっていうか」

ダイキ「なるほど。では、これまで好きになった人は、そういう『面白さ』を持っていましたか?」

ユウコ「...あ、そういえば」

ユウコは何かに気づいたような顔をした。

ユウコ「そうですね。前の彼氏も、その前に好きだった人も、みんな面白い人でした。話していると時間を忘れるっていうか、この人といると退屈しないなって感じる人」

ダイキ「それは、お笑い芸人みたいに、ギャグを連発するとか、そういう面白さですか?」

ユウコ「いや、そういうのとは違って...」

ユウコはしばらく考えてから、言葉を探すように話し始めた。

ユウコ「もっと、こう...頭がいいっていうか。話の展開が予想外だったり、物事を独特の視点で見てたり。あと、私が何か言ったときに、すぐに反応してくれて、それがまた面白い返しだったり」

ダイキ「つまり、会話のテンポとか、知的な刺激があるっていうことでしょうか」

ユウコ「そう! まさにそれです。知的な刺激...そうか、そういうことだったんですね」

「頭の回転の速さ」に惹かれる理由


ユウコの表情が少し明るくなった。

ユウコ「でも、なんで私、そういう人に惹かれるんでしょうね」

ダイキ「それについて、ユウコさん自身はどう思いますか?」

ユウコ「う〜ん...」

ユウコは天井を見上げながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。

ユウコ「たぶん、私、子どもの頃から...ちょっと変わった家庭だったんです。両親が共働きで、あんまり家にいなくて。で、一人でいることが多かったから、本を読んだり、何かを考えたりすることが好きだったんですよね」

ダイキは静かに頷きながら、ユウコの言葉を待った。

ユウコ「それで、学校でも、面白いことを言える子とか、頭の回転が速い子が好きで。そういう子と一緒にいると、なんか、世界が広がるっていうか...一人で考えてるだけじゃ見えないものが見える感じがして」

ダイキ「ユウコさんにとって、ユーモアのある人って、知的な刺激を与えてくれる存在なんですね」

ユウコ「そうなんです。だから、ただ優しいだけとか、真面目なだけだと、なんか物足りなく感じちゃって...」

そう言ってから、ユウコは少し困ったような顔をした。

ユウコ「でも、それって、わがままですかね? 贅沢というか」

「知性」を求める本能


ダイキ「わがままではないと思いますよ。むしろ、とても自然なことだと言えるかもしれません」

ユウコ「え?」

ダイキ「実は、女性が男性の知性に惹かれるというのは、進化の過程で培われてきた傾向だと考えられているんです」

ユウコは興味深そうに身を乗り出した。

ダイキ「昔、人類がまだ狩猟採集生活をしていた時代。知性の高い男性は、問題を解決する能力が高く、危険を回避する判断力も優れていました」

ユウコ「なるほど...」

ダイキ「だから、女性がパートナーを選ぶときに、相手の知性を重視するのは、本能的な部分もあるんです。それは、子どもを育てる上で、知的に優れたパートナーのほうが、様々な困難に対処できる可能性が高いからです」

ユウコ「へぇ...そういう理由があったんですね」

ダイキ「そして、現代では、『知性』を直接測ることは難しい。だから、ユーモアのセンスとか、会話の面白さといった、間接的なシグナルで判断しているのかもしれません」

ユウコはゆっくりと頷いた。

ユウコ「確かに...面白い人って、頭の回転が速いですよね。その場の空気を読んで、適切な返しができる」

ダイキ「そうです。ユーモアって、高度な認知能力を必要とするんです。状況を理解して、予想外の切り口を見つけて、それを言語化する。これって、かなり複雑なプロセスですよね」

ユウコ「言われてみれば...」

ダイキ「だから、ユウコさんが『面白い人』に惹かれるのは、実は『知的に優れた人』に惹かれているということかもしれません」

ユウコは少し考え込んだ。

ユウコ「でも...じゃあ、なんで前の彼氏たちは、仕事が不安定だったんでしょう。知性があるなら、もっと成功してもいいはずなのに」

ダイキ「それは、とてもいい質問ですね」

配偶者選択における「知性」の意味


ダイキ「わがままとは思いませんよ。実は、女性が男性の『ユーモア』に惹かれるというのは、心理学的にも興味深いテーマなんです」

ユウコ「え、そうなんですか?」

ダイキ「はい。進化心理学の視点から見ると、ユーモアというのは、その人の知性や創造性、柔軟な思考を示すシグナルだと考えられているんです」

ユウコは興味深そうに身を乗り出した。

ユウコ「知性のシグナル...?」

ダイキ「そうです。ユーモアって、状況を素早く理解して、意外性のある反応を返す能力ですよね。これって、高い認知能力を必要とするんです」

ユウコ「あ、確かに...」

ダイキ「だから、昔から人間は、パートナーを選ぶときに、その人の知性や問題解決能力を見極める一つの手がかりとして、ユーモアのセンスを重視してきたのではないか、と考えられているんです」

ユウコはゆっくりと頷いた。

ユウコ「なるほど...だから私、面白い人に惹かれるんですね」

ダイキ「それだけではありません。ユーモアのある人は、一緒にいて楽しいだけでなく、ストレスの多い状況でも柔軟に対処できる可能性が高い、とも言われています」

ユウコ「へぇ...でも、ちょっと待ってください」

ユウコは少し困惑した表情を浮かべた。

ユウコ「じゃあ、なんで私が好きになる『面白い人』って、いつも仕事が不安定なんでしょう? 知性があるなら、もっと安定した仕事に就いてても良さそうなのに」

知性と社会的成功は別物


ダイキは少し微笑んだ。

ダイキ「それは、とても本質的な質問ですね」

ユウコ「本質的...?」

ダイキ「実は、『知性』と『社会的成功』は、必ずしも一致しないんです」

ユウコ「え...そうなんですか?」

ダイキ「例えば、創造的な知性を持つ人は、既存のルールに縛られることを嫌う傾向があります。だから、会社組織の中でうまくやっていくよりも、自分のペースで仕事をすることを好むかもしれません」

ユウコ「...あ」

ユウコの表情が変わった。

ユウコ「それ、前の彼氏がまさにそうでした。『会社の上司が馬鹿すぎて我慢できない』って言って、辞めちゃって」

ダイキ「そういうケースは多いですね。知性が高い人ほど、理不尽なことに敏感で、妥協することが苦手な場合があります」

ユウコ「でも、それって...生きづらいですよね。社会で生きていくには、ある程度の妥協も必要なのに」

ダイキ「そうですね。だから、ユウコさんが過去に惹かれた『面白い人』たちは、知性は高かったけれど、社会適応力という点では課題があったのかもしれません」

ユウコは深く考え込んだ。

ユウコ「そうか...私、『面白い=知性が高い=仕事ができるはず』って思い込んでたけど、そうじゃないんですね」

ダイキ「知性にもいろいろな種類があります。会話を面白くする知性、問題を解決する知性、人間関係を調整する知性、組織の中でうまくやっていく知性...」

ユウコ「なるほど...」

ダイキ「そして、どの知性を重視するかは、人それぞれです。ユウコさんは、『会話を面白くする知性』に魅力を感じてきた。でも、『組織の中でうまくやっていく知性』も、実は重要かもしれません」

ユウコは少し沈黙してから、ぽつりと言った。

ユウコ「じゃあ...職場の人は、後者の知性を持ってるってことですか?」

ダイキ「どうでしょうね。それは、ユウコさんが実際に向き合ってみないと分からないかもしれません」

マッチングアプリで出会った男性


ユウコは少し考え込んでから、別の話題を切り出した。

ユウコ「実は...職場の人とは別に、マッチングアプリで知り合った人がいるんです」

ダイキ「そうなんですね」

ユウコ「その人、めちゃくちゃ面白くて。メッセージのやり取りがすごく楽しいんです。会ったことは一度だけなんですけど、その時も、ずっと笑ってて」

ユウコの表情が、少し明るくなった。

ユウコ「でも...その人、仕事がちょっと不安定で。収入もそんなに高くないみたいで」

ダイキ「ユウコさんは、そのことが気になっていますか?」

ユウコ「正直、気になります。だって、将来のことを考えると...」

ユウコは言葉を濁した。

ユウコ「職場の人は、安定してるし、収入もいいし、将来を考えたら絶対にそっちのほうがいいって、頭では分かってるんです。でも、心がついていかないっていうか」

ダイキ「頭と心が違うことを言っている感じですか」

ユウコ「そうなんです! まさにそれです」

「理想」と「現実」の狭間で


ユウコは深くため息をついた。

ユウコ「友達に相談したら、『32歳なんだから、もう少し現実を見たほうがいい』って言われて。確かにそうなんですけど...」

ダイキ「ユウコさん自身は、どう感じていますか?」

ユウコ「分からないんです。自分でも、何が正しいのか。面白さを取るか、安定を取るか」

ダイキ「二者択一のように感じているんですね」

ユウコ「え...二者択一じゃないんですか?」

ダイキ「必ずしもそうとは限りません。でも、今のユウコさんにとっては、そう感じられているんですね」

ユウコはしばらく黙って考え込んだ。

ユウコ「...そうか。私、勝手に『面白い人=不安定』『真面目な人=つまらない』って決めつけてるのかも」

ダイキ「それについて、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」

過去の恋愛パターンを振り返る


ユウコは少し遠くを見るような目をした。

ユウコ「振り返ってみると...私、いつもこのパターンなんですよね」

ダイキ「どんなパターンですか?」

ユウコ「面白い人に惹かれる。でも、その人は大抵、仕事が不安定だったり、将来の計画が曖昧だったり。で、結局うまくいかなくて、別れる」

ユウコは少し自嘲的に笑った。

ユウコ「逆に、真面目で安定してる人からアプローチされても、なんかピンとこなくて。今回もそうです」

ダイキ「そのパターンに、ユウコさん自身は気づいていたんですね」

ユウコ「はい。だから、今回こそは違う選択をしたほうがいいのかなって思って。でも...」

ユウコは言葉に詰まった。

ダイキ「でも、心が動かない?」

ユウコ「...そうなんです」

「ユーモア」の奥にあるもの


ダイキはゆっくりと問いかけた。

ダイキ「ユウコさん、一つ質問してもいいですか。ユウコさんが『面白さ』に惹かれるのは、その『面白さ』そのものなのか、それとも、その『面白さ』の奥にある何かなのか、考えたことはありますか?」

ユウコ「面白さの奥にある何か...?」

ダイキ「さっき、ユウコさんは『知的な刺激』という言葉を使いましたよね。それって、単に笑えるということではなく、この人といると自分も成長できる、新しい世界が見える、そんな感覚ではないですか?」

ユウコはハッとした表情を浮かべた。

ユウコ「...あ」

ダイキは静かに待った。

ユウコ「そうか...私が求めてるのは、面白さそのものじゃなくて...」

ユウコはゆっくりと言葉を探した。

ユウコ「一緒にいて、退屈しない。新しいことを教えてくれる。視野を広げてくれる。そういう...刺激?」

ダイキ「そうかもしれませんね。そして、その刺激は、必ずしも『ユーモア』だけから得られるものではないかもしれません」

真面目な人=つまらない人?


ユウコは考え込んだ。

ユウコ「でも...職場の人は、本当につまらないんです。話していても、仕事の話とか、当たり障りのない話ばかりで」

ダイキ「もしかして、ユウコさんのほうが、その人と深い話をすることを避けていませんか?」

ユウコ「え...」

ダイキ「つまり、『この人はつまらない』という前提で接していると、本当はその人が持っている面白さや深さに気づけないこともあるんです」

ユウコは少し考えてから、静かに答えた。

ユウコ「...確かに、そうかもしれません。私、最初から『この人はつまらない』って決めつけてたかも」

ダイキ「それに、真面目な人が必ずしもつまらないわけではありませんよね。もしかしたら、その人なりの面白さや、深い思考があるかもしれない」

ユウコ「でも、どうやってそれを見つければいいんですか?」

ダイキ「まずは、先入観を少し横に置いて、その人のことをもっと知ろうとしてみることかもしれません。どんなことに興味があるのか、どんな価値観を持っているのか」

マッチングアプリの男性について、もう一度


ユウコは少し間を置いてから、切り出した。

ユウコ「でも...マッチングアプリの人は、本当に面白いんです。話していて楽しいし、一緒にいると時間を忘れるし」

ダイキ「それは素敵なことですね。でも、ユウコさんは、その人の『仕事が不安定』ということが気になっている」

ユウコ「はい...」

ダイキ「その不安定さって、具体的にはどういうことですか?」

ユウコ「う〜ん...フリーランスで働いてるみたいで。収入が安定してないって本人が言ってました」

ダイキ「それは、ユウコさんにとって、どんな不安につながりますか?」

ユウコ「将来、結婚とか考えたときに...やっぱり、経済的な不安があると、うまくいかないんじゃないかなって」

ダイキ「なるほど。では、その不安は、過去の経験から来ているものですか? それとも、周りの人の言葉から来ているものですか?」

ユウコは少し考えた。

ユウコ「...たぶん、両方です。前の彼氏も、フリーランスで。で、お金のことでよく喧嘩してました。あと、友達とか親とかも、『安定した人と結婚したほうがいい』ってよく言うので」

本当に恐れているもの


ユウコは長い間、黙っていた。そして、ゆっくりと口を開いた。

ユウコ「...先生、正直に言ってもいいですか」

ダイキ「もちろんです」

ユウコ「私...実は、安定した人と付き合うのが怖いんです」

ダイキは静かに頷いた。

ユウコ「前は、『面白い人がいい』とか、『刺激的な人生を送りたい』とか思ってました。でも、今日話してみて...本当は違うのかもって」

ユウコの目に、少し涙が浮かんだ。

ユウコ「安定した人と付き合ったら...私、つまらない人生を送ることになるんじゃないかって。平凡で、退屈で、何も変わらない毎日」

ダイキ「それは、ユウコさんにとって、どういう意味を持ちますか?」

ユウコは涙を拭いながら、少し笑った。

ユウコ「なんか...自分の可能性が狭まる気がするんです。『こんなものか』って、諦める人生になっちゃうんじゃないかって」

ダイキは静かに待った。

ユウコ「子どもの頃、いつも一人で本を読んでて。本の中の世界って、すごく自由で、冒険があって、ワクワクするじゃないですか。でも、現実は...」

ユウコは言葉を詰まらせた。

ユウコ「現実は、両親は仕事ばっかりで、家にはいなくて。誰もいない家で、一人でご飯食べて。それが、すごく寂しくて、つまらなくて」

ダイキ「だから、大人になったユウコさんは、『退屈しない人生』を強く求めているんですね」

ユウコ「...そうなんだと思います」

「安定」への恐れの正体


ダイキ「ユウコさん、一つ質問してもいいですか」

ユウコ「はい」

ダイキ「ユウコさんにとって、『安定』って、本当に『退屈』と同じ意味ですか?」

ユウコ「え...」

ダイキ「例えば、経済的に安定していても、知的に刺激的な関係を築くことは可能ですよね。安定した仕事に就いていても、週末に新しいことに挑戦したり、旅行したり、学んだりすることもできる」

ユウコ「...そうですね」

ダイキ「もしかしたら、ユウコさんが恐れているのは、『安定』そのものではなく、『成長が止まること』なのかもしれません」

ユウコはハッとした表情を浮かべた。

ユウコ「成長が止まること...」

ダイキ「そうです。ユウコさんは、一人でいた子ども時代、本を読んで想像力を育てて、成長してきた。だから、成長することが止まってしまうことを、何よりも恐れているのではないでしょうか」

ユウコの涙が、頬を伝って落ちた。

ユウコ「...そうです。それです」

ユウコは震える声で続けた。

ユウコ「私、止まりたくないんです。成長し続けたい。新しいことを学び続けたい。でも、『安定』って言葉を聞くと、なんか...そこで止まっちゃう気がして」

ダイキ「それは、とても大切な気づきですね」

ユウコ「でも...それって、間違ってますか? わがままですか?」

ダイキ「いいえ。成長し続けたいという欲求は、とても健全なものです。ただ...」

ダイキは少し間を置いた。

ダイキ「『安定』と『成長』は、対立するものではないかもしれません」

ユウコ「...え?」

ダイキ「実は、本当の成長には、安定した基盤が必要なんです。経済的な不安や、生活の不安定さに追われていると、深く学んだり、新しいことに挑戦したりする余裕がなくなってしまう」

ユウコは、じっと ダイキの言葉を聞いていた。

ダイキ「だから、安定した基盤があるからこそ、思い切って新しいことに挑戦できる。そういう考え方もあるんです」

ユウコ「...そうか」

ユウコは、ゆっくりとハンカチで涙を拭いた。

ユウコ「私、『安定=退屈』って、勝手に決めつけてました」

ダイキ「ユウコさん、一つ質問してもいいですか。もし、経済的な不安がなかったら、ユウコさんはどちらの人を選びますか?」

ユウコ「え...」

ユウコは驚いたような顔をした。

ユウコ「それは...」

長い沈黙が流れた。

ユウコ「...マッチングアプリの人、かな」

ダイキ「それは、どうしてですか?」

ユウコ「だって、一緒にいて楽しいから。この人となら、いろんなことができそうって思えるから」

ダイキ「『いろんなことができそう』というのは、具体的にはどんなことですか?」

ユウコ「う〜ん...旅行とか、新しい趣味とか。あと、その人、いろんなことに興味があって、話していると『それ面白そう!』って思えることが多くて。一緒にいたら、人生が楽しくなりそうだなって」

ユウコはそう言いながら、少し顔を赤らめた。

ユウコ「なんか、恥ずかしいですね。こんなこと言うの」

「安定」という名の不安


ダイキ「では、逆に、職場の人を選んだ場合、ユウコさんの人生はどうなると思いますか?」

ユウコ「...安定すると思います。経済的な不安はないし、周りからも『良い結婚だね』って言われると思うし」

ダイキ「それは、ユウコさんが本当に望んでいることですか?」

ユウコは長い間、黙っていた。

ユウコ「...分からないです」

ダイキ「分からない、というのは?」

ユウコ「本当は、自分が何を望んでいるのか、よく分からないんです。面白い人と一緒にいたい。でも、安定もほしい。両方ほしいって、贅沢ですよね」

ダイキ「贅沢だとは思いません。でも、今のユウコさんは、『面白さ』と『安定』を対立するものとして見ているように感じます」

ユウコ「...そうですね。完全に対立してると思ってました」

新しい視点


ダイキ「もしかしたら、その二つは、必ずしも対立しないかもしれません」

ユウコ「どういうことですか?」

ダイキ「例えば、フリーランスで働いていても、計画的に貯金している人もいますよね。逆に、安定した仕事に就いていても、浪費してお金が貯まらない人もいる」

ユウコ「...確かに」

ダイキ「つまり、『面白さ』と『経済的な安定』は、別々の軸で考えることもできるんです。面白い人が必ずしも不安定とは限らないし、真面目な人が必ずしもつまらないとも限らない」

ユウコはゆっくりと頷いた。

ユウコ「そうか...私、勝手に決めつけてたんですね」

ダイキ「それに、『安定』って、経済的な安定だけを指すわけではありません。一緒にいて心が安定するとか、信頼できるとか、そういう意味での安定もありますよね」

ユウコ「...そうですね」

自分の本当の気持ち


ダイキ「ユウコさん、もう一度聞いてもいいですか。ユウコさんが本当に求めているのは、何だと思いますか?」

ユウコは長い時間をかけて、ゆっくりと答えた。

ユウコ「...一緒にいて、成長できる人。刺激し合える人。そして、お互いを尊重し合える人」

ダイキ「それは、『面白さ』だけで測れるものですか?」

ユウコ「...いえ、違いますね」

ユウコは何かに気づいたような顔をした。

ユウコ「私、『面白さ』って言葉に囚われすぎてたのかも。本当に求めてたのは、もっと深いもの」

ダイキ「それはどんなものですか?」

ユウコ「...知的な繋がり、かな。お互いに興味を持ち合って、学び合えるような関係」

過去の自分を振り返る


ユウコは少し遠い目をした。

ユウコ「思い返してみると...子どもの頃、私が求めてたのも、それだったのかもしれません」

ダイキ「というと?」

ユウコ「さっき話した、両親があまり家にいなかったこと。それで、私、ずっと寂しかったんです。誰かと深く繋がりたいって、ずっと思ってて」

ユウコの目が少し潤んだ。

ユウコ「だから、面白い人に惹かれるのかも。一緒にいて退屈しない、深く繋がれる感じがするから」

ダイキ「それは、とても大切な気づきですね」

ユウコ「でも...それって、相手に求めすぎてるってことですよね。相手に、自分の寂しさを埋めてもらおうとしてるっていうか」

依存ではなく、対等な関係


ダイキ「必ずしもそうとは限りません。人と深く繋がりたいという欲求は、誰にでもあるものです。ただ、その繋がりが、一方的な依存ではなく、お互いに高め合える関係なら、それは健全なことだと思います」

ユウコ「お互いに高め合える関係...」

ダイキ「そうです。ユウコさんが相手から刺激を受けるだけでなく、ユウコさんも相手に刺激を与えられる。そういう対等な関係」

ユウコ「...私、相手に何かを与えられてるのかな」

ダイキ「それは、ユウコさん自身に聞いてみないと分かりませんね。ユウコさんは、自分にどんな魅力があると思いますか?」

ユウコは少し困ったような顔をした。

ユウコ「う〜ん...あんまり考えたことないです。自分の魅力って」

ダイキ「では、これを機に、少し考えてみるのもいいかもしれませんね」

これから、どうする?


ユウコは深呼吸をした。

ユウコ「今日、話してみて...ちょっと整理できた気がします」

ダイキ「どんなふうに整理できましたか?」

ユウコ「私が求めてるのは、『面白さ』じゃなくて、『知的な繋がり』だってこと。そして、それは、必ずしも一方的なものじゃなくて、お互いに高め合える関係だってこと」

ダイキ「そうですね」

ユウコ「で、職場の人に対しては、ちゃんと向き合ってなかったかもって気づきました。最初から決めつけてた」

ダイキ「それに気づけたのは、大きな一歩ですね」

ユウコ「マッチングアプリの人に対しても、『面白いけど不安定』って決めつけてました。でも、本当にそうなのか、ちゃんと話してみないと分からないですよね」

ダイキ「そうですね。大切なのは、先入観を持たずに、相手のことをもっと知ろうとすることかもしれません」

焦らずに、自分のペースで


ユウコ「でも...正直、まだ答えは出てないです。どっちを選ぶかとか、そういうの」

ダイキ「それでいいんですよ。今すぐ答えを出す必要はありません」

ユウコ「本当ですか?」

ダイキ「はい。大切なのは、ユウコさんが自分の気持ちと向き合うことです。焦って答えを出すのではなく、じっくりと考える時間を持つこと」

ユウコ「...そうですね。ありがとうございます」

ユウコは少しホッとした表情を浮かべた。

ユウコ「今日、来てよかったです。自分が何に囚われていたのか、少し分かった気がします」

カウンセリングを終えて


カウンセリングルームを出るとき、ユウコは振り返って言った。

ユウコ「あの...次回、また来てもいいですか?」

ダイキ「もちろんです。いつでもお待ちしています」

ユウコ「ありがとうございます。次は、自分の魅力について、もっと考えてきます」

そう言って、ユウコは明るい笑顔で手を振った。

ダイキは、その背中を見送りながら、ユウコがこれから自分の答えを見つけていくプロセスを、静かに見守ることを心に決めた。

エピローグ


2週間後、ユウコは再びカウンセリングルームを訪れた。

ユウコ「先生、報告があります」

ダイキ「どうぞ、聞かせてください」

ユウコ「職場の人と、もう一度ちゃんと話してみたんです。最初から『つまらない』って決めつけないで、もっと深い話をしてみようと思って」

ダイキ「それで、どうでしたか?」

ユウコ「驚きました。その人、実はすごく博学で、いろんなことを知ってて。ただ、私が興味を示さないから、そういう話をしなかっただけみたいで」

ユウコは少し照れくさそうに笑った。

ユウコ「私、相手をちゃんと見てなかったんだなって、反省しました」

ダイキ「それは大きな気づきですね」

ユウコ「でも...やっぱり、マッチングアプリの人のほうが、ドキドキするんです」

そう言って、ユウコは少し困ったような顔をした。

ユウコ「これって、どうしたらいいんでしょう」

ダイキ「それは、ユウコさんの心が、答えを教えてくれているのかもしれませんね」

ユウコ「...そうですね。もう少し、自分の気持ちと向き合ってみます」

【カウンセラーからのメッセージ】


ユーモアのある人に惹かれる。それは、単に「笑える」からではなく、その人の知性や創造性、柔軟な思考に惹かれているのかもしれません。

大切なのは、自分が何を求めているのかを理解すること。そして、先入観にとらわれずに、相手のことを深く知ろうとすることです。

パートナー選びに「正解」はありません。あなた自身が、心から一緒にいたいと思える人を選ぶこと。それが、一番大切なことです。



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