アカデミック考察(その13)囚人のジレンマとは?

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囚人のジレンマは、個人的に合理的な意思決定が寄せ詰められた結果、集団的に非合理的な帰結に陥る社会的状況を表します(鳥居と日髙、2020年)。しばしば個人の合理的行為や合理的な協調行動が必ずしも最適均衡をもたらさないという例を挙げる際に用いられますが、公共財のように非排除性があるサービスの提供で発生した場合、対価を支払わずに便益を享受する人を発生させるフリーライダー問題を引き起こすと言われています。本レポートでは、数値例を用いつつ、公共財の観点から、囚人のジレンマについて解説します。

囚人のジレンマが起きやすい例には、養殖ウナギがあります。海で獲ってきた稚魚(シラス)を養殖場で育てる養殖ウナギは、割り当てという形で資源の再分配を図っているものの、一部漁師が自粛を破り、たくさん稚魚を獲るという抜け駆けが後を絶たないことから、不漁が問題化しています。一方で、乱獲をする漁師を対象にした罰則が弱いために、抜け駆け行為が支配的戦略となり、恒常的な囚人のジレンマ状態に陥っているのです。これを踏まえ、山本(2016年)を例に、囚人のジレンマの数値例を考えます。

今回は、漁師という個人ではなく、X国とY国の2国間での事象をモデルケースとします。X国とY国は、A地域で2019年に合計90万トンのウナギの稚魚を獲り、資源不足が顕在化してしまいました。そうした中、両国で協定を締結し、2020年にA地域で稚魚を獲るのを止めると、2021年の漁獲可能量は120万トンになります。反対に、2020年に前年と同じ、A地域で90万トンを獲ると、2021年の漁獲量は0トンとなります。それでも、ウナギの漁場はA地域以外にもB地域があり、両国はB地域でも漁が可能とします。

こうした状況の中、X国とY国が協定を結び、2020年にA地域での漁を休業して2021年に操業した場合、2021年のX国とY国で均等に分けた後のそれぞれの漁獲可能量は60万トンとなります。これとは対照的に、X国とY国も協定を破り、2020年にA地域での漁獲可能量である90万トンを全部獲ってそれを均等に分けると、それぞれの漁獲量は45万トンであり、2021年の漁獲可能量はゼロとなります。

また、X国が協定を守って2020年に休業したのに、Y国が協定を破って操業した場合、Y国は2020年に漁獲可能量である90万トンを全て獲れますが、2021年のX国とY国の漁獲可能量は0トンとなります。逆に、Y国が協定を守って2020年に休業したのに、X国が協定を破って操業した場合、X国は漁獲可能量の90万トンを全て獲れますが、2021年のX国とY国の漁獲可能量は0トンとなります。これを表で表すと、下記のようになります。
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引用:自己作成
ウナギのような漁業資源は、対価を支払わなかった人でも消費ができる非排除性が高い反面、他の人が消費したら、消費可能な総量を減らしてしまう競合性を有することから、準公共財に分類されます。この上、仮定では、A地域とは別のB地域でウナギ漁業の操業ができるため、片方の国が対価を負担しないために、準公共財が消費できなくなる可能性が低いです。負担を逃れるメリットが大きく、両国が短期的な利益を優先した場合、2020年に互いに非協調的な行動を取り、漁獲可能量を分け合う形で45万トンを獲るのが、支配的戦略となります(大村、2019年)。この状態では囚人のジレンマに伴うフリーライダー問題を発生させており、準公共財の最適供給量を確保できない問題も同時に起き、最悪の場合は資源の絶滅を招いてしまいます。

逆に両国が、公共性を考えて行動した場合、協定を守り、2020年の操業を止める形となる。結果的に2年間での合計の漁獲量が最大となります。

抜け駆け行動の苛烈によってウナギが絶滅するなど、囚人のジレンマで、公共財が供給できないといった問題を起こさないためには、乱獲に対する罰則を強化するなど、抜け駆け行為を阻害するディスインセンティブを設ける必要があります。また、準公共財の供給で、情報の非対称性を無くす事も重要です。例えば、両国が2020年にA地域での操業を休業した場合に、2021年の資源可能量の総量が引き上がるといった予測を水産庁などが予測していれば、協定を破るなどの非協調行動は取りづらくなります。一般的に公共財の供給に対する需要は多様であり、情報共有ができていなければ、共通の目的である漁業資源の保全といった協調行動は難しいでしょう(吉永、2017年)。

以上により、囚人のジレンマは、個々の利己的な行動によってフリーライダー問題といった社会的に望ましくない状況を引き起こしますが、利己的行動を抑制するディスインセンティブや、公共財の供給における情報開示を徹底することで、未然に防げる問題であるとも考えます。

参考文献集
大村達弥『経済政策学』慶應義塾大学出版会、2019年、pp126-127
鳥居拓馬、日髙昇平「強化学習を戦略とする繰り返し囚人のジレンマのナッシュ均衡の数値的分析」『人工知能学会第34回全国大会論文集』、2020年、pp1-3
山本雅康「公共財についてゲーム理論による教材をもとにしたアクティブ・ラーニング」『AGORA』数研出版、2016年5月、pp5-7
吉永健治「公共財の供給コストと便益に関する考察ータダ乗りは協調行動の失敗の誘引となるー」『国際地域学研究』20巻、2017年、pp105-129
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