リカードの等価定理は、国債は現在の課税を将来に後ろ倒ししたものに過ぎないことから、一定の政府支出の財源調達を国債によるか租税によるかという選択は人々の消費に何らかの異なる影響を与えないということを意味しています(福田・照山、2011年)。別名で、国債の中立命題とも呼ばれます。
例えば、現時点で増税を行った場合、家計の可処分所得と貯蓄が減少しますが、その後も課税されないと仮定したら将来時点での可処分所得は一定です。一方、現時点で国債を発行した場合、家計の可処分所得は変わらず貯蓄は増えることから消費にプラス効果を及ぼすように見えるものの、結局、国債によって、将来の増税が発生することから、将来時点での可処分所得も減少します。つまり、現時点と将来時点で同じだけ消費が減少し、そこでは可処分所得に全く差が生じないことを表しているのです(福田・照山、2011年)。
なお、リカードの等価定理が成り立つ条件は、収入や所有の資産に関わりなく一定のままに個人の総額が課税される一括税があります。税が一括税ではなく、超過負担や厚生損失といった資源配分に歪みが生じる場合は、家計の消費行動は将来にわたって変化し、等価定理は成立しません。
また、現在と将来の課税パターンが同じであることも重要です。減税して公債を発行する、という場合、減税した人々から増税して償還するならば、等価定理は成立する。反対に特定の人々に重点的に減税などを行うと、等価定理は成り立たなくなります。
これらを踏まえ、リカードの等価定理の数値例を、バローの重複世代モデルを元に説明します(2014年、川越ら)。このモデルでは、親プレイヤーと子プレイヤーが存在し、親プレイヤーは第1期と第2期を生きます。子プレイヤーは第2期と第3期を生き、親プレイヤーが労働によって得た所得を、消費や貯蓄に振り分けられますが、今回の数値例の明示では、第1期と第2期を対象とします。
数値例は第1期と第2期の2期モデルで考えます。1期の場合は、下付き文字の1、2期目の場合は、下付きの2が表示されます。まず2期にわたる政府の予算制約を想定します。
政府の予算制約式
T1+B=G1……(a)
T2=G2+(1+r)*B……(b)
G1+G2 は一定の政府支出、T1とT2は第1期と第2期の税、Bは国債、rは利子率である。G1とG2が100になるように、ランダムの数字を以下のように割り当てます。
70+30=100…(c)
100=68.5+(1+0.05)*30…(d)
すると、いずれも両辺が100となり、均衡する。この状態で国債Bを消去しようとすると、下記のような流れになります。
(a)式をB=C(G1-T1)とし、(b)式に代入すると、
T2=G2+(1+r)*(G1-T1)
これに全体を1+rで割った上に、税と政府支出でそれぞれにまとめると、下記のようになります。
T1+T2/1+r=G1+G2/1+r…(e)
この式に(c)式と(d)式で求めた数字をそれぞれ代入すると下記のようになります。
70+100/1.05=100+68.5/1.05
173.5=173.5
つまり、2期にわたる政府の予算制約式では、収入である税と支出である政府支出が一致することがわかります。続いて、家計の予算制約式を求めます。2期にわたる家計の予算制約式は下記のように表されます。
Y1=C1+S+B+T1…(f)
Y2+(1+r)*(S+B)=C2+T2…(g)
Y1、Y2は2期にわたる一定の家計の所得、C1、C2は消費、Sは貯蓄です。これをYが200になるように、(d)式で出したT2を用いながら、ランダムに数字を割り当てます。
200=70+30+30+70…(h)
200+1.05*(30+30)=163+100…(i)
(h)式は両辺が200、(i)式は両辺が263となります。この状態で、国債と貯蓄を合わせた総貯蓄(S+B)を消去する。すると、下記のようになります。
Y1+Y2/1+r=C1+C2/1+r+T1+T2/1+r…(j)
なお、(j)は、(c)と(d)、(h)と(i)を用いて数値化すると、
200+237/1.05=70+200/1.05+70+100/1.05
447=447となります。つまり、2期にわたる家計の所得は、支出にあたる2期の消費と税の加算と等しいのです。
さらに、(e)式と(j)式に代入します。
Y1+Y2/1+r=C1+C2/1+r+G1+G2/1+r…(k)
この(k)式に、(c)式と(d)式、(h)式、(i)式で求めた値を代入します。
200+200/1.05=70+163/1.05+105+68.5/1.05
すると、410=410となります。つまり、2期の家計の所得は、支出にあたる2期の消費と政府支出を加算した値と相等するのです。これは、家計の消費と民間企業の投資、政府支出で構成される総需要の式(YD=C+I+G)とほぼ同じです(2009年、藤田)。
2期にわたって家計の総需要が消費と政府支出に均衡する式では、Y1、Y2、G1、G2は全て一定であるとともに、国債Bを増やす一方、T1を減らしたとしても、家計の予算制約式は不変です。これは家計が現在の国債発行が将来の増税につながることを合理的に予想して行動するためで、国債政策は家計の消費行動に影響を与えないことを意味します。
以上の数値例により、リカードの等価定理を説明できたと考えます。
参考文献集
川越敏司、小川一仁、佐々木俊一郎「第3章 リカードの中立命題」『実験マクロ経済学』東洋経済新報社、2014年、Kindleのロケーション225の45・20%から同21%
福田慎一・照山博司『マクロ経済学・入門』有斐閣アルマ、2011年、pp244-245
藤田康範『ビギナーズ マクロ経済学』ミネルヴァ書房、2009年、pp52-53
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