ホワイトデーのお返しは

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小説

※⑽ 過去に掲載したものを、改正して再投稿。【短編集より】



それまで男子校だったので

バレンタインとは無縁だった


もちろんいい訳だけど

卒業間近のバレンタインデー



いつものように学校帰りに駅を出ると

一人の女の子が近づいてきた


あの、これ


赤いリボンのパッケージ


なんで僕に


完全に舞い上がってる


・・なんてバカなこと訊いてるんだ


3年間毎朝見てました


朝はいつも同じ学校の連中と

同じ席でバカ話をしていた


不覚にも僕は彼女に見覚えがなかった


そ、そう、ありがとう


いままでずっと言えなかったけど 卒業までに思い切ってって 思って



もっと早く言ってくれれば良かったのに・・



それから駅のベンチに座り
しばらく話をして彼女の駅まで送って行った


彼女の家は僕より2つ手前の駅だった

僕が来るまでずっと待っていたんだ





別れ際 次の休みにデートの約束をした



それから毎週会うようになった


僕はもう免許を持っていたので

日曜日、オヤジの車を借りて
ドライブに出かけた


3月に入り
ホワイトデーに何を贈ればいいか迷っていた頃

卒業してからの進路について話した

東京の大学に行くと・・彼女は言った

「最後にいい思い出ができてよかった、ありがとう」



僕は地元に残る事になっていた




春休みが終わったらどうなるんだろう


そんな事を考えているうちに

3月14日がやってきた


日曜日じゃなかったけど

僕は彼女に会いに行った


彼女の家に電話をかけると
彼女の母親が出た

「今入学の準備で東京に行っているのよ」


いつ行くなんて聞いてなかった















結局
僕はホワイトデーのお返しを渡せないまま













それ以来彼女に会うことはなかった












彼女が最後に「ありがとう」って言ったのは

そういうことだったのか










彼女は遠距離なんて最初から考えてなかった




高校最後の思い出がほしかっただけだったんだろう
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