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小説
孤高の花Ⅰ
記事
小説
ツキノシヅク
2020/10/11 14:16
※⑻ 過去に掲載したものを、改正して再投稿。【短編集(シリーズ)より】
いつもの様に
爽やかな
朝だった。
5月の風は
肌に心地よかった。
マンションの
南に面した窓を
洋一は
大きく開いた。
東京近郊の
このマンションは
都内までJRの快速を使えば
40分程で着き
マンション周辺には緑も多く
家賃も
そんなには高額では無い事から
子育て中の
若い夫婦や
単身赴任の働き盛りのサラリーマン
老後を送る夫婦などに人気の
物件だった。
周辺には
ス‐パ‐マ‐ケットなどの
店舗も充実して
街全体が
新しく
明るく生き生きとしていた。
洋一は
今朝も街は
活動している事を
まるで
確かめるかの様に
身を乗り出して
辺りを見回してから
部屋に座っている
妹
典子に目をやった。
長い艶やかな髪を
淡いベ‐ジュ色の髪飾りで
纏(まと)め
その髪止めには
同じベ‐ジュ色の
光る石が
数個付いている。
その石に
朝の陽射しが
反射して
クロス貼りの壁に
小さな光る
水玉模様を
無数に
遊ばせていた。
壁に沿わせて
置いた
家具の上には
小さなポトスの
鉢があり
そのポトスの葉
一枚一枚の
上にも
光の水玉は
弾む様に
反射している。
透き通る様な
白い肌に
白のロングブラウスを着た
典子は
今も
テ‐ブルに
俯(うつむ)き加減に 向かい
洋一の淹れた
暖かな紅茶を
ゆっくりと
口に運んでいた
………
洋一は
安心した様に
ほんの少し
微笑んだ…
昨夜 遅くまで
妹 典子の
容体を心配し
長い時間を
掛け 妹を
説得したからだった。
典子は
いわゆる拒食症に かかり
165センチの 体は
40キロを切るまでになり
心配した洋一は
強く入院を
勧めたからだった。
典子は就職を
したばかりだったが
何気ない上司の
言葉に傷つき
職場の雰囲気にも
馴染めずに
退社したのだ。
妹 典子は
美しい女だった。
今まで 何人もの男が
その美しさに 惹かれ
近付いて来たが
嫌がる妹を
庇(かば)い
腕力の強い
兄 洋一が
何度となく
撃退したものだった。
小さな頃から
典子は
神経が細く
洋一の影に隠れ
何をするのにも
兄を頼っていた。
6歳年上の
兄洋一は
妹とは反対に
豪快な男だった。
185センチ
75キロ
の逞しい身体は
彫りの深い
美しい顔立ちで
陸上や武術で
鍛えた筋肉は
真っ白なワイシャツからも
肉体美が
容易に伺えた。
今にも折れそうな
細い指で
紅茶カップを持つ
妹を
見やりながら
洋一は典子に
明るく
声を かけた。
「典子 出掛け際に ゴミ捨てて行くから!」
「昼過ぎには帰るょ!
そしたら
車で 病院に行くょ いいね?」
典子は
返事をしなかった…
「じゃ 行ってくるょ 休んでいなさい」
洋一は慣れた
手つきで
ゴミ袋を持つと
マンション4階から
エレベーターを使わずに
外に面した
階段を軽い身の こなしで
降りて行った。
階下で同じ棟に 住む
若い夫婦に
出会った。
夫の方は
なかなかの
社交家で
いつもの様に
明るく
洋一に声を
掛けて来た。
傍には
生後一歳に満たない赤ん坊を
抱いた 妻もいた。
いつも 夫を
階下まで見送るのだ。
笑顔で 洋一が
赤ん坊に
声を かけた
瞬間だった……
ズヅンズッン! …!!!!
今まで聞いた事も無い
妙な 大きな音がした・・。
その音は
くぐもった様な
音だったが
まるで地中深くまで
届く様な…
大人達は
思わず目を
見合わせた…
が
次の瞬間に
洋一は 弾かれた様に
その音の方向に 走った!
若い夫も
慌てて後に
続いた
……
………!!
「…! の…のりこ!!」
あろう事か
妹 典子が
そこには
横たわっていた。
4階から
身投げしたのだ。
若い妻が
絶叫した。
典子の体は
見るも
無残な有り様だった・・。
『見るな‐!』
夫は妻と
我が子の傍に
駆け寄り
妻の頭を
自分の胸に
かき寄せた。
洋一は
顔面蒼白となり
ただ…
妹の傍に
呆然と
蹲(うずくま)って
しまった……
…………………
緑の植え込みに
典子の
髪飾りが
転がり
…
まだ
朝陽を反射させていた…
典子 23歳
早過ぎる
死 だった…
それでも
5月の空は
あくまでも
青色 一色に
澄み渡っていた。
遠くまで…
続く
#ストーリー
ツキノシヅク
絵描き/コミュニケーション×心理学/講師 / 40代後半 / 男性
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