―「分かっているのに遅い」子を責めないために―
WISCでとても大切なのが、ワーキングメモリと処理速度です。
ワーキングメモリとは、情報を一時的に覚え、それを頭の中で操作する力です。
たとえば、先生の指示を覚えながら作業する。
暗算する。
聞いた内容を保持しながらノートを書く。
複数の手順を頭の中で整理する。
こうした力に関わります。
処理速度は、単純な作業を素早く正確に行う力です。
プリントを時間内に終える。
板書を写す。
記号や文字を見分けて素早く処理する。
作業のスピードに関わる力です。
ギフテッドの子の中には、言語理解や推理の力は高いのに、ワーキングメモリや処理速度が相対的に低い子がいます。
このタイプは、学校で非常に誤解されやすいです。
難しいことは理解できる。
大人びた発言もする。
でも、板書が遅い。
計算ミスが多い。
指示を忘れる。
提出物が出せない。
テストで時間が足りない。
プリントが終わらない。
周囲はこう言います。
「頭はいいのに、なぜこんなことができないの」
「分かっているなら早くやりなさい」
「やる気がないのではないか」
でも、本人は本当に困っています。
頭の中では深く考えられているのに、作業のスピードが追いつかない。
考える力と出力する力に差がある。
そのため、学校生活の中で失敗体験が増えていきます。
ここで必要なのは、根性論ではありません。
環境調整です。
板書を全部写さなくてもよいようにする。
プリント量を調整する。
タイピングや音声入力を使う。
指示を紙に書いて渡す。
時間を長めに取る。
提出物を小さな段階に分ける。
チェックリストを使う。
私は、この領域のつまずきを「怠け」と見てはいけないと考えています。
これは、子どもの努力不足ではなく、力の出し方の問題です。
深く考えられる子ほど、単純作業の遅さとのギャップで苦しみます。
「自分はできるはずなのに、できない」
この自己否定が、不登校や学校嫌いにつながることもあります。
ギフテッドの子に必要なのは、速くやらせることだけではありません。
その子の高い思考力が、作業の遅さに埋もれないようにすることです。
できない部分を責めるより、力を出せる形に変える。
それが、支援の第一歩です。