「やりたいことがない」
「どこに就職したいか分からない」
「将来を考えなきゃいけないのに、やる気が出ない」
高校生や大学生から、こうした言葉を聞くことがあります。
大人はつい、「もっと真剣に考えなさい」「将来のことなんだから」と言いたくなるかもしれません。
でも、本当にその子たちは怠けているのでしょうか。
私は、そうは思いません。
今の若者は、選択肢が多すぎる時代を生きています。
大学、専門学校、就職、資格、留学、起業、フリーランス、AI、IT、SNS、動画、海外、安定した仕事、好きなことを仕事にする生き方。
選択肢が増えたことは、本来よいことです。
けれど、選択肢が多すぎると、人はかえって動けなくなります。
「どれを選んでも間違えるのではないか」
「自分だけ取り残されるのではないか」
「AIに仕事を奪われるのではないか」
「好きなことを仕事にできないなら、何を目指せばいいのか」
そんな不安の中で、進路を決めなければならないのです。
最近の高校生・大学生は、夢がないのではありません。
むしろ、現実をよく見ています。
物価は上がる。
将来の安定は見えにくい。
会社に入れば一生安心という時代でもない。
SNSを見れば、成功している同世代が目に入る。
「好きなことをやれ」と言われる一方で、「失敗するな」とも言われる。
その矛盾の中で、心が疲れてしまうのです。
やりたいことが見つからない理由は、本人の意欲が低いからだけではありません。
経験がまだ足りないこともあります。
自分の得意・不得意を言葉にできていないこともあります。
失敗を怖がりすぎて、試す前にあきらめていることもあります。
周囲の期待に合わせすぎて、自分の本音が分からなくなっていることもあります。
特にまじめな子ほど、「一生続けられる仕事」「間違いのない進路」を探そうとします。
でも、最初から完璧な答えを見つける必要はありません。
やりたいことは、頭の中で考え続けているだけでは見つかりにくいものです。
小さく試す中で見えてきます。
興味のある本を読む。
短期のアルバイトをする。
人に話を聞く。
ボランティアをする。
一日だけ職場見学をする。
好きなことを発信してみる。
AIを使って作品を作ってみる。
誰かの困りごとを手伝ってみる。
その小さな経験の中で、「これは苦手だ」「これは少し面白い」「この人たちと関わるのは楽しい」という感覚が見えてきます。
進路は、いきなり決めるものではありません。
少しずつ、自分を知っていくものです。
大人ができることは、「早く決めなさい」と急かすことではありません。
「何に少しでも心が動いた?」
「どんなことなら時間を忘れる?」
「逆に、これは嫌だと思ったことは?」
「どんな人と一緒にいると楽だった?」
そんな問いを一緒に考えることです。
やりたいことがない時期は、無駄ではありません。
自分の中にある違和感や不安を整理している時間かもしれません。
まだ出会っていない経験を待っている時間かもしれません。
だから、今すぐ夢がなくても大丈夫です。
大切なのは、止まったまま自分を責め続けることではありません。
小さく動き、小さく試し、小さく気づくことです。
高校生・大学生が「やりたいことがない」と言うとき、本当はこう言っているのかもしれません。
「失敗したくない」
「自分に合う場所が分からない」
「何を信じて選べばいいのか分からない」
「誰かに一緒に考えてほしい」
その声を、怠けとして片づけてはいけないと思います。
若者に必要なのは、説教ではありません。
安心して迷える時間と、伴走してくれる大人です。
やりたいことは、ある日突然、空から降ってくるものではありません。
人と出会い、経験を重ね、自分の感情を見つめる中で、少しずつ形になっていきます。
今、やりたいことがなくても大丈夫です。
あなたの中には、まだ言葉になっていない可能性があります。
その可能性を、一緒に探していけばいいのです。